書籍目録

『普遍史 現代部』第9巻

セール他編

『普遍史 現代部』第9巻

初版 1759年 ロンドン刊

(George Sale / George Psalmanazar / Archibald Bower / John Campbell...(compiler)

THE MODERN PART OF AN Universal History, FROM THE Earliest Accounts of TIME. Compiled from ORIGINAL WRITERS. By the AUTHORS of the ANTIENT PART. VOL. IX.

London, Printed for S. Richardson, T. Osborne, C. Hitch...and others, 1759. <AB2025142>

¥275,000

First edition

8vo (12.9 cm x 20.8 cm), Half Title., Title., pp.1-154, 455(i.e.155), 156-313, 14(i.e.314), 315-350, 513(i.e.351), 352-473, 744(474), 475-628, Contemporary brown leather.

Information

18世紀の「普遍史」記述における日本

 本書は、「普遍史(Universal History)」という、現代ではあまり聞きなれないタイトルを持つ作品の第9巻にあたるもので、1759年にロンドンで出版されています。普遍史とは、キリスト教圏における代表的な歴史観の一つで、元来は聖書に依拠して天地創造と人の歴史を記述したものです。聖書に書かれていることを、あらゆる地域、あらゆる時代をカバーするものとして理解し、聖書に基づいて「普遍的な」歴史を描こうとする試みで、中世以降の長い伝統を有しています。

 聖書に基づいて普遍的な歴史を描くという試みは、ルネサンスにおける、聖書よりも古い歴史を持つエジプトの「再発見」、大航海時代における「新大陸の発見」により、時間的にも空間的にも、それが「普遍的」であることを維持することに大きな危機を迎えながらも、修正を施しながら17世紀に入ってなお、その力を維持し続けていきます。しかしながら、イエズス会による中国布教の副産物として、聖書を圧倒的に遡る歴史を記した書物の存在とその記述の正確さがヨーロッパに17世紀半ばに伝えられると、普遍史は決定的な危機に瀕します。それ以降も普遍史を維持しようとする試みは懸命に続けられていきますが、18世紀に入ると次第にその世俗化は避け難くなっていき、聖書記述を普遍的真理として歴史を描くことから、時間的にも空間的にもあらゆる地域と人の歴史を網羅するという、百科全書的な歴史記述へと、その性格が徐々に変化していきます。

 本書は、こうした普遍史の世俗化が進んでいく時代を背景として、1730年にロンドンで刊行が始まった全65巻からなる長大な企画の一部分に当たります。編者には、コーランの最初の英訳を行なったことでも有名なイングランドの東洋学者セール(George Sale, 1697-1736)を中心として、架空の台湾をあたかも現実のそれかのように描くことに成功した『台湾誌(Historical and Geographical Description of Formasa... 1704)』の著者としても有名なサルマナザール(George Psalmanazar, ?-1763)、スコットランド出身の作家キャンベル(John Campbell, 1708 - 1775)など、錚々たる面々が集っています。

 この企画は、まず古代の部(Ancient Part)から刊行が開始され、1742年までに21巻を数えます。続く現代の部(Modern Part)は、1758年から1762年にかけて、全44巻が刊行されました。創世記に始まる西欧の伝統的な歴史記述を「古代の部」で網羅し、「現代の部」で描かれる世界のあらゆる地域と人の歴史と接合しようとする実に 18世紀らしい試みで、刊行後は、宗教的に保守的な立場からの様々な批判を浴びながらも人気を博し、イタリア語、フランス語、ドイツ語にも翻訳されています。特にドイツ語版は、のちに普遍史の解体とそれに代わる「世界史」への移行の第一歩を踏み出したガッテラー(Johann Christoph Gatter, 1727 - 1799)に間接的に影響を与えたとも言われています。

 本書は、1759年に刊行された現代部の第9巻となるもので、冒頭から169ページに至るまでの多くの紙幅を費やして、次のような構成で日本のことが紹介されています。

第1章:日本帝国について(pp.1-35)
第2章:日本の人々の才気、技芸、科学、交易、航海技術、生産物(pp.35-71)
第3章:日本の地理区分(pp.71-102)
第4章:日本の人々の起源、古代と歴史(pp.102-150)
補論:蝦夷の地とそこに属する島々についての記述(pp.150-162)
補論:公方の江戸から京都への壮大な更新(寛永行幸)(pp.162-169)

 ここでは、日本の起源と古代からの歴史の記述はもちろんのこと、地理的概況、産出物、宗教、統治機構、法律、技芸、学問、交易、航海技術、手工業などが網羅的に説明されています。その記述は、多くの先行文献を参照するだけでなく、長文を頻繁に直接引用しており、18世紀最大の日本研究書であるケンペル(Engelbert Kaempfer, 1651-1716)による『日本誌(The History of Japan. 1727)』は当然として、17世紀を代表する日本研究書の一つであるカロン(François Caron, 1600 - 1673)による『日本大王国誌(Beschryvinghe van het machtigh koningryk Japan. 1645)』のほか、イエズス会士による宣教報告書など多数の文献が駆使されています。本書に収録されている日本についての記述は、18世紀の英語圏における出版物に見られる日本関係記述としては、その量と質の双方において相当に充実したものとなっています。

 また、本書の後半には日本も含めた東インド諸国、諸地域とヨーロッパ諸国との交易の歴史が論じられており、東西交流史の基本的な記述を読むことができます。

 なお、この大部の「普遍史」シリーズは後年(1780年)から改定再版も出版されており、両版の間には巻構成にも大きな違いが見られることから、その記述の異同についての調査も重要なテーマの一つと言えるでしょう。