書籍目録

『日本における風景庭園』

ジョサイア・コンドル

『日本における風景庭園』

初版 1892年 東京刊

Conder, Josiah.

LANDSCAPE GARDENING IN JAPAN.

Tokio(Tokyo), (Printed by)The Hakubunsha / (Sold by) Kelly and Walsh, 1893. <AB202564>

Sold

First ed.

25.5 cm x 36.0 cm, pp.[I(Half Title.)-III(Title.)-V], VI-XI, pp.[1], 2-161, Plates:[37], Lately rebound with original decorative green cloth.
オリジナルの装丁を再利用して再装丁がなされており、良好な状態。[NCID: BA0286279X]

Information

ジャポニスムにおける大きな分野を形成し、近年に再評価の進む画期的な日本庭園論

 本書は、明治日本の近代建築の発展に多大な貢献をなしたことで知られるジョサイア・コンドルによる日本庭園論です。「ジャポニスム」に沸く近代西洋社会に日本庭園とその構造を本格的に紹介した記念すべき作品であるにもかかわらず、国内では過度に低い不当な評価を長らく受けていましたが、海外や国内での近年の新しい研究によって改めてその意義が見直され、再評価がなされつつある重要な作品です。

 ジョサイア・コンドル(Josiah Conder, 1852 - 1920)は、イギリス人の建築家で御雇外国人として1877年に工部大学校教授として来日し、西洋建築学の日本への導入に大きな貢献をなしたことが知られています。辰野金吾ら最初期の西洋建築家を養成し、ニコライ洞や三菱一号館など、現存する著名な多くの西洋建築の設計を担当しました。その一方で、コンドルは熱心な日本美術、文化研究者でもあり、自ら筆を取って日本画を学び、1881年には河辺暁斎に弟子入りし「暁英」の号を授かるなど多彩な活動を展開し、西洋社会への日本分野美術の発信にも尽力しました。

 コンドルは本書刊行以前に「日本アジア協会紀要」への寄稿という形で彼独自の日本研究の成果を発表しており、本書の原型となった論文も1886年にLandscape Gardening in Japan. と題して発表されています。また、本書刊行の前年には The Flowers of Japan and the art of floral arrangement.という著作も刊行しており、本書はこれらに続く彼の著作です。本書は「英語による初めての体系的な日本庭園論であり、1893年に出版されて以来、現在に至るまで、欧米人による日本庭園論に頻繁に参考文献として挙げられている」(後傾論文33ページ)にもかかわらず、近年まで国内ではあまり注目されず、低い評価がなされてきました。これに対して、片平幸「往復する日本庭園の文化史:ジョサイア・コンドルの日本庭園論の考察を中心に」(『桃山学院大学総合研究所紀要』第35巻第2号所収、2010年)は、コンドルの日本庭園論を改めて分析してその意義を再評価しただけでなく、日本国内における低い評価には、1930年代に見られた独自の日本庭園史観が反映されていることを明らかにしました。この論文は、それまでその存在については知られていたものの、本格的にその内容を分析することが長らく行われてこなかったコンドルの日本庭園論を丁寧に読み解き、19世紀末のイギリスやヨーロッパにおける庭園論の当時の問題意識を明らかにしながら、コンドルが日本庭園にその解決策を見出しつつ、日本の庭園書をそのまま鵜呑みにして紹介するのではなく、実践性を重んじて柔軟な解釈を行なった上で紹介したことを高く評価しています。その詳細については、ぜひ同論文に目を通していただければと思いますが、片平氏は本書の意義を次のように述べています。

「コンドルのLandscape Gardening in Japan は、欧米の読者を念頭に執筆されているが、単なる英語による日本庭園の紹介という枠を越えて、19世紀末のイギリスで日本庭園に対してどのような関心が形成され、受容の背景とはいかなるものであったのかを映しだす文化史的な資料としての性質を備えている。それだけでなく、日本の庭園研究者たちのコンドルに対する冷ややかな反応は、20世紀に入って構築されつつあった国内の庭園研究の価値体系をも映しだすものである。」
(同論文、33-34ページ)

 コンドルはその評価が極めて高い明治日本における西洋建築の導入といった分野だけでなく、先に触れたように自ら筆を奮って河辺暁斎に弟子入りするなど、多岐にわたる分野から日本文化、日本美術を理解しようとし続けました。コンドルの成し遂げた業績とその内外における影響をもう一度再評価することは、明治初期の西洋人による日本研究(ジャパノロジー)の様相と、西洋における「ジャポニスム」の様相とを改めて見つめる格好の視点を提供する重要なテーマのように思われます。

 この作品はフォリオ判の大型本として刊行されており、表紙の装丁にも箔押しで日本庭園が描かれるなど非常に凝った作りの書物となっています。本書は一度製本が崩れてしまったものと思われ、原装丁を再利用する形で丁寧な再装丁がなされており全体として良好な状態を維持しています。なお、本書には翌1893年に小川一真が手がけた日本庭園の写真を中心とした補遺(Supplement to Landscape gardening in Japan)も刊行されています。また、1912年には増補改訂を施した第2版も刊行されています。