書籍目録

『新世紀の夜明け:1901年の日々:日本の子どもの12ヶ月』(ちりめん本)

長谷川武次郎

『新世紀の夜明け:1901年の日々:日本の子どもの12ヶ月』(ちりめん本)

(添題)再版 墨摺本 1900年 東京刊

Hasegawa, T(akejiro).

DAWN OF THE CENTURY: Calendar For 1901. THE DAYS OF THE YEAR 1901. The Months of Japanese Children.

Tokyo, T. Hasegawa, 明治三十三年九月七日発行 同丗三年二月一日添題再版 同年同月七日発行. <AB202568>

Sold

2nd ed?

10.1 cm x 14.1 cm, 8 folded crepe paper folded sheets including the covers, printed in black and white only, bound in Japanese style, silk tied.

Information

奇妙な「墨摺」本に仕立てられた1901年用子どものカレンダー

 本書は、1903年のカレンダーとして作成された愛らしいちりめん本で、東京ないしはその近郊における子どもの一年を描いたユニークな作品です。ちりめん本出版を代表する長谷川武次郎が1900年代を中心に毎年刊行していたカレンダー作品の一つで、子どもを中心に据えた年中行事や四季の移り変わりが毎月ごとに異なるテーマで描かれています。大変興味深いことに、本書は表紙が通常の多色刷りがなされているにも関わらず、本文は全て墨摺となっていて、同名の他の現存書、あるいはそれ以外の長谷川武次郎が手がけた縮緬全体の中でも、極めて特殊な出来上がりとなっています。

 膨大な種類が製作された長谷川によるカレンダーのちりめん本については、その全体像や変遷、販売網といった出版に関する基本事項を把握することが非常に難しい状況にありましたが、近年になってこうした困難な状況を打開することを可能にしてくれる、山村光久氏所蔵の「Yamamura collection」を元にした画期的なデジタルアーカイブが公開されました(https://crepepaper.studio/chirimen/)。このデータベースでは、長谷川によるちりめん本カレンダーが、その最初期の作品から戦後1970年代に至るまで可能な限り網羅的にその書誌情報、詳細画像とともに紹介されています。また、このデータベースでは長谷川によるちりめん本カレンダーだけでなく、それ以外の他社が手がけたちりめん本カレンダーも紹介されており、当時の「カレンダーブーム」ともいうべき状況を複眼的に考察することを可能にしてくれています。このデータベースを参照して、「こどもの一年」を主題にしたカレンダーのちりめん本の変遷を簡単にまとめてみますと、下記のようになります。

①初版(1899年用):Calendar for the year 1899: The months of Japanese children. [Yamamura: 5]
②再版(1900年用):Calendar for the year 1900: The months of Japanese children. [Not in Yamaura / 弊店HP参照 http://www.aobane.com/books/401]

*この間に1901年用カレンダーとして刊行された、「Dawn of the Century: Calendar for 1901: The months of Japanese Children」[Yamamura: 10 / 11] (本書多色刷り版)は、「こどもの一年」を題材にしつつも、なぜか単独の作品として刊行されている。

③訂正第3版(1902年用):Calendar for the year 1902: The months of Japanese children. [Yamamura: 14]
④訂正第4版(1903年用):本書 [Yamamura: 21]
⑤訂正第5版(1904年用):The month of Japanese children: Calendar for 1904. [Yamamura: 33]

*上記第5版までが通常の形態として刊行されている。以下第6版以降は「菱形」の縮緬本として刊行されている。

⑥訂正第6版(1905年用):The months of Japanese children: Calendar for 1905. [Yamamura: 41]

⑦訂正第7版(1906年用):[Not in Yamaura] 存在するはずだが、Yamamura collection にも収録されておらず詳細不明。

⑧A 訂正第8版(1907年用):The months of Japanese children for 1907. [Yamamura: 54]
⑧B 訂正第8版(1908年用):The months of Japanese children for 1908. [Yamamura: 54]
*本来であれば「訂正第9版」となるはずだが、(おそらく長谷川が誤って)、前年と同じく「訂正第8版」とされてしまっている。
⑨第9版(1909年用):The months of Japanese children for 1909. [Yamamura: 65]

*Yamamura collection、ならびに店主の知る限りでも上記⑨以降は、「日本のこどもの一年」を主題としたちりめん本カレンダーはしばらく刊行されておらず、上記⑨でもって一旦完結したものと考えられる。

*なお、Yamamura collection によると、⑨の10年後に「1919年用」として下記が刊行されている。この作品には版の記載はなく、上記⑨の「改訂版」とは認識されていない。

The months of Japanese children: Calendar for 1919. [Yamamura: 143]

*Yamamura collection をみる限り、上記以降に「日本のこどもの一年」を主題にしたちりめん本カレンダーは刊行されていない。

 本書は上記のような連続した版表記を有していた「こどものカレンダー」シリーズとはやや異なっており、前後の年代の版表記とは異なる版表記が与えられているようです。「添題再版」という表記がなされているものの、同じタイトルの「初版」に当たるような作品は見当たらず、何をもって「再版」としているのかが不可解となっています。また、本書は、表紙以外の全てのページが墨摺となっているという長谷川武次郎のちりめん本全体の中で見ても極めて特殊な1冊ですが、奥付けの表記などは通常の版と全く変わりがないため、その背景事情を奥付けから推察することもできそうにありません。墨摺とはいえその印刷は細心の注意が払われているようで、大変丁寧に刷られていることから、あるいは販売用というよりも完成版作成前の試作版ではないかとも考えられますが、現時点では不明です。ちりめん本の中でも極めて特殊な、興味深い現存作品と言える貴重な1冊でしょう。