書籍目録

『日本のイラストレーション:日本における木版画と多色印刷の歴史』

ストレンジ

『日本のイラストレーション:日本における木版画と多色印刷の歴史』

初版 1897年 ロンドン刊

Strange, Edward F.

JAPANESE ILLUSTRATION: A HISTORY OF THE ARTS OF WOOD-CUTTING AND COLOUR PRINTING IN JAPAN.

London, George Bell and Sons.(printed by) Chiswick Press, MDCCCXCVII(1897). <AB2025138>

¥38,500

First edition

8vo (14.0 cm x 21.8 cm), pp.[i(Half Title.), ii], colored Front., pp.[iii(Title.)-vii], viii-xx, pp.[1], 2-155, Plates:[79], Original decorative cloth

Information

ヴィクトリア・アルバート美術館の浮世絵コレクションの構築に尽力した著者による豊富な図版を交えた解説書

本書は、サウス・ケンジントン美術館(現在のヴィクトリア&アルバート美術館)の浮世絵と和本のコレクション構築に尽力し、同館の副館長も務めたストレンジ(Edward Fairbrother Strange, 1862 – 1929)が1897年にロンドンで出版した日本木版美術を多数の図版と共に紹介した作品です。

ストレンジは現在ではあまりその名が知られていませんが、19世紀末から20世紀初めにかけてのイギリスにおける日本美術、特に浮世絵についての研究家ヴィクトリア・アルバート美術館の日本美術収集のキュレーターとして多大な貢献を成した人物で、本書の他にも下記のような日本美術に関する著作を刊行しています。

・『日本の芸術:サウスケンジントン国立芸術図書館所蔵日本書籍と彩色版画帳目録』(Japanese art: I. Japanese books and albums of prints in colour in the National art library South Kensington, 1893)
・『日本の多色刷木版画』(The Color-Prints of Japan. London: A. Siegle, 1904)
・『北斎』(Hokusai. London: A Sieg.e, 1906)
・『日本の漆塗工芸』(Catalogue of Japanese Lacquer. London: HMS Office, 1924-1925.)
・『広重の多色刷り木版画』(The Color-Prints of Hiroshige. London: Cassel, 1925.)

上記の著作のうち『日本の多色刷木版画』と思われる作品は戦前にその一部が邦訳されており、ストレンジについて訳者は次のように紹介しています。

「エドワード・ストレンジ氏は英国食糧省の一官吏を勤め、兼ねてロンドン・サウスケンジングトン博物館の副館長として、『ハームスウヮース蒐集』として知られる莫大な浮世絵版画蒐集を監掌していた人である。夙に『日本の挿絵』の著もあり、エッチングなど広く西欧版画にも興味をもち、その方の研究にもまた造詣深く、またウースター伽藍の年に生まれた人だけあって、美術全体についても並ならぬ素養を積んでいるらしい。『版画小史』は主としてそのハームスウヮース蒐集につき、親しく時代的に研究し、傍ら日本側の伝記文書を参照したものである。その見如何にも穏健著実、殊に一々実際の作品そのものについて断案を下しているのは頼もしい。」
(E.フェノロサ / E.F.ストレンジ / A.モリソン / 平田禿木(編訳)『西人の「浮世絵観』七丈書院、1942年、2,3ページより)

 本書は上記の著作のうち、自身が勤めていたサウスケンジントン国立芸術図書館の和本、画帖目録に続いて刊行されたもので、浮世絵版画を中心とする日本の木版画芸術について本格的に紹介した力作です。ストレンジの日本の木版画研究は、大英図書館と並ぶ、というよりもむしろ同館に先駆けて精力的な収集活動を行っていたサウスケンジントン美術館のコレクションを最大限に活用したもので、その収集に際して最も大きな貢献を成したストレンジが培ってきた知見が本書では遺憾無く発揮されています。

 ストレンジは序文でイギリスを中心とした西洋社会における日本の木版画芸術に対する関心の高まりとその意義を歴史とともに振り返っており、18世紀末に3度も長崎のオランダ商館長を務め、数多くの和本と木版画を帰国の際に持ち帰ったティツィング(Isaac Titsingh, 1745 – 1812)を、ヨーロッパにおける日本の木版画コレクターの嚆矢として挙げています。また、1862年のロンドン万博で日本の美術品が大々的に展示されたことの意義や、ヨーロッパでは中世には存在していた芸術と工芸の結びつきをルネサンス以降は喪失してしまったこと、その喪失を取り戻す試みが近年に行われ、日本の木版画芸術はその模範として進むべきを私たちに教えてくれている旨を述べています。さらに本書の執筆に際して、 海軍のお雇外国人として1873年に来日し1880年までの6年余りを日本で過ごしたイギリス人医師で、大英博物館に膨大な浮世絵コレクションを提供し、その整理と研究に尽力したアンダーソン(William Anderson, 1842 - 1900)が1886年から多大な援助を受けたことに謝意を記しています。

 また、本書を印刷しているのは、その高い技術と美しい紙面構成で定評のあるチズウィック・プレス(Chiswick Press)で、同社は同じ出版社から1895年に刊行された『ポスター絵画』(Charles Hiatt. Picture posters: A short history of the illustrated placard, with many reproductions of the most artistic examples in all countries. London: George Bell and Sons, 1895)の印刷も手がけており、いずれもシンプルで美しい装丁と、なによりも多数の高精度の図版を収録しているという共通点があります。本書には口絵も含めると80枚もの複製図版が収録されており、そのうち彩色が施されている図版も多数含まれています。書物それ自体が美しくあることを意識して製作されていることが見て取れ、しかも多くの人が手にしうる価格に収まるよう標準的な八つ折本で刊行されていることに大きな特徴がみられます。

 本書はよく読まれたようで、1904年位はやや装丁を変更して第二版も刊行されており、当時の欧米諸国で大きな影響力を与えたのではないかと思われます。また、本書は同時代の日本でも注目されたようで、例えば京都府立図書館には熱心に読み込んだ形跡のある第二版が所蔵されています。


「イギリスの浮世絵研究者として著名なストレンジによる浮世絵論。1896年に刊行された初版に続く、第2版(1904年)となる増補改訂版である。著者はいくトリア・アルバート美術館員で、日本の古美術に精通し、ロンドン日本協会(Japan Society)の会員でもあったからか、本書はロンドン日本協会の名誉総裁、加藤高明に捧げられている(初版にはそのような献辞はない:引用者)。西洋、特にイギリスにおける日本の浮世絵受容の歴史と先行研究の紹介が冒頭にあり、イギリスにおけるジャポニスムの歴史と当時の現状を知ることができる。本文では、浮世絵の歴史と特徴がその年代、絵師と流派、地域、主題によって分類されながら丁寧に解説され、白黒図版に加えて多彩色石版画で再現された複製の浮世絵作品図版も収録されている。当館所蔵本は、明治37年の購入印と大黒屋のラベルがあることから、刊行されてすぐに購入した一冊と言える。時折本文中に日本語の書き込みが見られ、一部の彩色図版に欠損もあることから、当時の図書館利用者の関心を大いに引いたことも窺える。」
(京都府立図書館『100年前の京都インバウンド』2025年、10ページより)