書籍目録

『日本の芸術:サウスケンジントン国立芸術図書館が所蔵する日本の書物と彩色版画帳(目録)』

英国教育評議委員会科学・芸術部門 / ストレンジ

『日本の芸術:サウスケンジントン国立芸術図書館が所蔵する日本の書物と彩色版画帳(目録)』

1893年 ロンドン刊

Department of Science & Art of the Committee of Council on Education / Strange, Edward Fairbrother.

JAPANESE ART: I. JAPANESE BOOKS AND ALBUMS OF PRINTS IN COLOUR IN THE NATIONAL ART LIBRARY SOUTH KENSINGTON.

London, (Printed for ) Her Majesty’s Stationary Office (By) Eyre and Spottiswoode, 1893. <AB2025137>

In Preparation

8vo (13.5 cm x 21.3 cm), pp.[1(Title.)-7], 8-94, 1 leaf(blank), Original paper wrappers, back cover detached
刊行当時の簡易紙装丁で表紙にはかなり傷みが見られ、裏表紙は本体から外れてしまっている状態。テキスト本体は比較的良好な状態。

Information

大英博物館のコレクションと並ぶ二大コレクションを具に記録した目録

 本書は、サウス・ケンジントン国立芸術図書館、つまり現在のヴィクトリア&アルバート美術館に所蔵されている日本の書物と浮世絵の目録で、英国教育評議委員会の科学、芸術部門(Department of Science & Art of the Committee of Council on Education)によって1893年に公文書として出版されたものです。著書は、同館の浮世絵と和本のコレクション構築に尽力し、同館の副館長も務めたストレンジ(Edward Fairbrother Strange, 1862 – 1929)で、この目録は当時のイギリスにおける浮世絵や和本といった木版印刷物を中心としたコレクションがどのようなものであったのかを伝えてくれる大変貴重な目録です。

 ストレンジは現在ではあまりその名が知られていませんが、19世紀末から20世紀初めにかけてのイギリスにおける日本美術、特に浮世絵についての研究家ヴィクトリア・アルバート美術館の日本美術収集のキュレーターとして多大な貢献を成した人物で、本書の他にも下記のような日本美術に関する著作を刊行しています。

・『日本の挿絵』(Japanese Illustration. London: George Bell and Son, 1896)
・『日本の多色刷木版画』(The Color-Prints of Japan. London: A. Siegle, 1904)
・『北斎』(Hokusai. London: A Sieg.e, 1906)
・『日本の漆塗工芸』(Catalogue of Japanese Lacquer. London: HMS Office, 1924-1925.)
・『広重の多色刷り木版画』(The Color-Prints of Hiroshige. London: Cassel, 1925.)

上記の著作のうち『日本の多色刷木版画』と思われる作品は戦前にその一部が邦訳されており、ストレンジについて訳者は次のように紹介しています。

「エドワード・ストレンジ氏は英国食糧省の一官吏を勤め、兼ねてロンドン・サウスケンジングトン博物館の副館長として、『ハームスウヮース蒐集』として知られる莫大な浮世絵版画蒐集を監掌していた人である。夙に『日本の挿絵』の著もあり、エッチングなど広く西欧版画にも興味をもち、その方の研究にもまた造詣深く、またウースター伽藍の年に生まれた人だけあって、美術全体についても並ならぬ素養を積んでいるらしい。『版画小史』は主としてそのハームスウヮース蒐集につき、親しく時代的に研究し、傍ら日本側の伝記文書を参照したものである。その見如何にも穏健著実、殊に一々実際の作品そのものについて断案を下しているのは頼もしい。」
(E.フェノロサ / E.F.ストレンジ / A.モリソン / 平田禿木(編訳)『西人の「浮世絵観』七丈書院、1942年、2,3ページより)

 ストレンジは序論において、この目録は芸術家、デザイナー、そして学生が同館に所蔵されている資料を最大限活用するために、どのような資料が収録しているのかを伝え、そのアクセスを容易にすることであると述べています。浮世絵や和本の挿絵を、美術工芸品製作におけるデザイン上の重要な参考量とするという、特に実用的な視点を重視する傾向はイギリスにおけるジャポニスムにおいて特に顕著な特徴で、その背景には、19世紀半ばに工業技術については世界的に圧倒的な優位性を持ちながらも、デザイン面において他国に対して著しく劣っていることを痛感していたイギリスが日本美術にその打開策を見出そうとしたという歴史的事情がありました。

「V&A(ヴィクトリア&アルバート博物館のこと:引用者注)は、英国における最大の工芸博物館である。日本人にとっては、あまりなじみがないため、大英博物館と肩を並べる規模の博物館であると言うと驚かれることが多い。歴史は、それほど古くはなく、1852年設立、57年に現在のサウスケンジントンに移ってサウスケンジントン博物館となり、1899年に現在の名称となった。ヴィクトリア朝時代における世界の工芸品とデザインが収集の中心であるが、これは1851年に開催されたロンドン万国博覧会で得られた収益と工芸品が元になっているからで、そのデザインが英国のデザイナーやアーティストの参考となり、創作活動に寄与することを目指したものという。V&Aの東アジア部門にある浮世絵のコレクションの収集についても同様の目的があり、1908年にV&Aが出した『日本の版画』(エドワード・ストレンジ著)では、V&Aのコレクションを指して「デザイナーや職人、日本の応用美術を学ぶ学生にとって非常に実用性があり」「人々に活用されるコレクションとして価値が高い」と評している。この点では、骨董 / 美術品としての美術史的な価値を求めて収集された他の大規模なコレクションとの大きな相違を示している。
 V&Aは、浮世絵の収蔵数では世界で4番目の規模を誇る。その数は、大英博物館の2倍をはるかに超えており、この事実は日本では、ほとんど知られていなかった。2007年5月から1年間に亙り、「初公開 浮世絵名品展」という展覧会が大田記念美術館をかわきりに、石川県、山口県、愛知県、兵庫県、福島県と巡回していたので、観覧した方もおられると思うが、その規模と価値については、この展覧会を見てもそれほど認識できなかったかもしれない。収蔵数は、公式には約25,000点とされているが、実枚数では38,000枚を超えており、V&Aの東アジアコレクション全体の2分の1にも及ぼうとする数である。(中略)
 V&Aでは、1852年の博物館設立後、1886年にイギリス人のディーラー、S.M.フランクから12,000点に及ぶ昨品が購入されたという記録がある。」
(赤間亮「英国V&A博物館とスコットランド国立博物館所蔵浮世絵のデジタルアーカイブ」『アート・ドキュメンテーション研究』第16巻、2009年所収論文より)

 イギリスにおける19世紀に構築された浮世絵、和本のコレクションとしては、1873年に来日し1880年までの6年余りを日本で過ごしたイギリス人医師のアンダーソン(William Anderson, 1842 - 1900)が蒐集したコレクションを基礎にした大英図書館ののコレクションと、ストレンジがその構築に尽力したサウスケンジントン博物館のコレクションが最大のものです。いずれも近年になって里帰り展が行われ、また近く行われる予定があり、貴重なコレクションとして高く評価されているものですが、大英博物館のコレクション構築におけるアンダーソンの貢献の再評価が近年進みつつあるのに対して、ストレンジの名が現在知られることはほとんどないことは非常に残念なことです。

 この目録には挿絵や図版は含まれていませんが、掲載資料それぞれにつき、できる限り正確な著者とタイトルをローマ字の日本語表記でも記載するように留意されており、具体的に作品名を特定しやすい記載法となっています。これらの中には現代の視点から見るとあるいは誤りが含まれているかもしれませんが、当時のストレンジの研究水準を表すものとして、また収蔵資料を特定するための重要なヒントとして大いに資料的価値があるのではないかと思われます。

「ヴィクトリア アンド アルバート美術館(当時知られていた名では、サウスケンジントン美術館)は、1851年にロンドンで開催された万国博覧会の収益で設立された。美術館の本来の趣旨の一つとして、英国のデザイナーと芸術家にインスピレーションを提供することとあり、浮世絵が最初に評価され展示されたのは確実にこの趣旨に基づいている。コレクションに関わった最初の重要人物は、1889年に美術館に携わるようになったエドワード・ストレンジである。1897年に出版されたストレンジ著『日本の挿絵』の序章で、彼は日本の版画がアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックなどヨーロッパの現代ポスターデザイナーたちに影響を与えたと賞賛している。1908年に彼が書いたヴィクトリア アンド アルバート美術館の小冊子『日本の版画』では、当館コレクションの大半の作品は19世紀の作品であり、「デザイナーや職人、日本の応用美術を学ぶ学生にとって非常に実用性があるので」、このコレクションは「人々に活用されるコレクションとして価値が高い」と断言している。実際に、日本の版画に使われる道具や技術を紹介する展示が早くも1913年には完成した。しかしながら、全体的にみるとストレンジ氏の後継者たちはこのコレクションに対し、より歴史的観点を重んじるようになっていった。これは、美術館全体で何を重要視するかが変わってきたことによるものであった。」
(キャサリン・ディヴィッド「ヴィクトリア アンド アルバート美術館と浮世絵」永田生慈(監修)『ヴィクトリア アンド アルバート美術館所蔵 初公開 浮世絵名品展』2007年所収、10,11ページより)