書籍目録

『日本の美術概観』

ジャービス

『日本の美術概観』

1876年 ニューヨーク刊

Jarves, James Jackson.

New York, Hurd and Houghton, 1876. <AB2025132>

¥38,500

8vo (12.0 cm x 18.5 cm), 1 leaf(blank), 2(duplicated) Front. leaves(Plate No. I), Title., 1 leaf, pp.[1], 2-216, 29 numbered Plates: [No.II-XXX], Original decorative cloth.
刊行当時の装丁で図版も完備しており良好な状態。

Information

アメリカでいち早く日本美術を解説し、当時西洋諸国で広く読まれた重要作品

 本書はアメリカでジャーナリスト、美術品蒐集家として知られるジャービス(James Jackson Jarves, 1818 - 1888)による日本美術紹介で、1876年にニューヨークで刊行されています。浮世絵をはじめとする日本美術への関心が西洋社会で熱狂的に高まっていた時期に刊行された本書は、日本美術をいち早く本格的に論じた英語著作として広く読まれたことが知られている作品です。

 ジャービスは1840年代にハワイで新聞記者、雑誌編集者として活躍し、その後フィレンツェに移住して同地でアメリカ領事の任に従事する傍ら、イタリア絵画をはじめとする美術品を熱心に蒐集、研究しました。このコレクションはのちにイエール大学が買い取るところとなり、現在ではアメリカで最初の本格的なイタリア美術コレクションとして高く評価されています。アメリカの読者に向けて西洋美術の解説書や解説記事の執筆にも取り組み、『芸術のヒント:建築、彫刻、そして絵画』(Art hints: Architecture, sculpture, and painting. New York, 1855)、『芸術研究:イタリアの「巨匠たち」とその絵画』(Art studies: The "Old Masters" of Italy and painting. New York, 1861)などの多数の著書を刊行しています。

 ジャービスは日本に来日したことはなく、彼がいつどのようにして日本美術に関心を持ったのかについては不明ですが、本書を著すために数多くの先行文献を読み込んだようで、本書は日本美術そのものの解説だけでなく、その社会的背景や歴史、文化についても詳しく言及しており、美術を通して日本のことそれ自体を理解できるように書かれています。本書は日本の芸術について下記のような全5章構成をとって、さらに各章は非常に細かなトピックごとに分けて論じられています。

第1章:日本の芸術の心理的、物質的な基盤と歴史的起源 (pp.13-47)
第2章:日本の宗教芸術:その神々、神話、英雄たち (pp.48-99)
第3章:日本の文学と詩 (pp.100-126)
第4章:日本の芸術家たちが置かれている生活条件とその作品 (pp.100-166)
第5章:日本の装飾芸術:その諸原則、規則、事例等々 (pp.167-211)

 序文でジャービスは、本書は日本の芸術の概要を簡潔に読者に伝えようとするもので、日本美術の細かな歴史や流派、年代特定、落款の鑑定といった専門的な細目を論じるものではないと述べています。こうしたトピックは大変有用で重要であるが、その本格的な分析には日中両国語に通じ無数の資料を読解する必要があるし、批評家にとってより一層重要なことは、何が論じようとする芸術の性質であって、それこそが喜びをもたらすものだと言います。とはいえ、上記の目次立てを見てもわかるように、これだけの内容のテキストを執筆するには、日本美術についての見識だけでなく、日本の歴史や文化についての総合的な知見が必要とされると思われ、ジャービスがどのようにしてこうした知見を得ていったのか、またそのきっかけはなんだったのかということは大変興味深い点です。

 また、本書に北斎をはじめとする絵本からとった挿絵が図版として本文中に多数収録されており豪華な彩色図版ではないものの、解説を読みながら具体的に作品を見ることができる機会を広く提供したことは、当時の読者に大きな影響を与えたのではないかと思われます。

 本書は西洋における日本美術の本格的な紹介書としては、比較的早い時期の作品で、また当時アメリカを中心として英語圏で広く読まれた作品として知られているにも関わらず、これまでその内容やジャービスについての紹介や研究はあまりなされていないようです。ハワイでジャーナリストとして活躍し、アメリカで最初のイタリア美術の蒐集家として活躍し、アメリカの読者に西洋美術と日本美術を紹介すべく精力的に活動し続けたというユニークな経歴を持つジャービスによる本書は、改めて再評価がなされるべきではないでしょうか。


「1870年代の出版物として特記に値するものは、日本の芸術の特徴を記述しようという試みである。アメリカの美術評論家ジェイムズ・ジャクソン・ジャーヴィスは専門家の立場から、かなり成功を収めた。この1876年刊行の『日本美術瞥見』が、アメリカのみならずヨーロッパにも広く読まれた日本美術論の底本の一つとなったことは記憶に値する。」
(馬渕明子『ジャポニスム:幻想の日本』筑摩書房、2025年、16ページより)