書籍目録

「(ジョンソンによる)日本図:本州、九州、四国、蝦夷、ならびに日本のクリル諸島」

アルヴィン・ジョンソン / [シーボルト] / [ペリー]

「(ジョンソンによる)日本図:本州、九州、四国、蝦夷、ならびに日本のクリル諸島」

1863年頃 ニューヨーク刊

Johnson, A(lvin). J(ewett).

JOHNSON’S JAPAN. NIPPON, KIUSIU, SIKOK, YESSO AND THE JAPANESE KURILES.

New York, J.H.Colton & Co, [1863 or 1864]. <AB202591>

¥44,000

35.5 cm x 43.5 cm, 1 colored map,
余白部分に欠損、傷みが見られるが、地図自体に損傷はなく、概ね良好な状態。

Information

19世紀半ば頃のアメリカにおける日本図を代表する作例

 本図は1863年頃にニューヨークで刊行されたと思われる日本を描いた地図です。本図を制作したアルヴィン・ジョンソン(Alving Jewett Johnson, 1827 - 1884)は、当時ニューヨークで随一の評判を誇った一般家庭向けの地図帳出版を行なっていた人物で、彼の手がけた地図帳(Johson's New Illustrated Family Atlas)は、細かな改訂を絶えず行い続けていたことが知られています。ジョンソンの地図帳に収録されている世界各地の地図は、現在の歴史研究においても重要な史料として活用されおり、本図も当時をのアメリカにおいて最も強い影響力を有した日本図と見なすことができるものです。

 ジョンソンが自身の地図帳を初めて出版した1860年は、アメリカにおける地図帳出版が盛んになっていた時期にあたり、ミッチェル(Samuel Augustus Mitchell, 1792 - 1868)親子による地図帳(Mitchell's New General Atlas)や、コルトン(Joseph Hutchins Colton, 1800 - 1893)による地図帳(Colton's General Atlas)がすでにアメリカ国内で好評を博していました。ジョンソンは彼らと比べると後発の地図帳出版社として参入しましたが、先に述べたような細かな改訂と情報の正確さから評判を高め、経済的にも大いに成功することができました。ジョンソンの地図帳には単独の日本図や、本図のような東アジア図が収録されていて、こうした地図はこれらの地域に対するアメリカ国内における関心の高まりに応えうる地図として活用されたものと思われます。

 本図は、シーボルトが1840年に刊行したと考えられている日本図、ならびに同図を元に独自の測量調査情報を組み合わせて改訂したペリーの『日本遠征記録』に収録されている日本図に範をとって作成されており、その旨が地図中にも記されています。当時の西洋製日本図としても高い完成度を誇るもので、分図となっている蝦夷図は同じくシーボルトが日本図とは別個に刊行した「蝦夷、および千島列島図」からとったものと思われ、またもう一つの分図である「長崎図」も右下に掲載されています。本図の原点となっている、シーボルトの日本図は、江戸幕府による当時の最高機密であった伊能図(特別小図)をベースに製作されており、それまでに刊行されたあらゆる日本地図を刷新する最新かつ最も正確な日本地図として、後年に至るまで多方面に渡って大きな影響を与えた非常に重要な日本地図としてつとに有名ですが、本図はそうした影響を示す作例の一つと言えるでしょう。

 本図そのものには刊行年の記載がありませんが、図際下段に記されているように1855年に初版が刊行されており、本図はその地図右下にある数字「98」から見て、1863年、ないしは1864年に刊行されたジョンソンの地図帳から抜き取られたのではないかと推定できます。この図は当時のアメリカにおける日本図を代表する作品として、ジョンソンの地図帳の再版に合わせて何度も再版されて広く流布したことが知られています。本図も含め、ジョンソンの地図帳に収録されていた地図はコレクターズアイテムとしても人気があるようで、本図のように地図帳から個別に切り取られた地図が現在でもしばしば欧米の古書市場で販売されています。


「この見事なアメリカの石版地図帳のシリーズものは、1850年代および1860年代に、ニューヨークのコルトン、ジョンソン、ウォードおよびブラウニングの会社によって出版が始まった。 これらの地図帳は、その入念な縁取りの装飾の様式においても、また一つの版が次の版へと複写されていった地誌的な事項においても類似していた。 「一般地図帳」と題しコルトンが出版した世界地図帳は、 1854年に初版が出た。この地図は、出版者コルトン一家の創始者J・H・コルトン(1800-1893年)の銘がある。 この地図は日本全体を図示して、左上に北海道の挿入図と右下に長崎の挿入図がある。地図は情報源を「合衆国の日本遠征隊の成果を加味したシーボルトの地図」と謳っている。また1855年の登録日付があるが、これはペリーの報告書が最初に出版される1年前である。 地図は魅力的な装飾縁取りに囲まれているが、これがこの時代のアメリカ地図と確認される顕著な特徴である。 シーボルトおよびアメリカ日本遠征隊の影響を示す興味深い詳細地図である。
(放送大学図書館『デジタル貴重書室:西洋古版日本地図一覧』No.172解説より)(https://lib.ouj.ac.jp/gallery/virtual/kochizu/index_09.html)