書籍目録

『日本への旅』(『NIPPON』)

シーボルト / モントリー / フレシネ(訳)

『日本への旅』(『NIPPON』)

フランス語訳版本文第1巻、第5巻(既刊揃い) 1838年(第1巻)、1840年(第5巻) パリ刊

Siebold, Philipp Franz von / Montry, Albert de / Frassinet, Éd.(trs.)

VOYAGE AU JAPON, EXÉCUTÉ LES ANNÉES 1823 A 1830, DESCRIPTION PHYSIQUE, GÉOGRAPHIQUE ET HISTORIQUE DE L'EMPIRE JAPONAIS,...

Paris, Arthus Bertrand, 1838 (vol1) / 1840 (vol.5). <AB2025149>

In Preparation

Edition in French. 2 vols.(complete in text vols.)

8vo (13.5 cm x 21.0 cm), Vol.1: Half Title., Title., pp.[1], 2-354, 1 leaf. / Vol.5: Half Title., Title., pp.[1-3], 4-286, pp.1-55(plates.), Modern half green cloth on marble board.
旧蔵機関による押印あり。

Information

シーボルトの大著『NIPPON』の大変珍しいフランス語訳版

 本書は、シーボルトの主著『NIPPON』の大変珍しいフランス語訳版です。原著ドイツ語版の既刊部分から翻訳されたもので、本書とは別に図版集も刊行されていますが、テキスト編はこの2冊しか刊行されず未完に終わっています。フランス王室の援助を受けて刊行されたフランス語訳版は、図版、テキスト編ともに現存数が少ない稀覯書となっています。

 本書については、宮崎克則『シーボルト『NIPPON』の書誌学研究』(花乱社、2017年)の第4章で詳しく紹介、分析がなされており、本書を理解する上で大変参考になります(以下の解説でも同署を大いに参照しています)。ドイツ語の原著が『NIPPON』というシンプルなタイトルであったのに対して、フランス語訳版では『日本への旅』(Voyage au Japon)という、航海記、旅行記を思わせるやや異なったタイトルとなっています。原著『NIPPON』は約20年にもわたる分冊形式での刊行という異例の出版方式で刊行されていますが、このフランス語訳版も同じく分冊形式で刊行され、最終的にテキスト2巻(本書)、図版12分冊が刊行されました。このフランス語訳版はシーボルト公認の出版で、シーボルト自身の協力を得ながら進められたことが分かっており、その意味ではシーボルト自身によるもう一つの『NIPPON』というみなせる重要な作品といえます。

 フランス語訳版のテキストは当初全7巻構成となるはずでしたが、実際に刊行されたのはこの第1巻と第5巻のみでした。
「ドイツ語版本文のなかで、まとまっていた江戸参府の旅行記と挑戦についての部分が翻訳された。」
「フランス語訳版本文の第1巻第1章は4回配本。2章は1回配本、3・4章は5・6回配本、6章は8回配本である。朝鮮について記した第5巻も2・7・8回配本で配られている。つまりフランス語版の本文は、ドイツ語版の8回配本までに出た部分から訳している。」
(前掲書、94、95ページより)、

図版はこれらテキストとはあまり関連のないものが刊行されています。前掲書にしたがって、このテキストの目次をまとめますと下記のような構成となっています。

「第1巻
 第1章:バタヴィアから日本までの旅行
 第2章:平戸と出島、日本におけるオランダの商館
 第3章:通常行われている宮廷への旅行
 第4章:1826年の長崎から江戸への旅行
 第5章:長崎から小倉への旅行
 第6章:長崎から大村までの旅程の地理・統計

第5巻
 第1章:朝鮮人漁夫の肖像
 第2章:日本の沿岸に難破した朝鮮人商人との面会
 第3章:言語と文字
 第4章:語彙
 第5章:朝鮮の詩
 第6章:朝鮮に関する覚書
 第7章:韃靼國沿岸で難破して北京へ行き、そこから朝鮮を経て故郷に帰った日本の漁夫たちによる報告。日本の書物『朝鮮物語』からの抜粋
 第8章:朝鮮王国の制度、高官と廷臣
 第9章:朝鮮半島史総説
 第10章:日本の文献に基づく日本と朝鮮半島および中国との交渉
 第11章:日本の新羅遠征の伝説(西暦200年)
 第12章:類合。朝鮮語の訳語と朝鮮:中国方言の同等のもの【朝鮮漢字音】がつけられた中国語の語彙、J.ホフマンによる翻訳と改訂」
(同上)

 第5巻の後半部にはホフマンが校訂した『類合』がリトグラフ印刷で再現されたものが収録されています。このように、このフランス語訳版は原著『NIPPON』の一部分のみが翻訳されたものではありますが、テキストとは無関係に配本された図版編とは異なって、ある程度まとまった内容で構成されており、単独の著作としても十分理解できる内容となっているところに大きな意味があります。本書によって、フランス語圏の読者は本書によって、ある意味では原著ドイツ語圏の読者よりも、よりまとまった形で最新の日本情報と朝鮮情報を得ることができたと言うことができます。

 ドイツ語版と比べてより小型の標準的な八つ折り判で刊行されている本書には、それなりに上質な容姿が用いられており、本書を見る限りドイツ語版と比べて極端なコストカットが意図されているようには見受けられません。しかしながら、原著ドイツ語版の現存数が極めて少ないのと同様に、あるいはより一層このフランス語訳版は現存数が限られており、国内でも所蔵している期間はごくわずかに過ぎません。また、原著ドイツ語版と違って、このフランス語訳版は復刻版なども刊行されておらず、原本がないと参照できない作品でもあります。また、シーボルト自身が翻訳に協力したことにも鑑みると、本書は原著ドイツ語版と合わせて、入念な研究が必要とされる稀覯で重要な書物であると言えるでしょう。