書籍目録

「世界の歴史地図」

製作者不明

「世界の歴史地図」

[1813年?] [ロンドン刊]

Anon.

HISTORICAL MAP of the WORLD.

[London], (Printed by) R. Juigné, [1813?]. <AB202559>

¥77,000

48.7 cm x 70.0 cm, folded map, bound in contemporary marble card boards.

Information

世界の地理と歴史を一枚の地図上で関係に提示した世界地図

 この世界地図は、西洋諸国による「発見」の歴史を地図上の余白に隈なく書き込み、且つ下部に解説テキストを備えた地図で、世界の歴史と地図を1枚で簡潔に提示した興味深い世界地図です。

 製作者や、刊行年は明記されていませんが、海外の所蔵他機関において1813年と推定されており、また地図中の書き込みの内容から推察する限りでも概ねその頃の製作、刊行であると考えられます。地図下部に「NO.XXXVIII.」とあることから、元来は何らかの世界地図帳のような作品に収録されていた地図なのかもしれませんが、現時点では不明です。

 本文下部に細かな活字でびっしりと埋められたテキストでは、本図が刊行されるに至った経緯や、西洋諸国による大航海時代以降の「発見」の歴史を地域、年代順に記した年代記が記されており、西洋人による世界地理認識の発展の歴史を簡単に学ぶことができるようになっています。地図は東西両半球を別個に描いたもので、それほど厳密な正確性が追求されているわけではなさそうですが、少なくとも海岸線の描写は19世紀初めの地理認識をかなり正確に反映していることがわかります。

 この世界地図が通常の世界地図と異なるのは、その余白部分を埋めるかのように記された解説文の存在で、世界中のあらゆる地域に関して、西洋との関わりにおいて特筆すべき歴史が簡潔ながらも網羅的に記し込まれています。例えば、日本列島周辺にうねるように記された解説文では、マルコ・ポーロが「ジパング」と呼んだことに始まり、1542年にポルトガル人が偶然の事故によって漂着したことから西洋人との関わりが始まり、ケンペルやツンベルクによって同地のことが詳しく伝えられたことなどが記されています。また、火山が多い地域であること、その人口はフランスのおよそ2倍であろうことや、文明化されていて統治が行き渡っていることなど、金、銀、銅などの好物資源に富むことなどまでもが書き込まれており、地図中の解説文とは思えないほどの充実した内容となっています。

 下段のテキストにおいて著者が述べているように、この世界地図は単に世界の地理に関する表面的な知見だけを提示するのではなく、その歴史や各地域の社会、政治状況も合わせて提示することを主眼としており、日本の解説文に見られるような充実した内容の解説文は、こうした意図が反映されたものだと思われます。その一方で、世界地図としての精度も当時としては比較的高いもので、特にこうした一般向けの学習用世界地図としては優れた出来と言ってもよいと思われます。その意味では、一般向けに当時最新の世界地理を正しく伝えると同時に、各国、地域の歴史と社会状況についても簡潔に学ぶことができるようになっている本図は、非常にユニークで先進的な世界地図であると言えるでしょう。