書籍目録

『ピクチャレスク・ツーリスト:ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、インド、中国、そして日本を旅するための世界周遊のハンディガイド』

ホール

『ピクチャレスク・ツーリスト:ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、インド、中国、そして日本を旅するための世界周遊のハンディガイド』

1877年 ニューヨーク刊

Hall, E. Hepple.

THE PICTURESQUE TOURIST. A HANDY GUIDE ROUND THE WORLD. FOR THE USE OF ALL TRAVELLERS BETWEEN EUROPE, AMERICA, AUSTRALIA, INDIA, CHINA, AND JAPAN.

New York, American News Company, 1877. <AB2025125>

¥33,000

12.0 cm x 18.5 cm, 2 leaves(advertisements), Front., pp.[i(Title.)-iii], iv-viii, pp.[1], 2-196, pp.i-xviii(advertisements), folded maps: [5], plate(without paged): [1], folded plates [1], Contemporary paper wrappers, roughly repaired.
当時の所有者によるものと思われるクロスによる背の補強と紙装丁が施されているが、あまり状態は良くなく端部に破れ、欠損が見られる。

Information

「世界一周旅行」のための絵入りハンディガイドブック

 本書は1877年にニューヨークで刊行された「世界周遊」のための英文ガイドブックです。当時、アメリカ大陸横断鉄道と国際汽船航路の接続により、世界一周旅行を楽しむことが可能になったことを受けて、グローブトロッターと呼ばれる世界周遊旅行者が急増しつつありましたが、そうしたニーズに応えるための手軽なガイドブックとして刊行されたものと思われます。

 著者についての詳細は不明ですが、タイトルページに記されているようにアメリカ国内旅行についてのガイドブックをすでに何冊も手がけていたようで、主にイギリス、アメリカの旅行者を対象としたガイドブック執筆者として活躍していた人物であったことがうかがえます。本書の構成は、ロンドンを出発してリバプールからアメリカ東海岸へと渡り、そこからアメリカ大陸を横断して、サンフランシスコから太平洋を渡り、オーストラリア、日本、中国、インドを周遊するというルートに沿った記述となっています。この構成から分かるように、「世界周遊」とはいうもののヨーロッパや中東といった地域は除外されており、これらの地域よりも旅行者が訪れることがそれまで難しかったであろう地域を対象としています。主要都市の簡単な紹介と見所、各都市間の距離、移動手段といった旅行者にとって必須の基本情報をコンパクトにまとめた「ハンディガイド」として実用性の高い1冊となっているように見受けられます。

 また、本書の内容を象徴するとも言える折込の世界地図では、鉄道と汽船によって世界が結び付けられている様子を一望できるようになっていて、読者に具体的に世界一周旅行のイメージを持たせることを可能にしています。「ピクチャレスク」と謳うだけあって、本文随所に挿絵や地図を導入することによって旅情を誘う内容となっていることも本書の大きな特徴の一つです。さらには、冒頭と巻末には鉄道会社や汽船会社の広告が掲載されており、当時の旅行者を対象とした企業の活動や、旅行用品がどのようなものであったのかも垣間見せてくれます。これらの広告には、岩倉使節団が宿泊に用いたサンフランシスコにあるグランドホテルの広告が含まれているなど、興味深い広告が多数掲載されています。

 日本については、本書の中で唯一の折り込み図版を用いて「江戸」(Yedo)の街並みを描いた挿絵を採用し、開校地であった横浜を筆頭にして、江戸、函館、長崎、大阪、神戸がそれぞれ簡単に紹介される内容となっています。ここでの紹介は実際の旅行中に役立つような情報というよりも、日本を旅行することのイメージを読者にわかせることを主眼に置いているようで、情報量が多い記事とはなっていませんが、当時の一般的な旅行者がどのような事前情報を持った上で旅行を計画していたのかが伺えます。

 本書刊行当時には、すでに「ベデカー」や「マレー」といった旅行ガイドブックが世界各国、地域を対象として数多く刊行されていましたが、本書は「世界周遊」という当時の流行現象に焦点を当てたユニークなガイドブックで、当時の世相を反映した象徴的な書物ということができそうです。本書刊行の5年前(1872年)には、ジュール・ベルヌによる『80日間世界一周』が爆発的な人気を誇り、またトーマス・クック社による世界一周ツアーが開始されるなど「世界周遊」熱が西洋社会で大いに盛り上がった時期でしたので、本書はこうした雰囲気を鋭敏に察知した「ハンディガイド」であったと言えるでしょう。

 本書は読み込まれ、使い込まれることが前提となっているジャンルの作品だけに、本書は表紙やページの余白部などにかなりの傷みが見られますが、本文や図版、地図は問題なく現存しており、当時の時代の雰囲気を伝える貴重な1冊となっています。

読み込まれ、使い込まれることが前提となっているジャンルの作品だけに、本書は表紙やページの余白部などにかなりの傷みが見られる。
口絵とタイトルページ。
イギリスからアメリカへと渡る主要港であったリバプール港の様子を描いている。
目次
目次の続きと本書収録図版リスト
収録地図や広告のリストもある。
本文冒頭箇所
本書の内容を象徴するとも言える折込の世界地図では、鉄道と汽船によって世界が結び付けられている様子を一望できるようになっている。
ニューヨークの地図
「ピクチャレスク」と謳うだけあって、本文随所に挿絵や地図を導入することによって旅情を誘う内容となっていることも本書の大きな特徴の一つ。
岩倉使節団が滞在に用いたことでも知られるサンフランシスコのグランドホテル。
オーストラリアとその周辺地域の紹介記事冒頭箇所。
日本についての紹介記事冒頭箇所。日本の玄関口である横浜の紹介から始まっている。
本書で唯一の折り込み図版として、江戸の街を描いたという図版が収録されている(ただし、とても実際に当時の江戸(東京)を描いたようには思われないが)。
中国に関する記事冒頭箇所。
巻末の補遺では汽船や鉄道のルートといった実用的な情報がコンパクトにまとめられている。
サンフランシスコから太平洋を横断して日本、中国へと渡る航路の紹介
当時を代表する汽船会社であったP&O社の航路を示した地図
大西洋航路を運行していたRoyal Mail Steam Packet社の航路を示した地図
荷物の重要や子供のチケットののことなどといった細かな(けれども重要な)事項もまとめられている。
さらに巻末にはホテルや汽船会社、旅行用品を扱う会社の広告が掲載されている。