書籍目録

『日本地図』

スタンフォード /(スタンフォード地理学機構)

『日本地図』

[第2版] 1887年から1890年前後? ロンドン刊

Stanford, Edward / Stanford's Geographical Establishment.

MAP OF JAPAN.

London, Edward Stanford, c1887-1890?. <AB2024138>

Reserved

[Second edition]

53.6 cm x 66.6 cm, 1 folded map, divided in 20 sheets, linen-backed with green cloth covers.
裏面に旧蔵機関による押印と当時の販売店(MARUYA、現丸善)のラベルあり。

Information

ジョンソン社と並んで19世紀後半のイギリスを代表する地図出版社が手がけた権威ある日本地図

 本図は1887年から1890年頃に刊行されたと推定される日本地図で、当時のイギリスにおける代表的な地図出版社であったスタンフォード社から刊行されたものです。スタンフォード社の創業者であるエドワード・スタンフォード(Edward Stanford, 1827 - 1904)は、同社における地図製作、出版専門部としてスタンフォード地理学機関(Stanford's Geographical Establishment)を1853年に設立し、当時のイギリスにおける地図製作の最高権威者でありライバルでもあったジョンストン(Alexander Keith Johnston, 1804 - 1871)を起用するという大胆な方法によって地図製作を精力的に進め、世界各地の詳細で精度の高い地図を次々と出版して高い評価を獲得していきました。

 この日本地図は20枚に分割された上でリネンによって裏打ちされて折りたためるような仕立てとなっていて、その表紙に同社に特徴的な緑色のクロス装丁が施され、その裏面の黄色い用紙には同社出版物の広告が掲載されています。こうした仕立ては同社が手がけていた地図に共通の仕立てで、当時の読者、購買者はこの仕立てを見るだけでスタンフォード社の地図であることをすぐに認識することができました。本図の広告面にも見られるようにスタンフォード社は地図帳出版にも熱心に取り組んでおり、そこに収録された地図が独立して出版されることも多く、本図もまさにそうした作例の一つに数えられるものです。

 スタンフォード社の手がけた最も重要な日本図としては、御雇外国人であるブラントン(Richard Henry Brunton, 1841 - 1901)による日本図(Nippon, 1876 / 1880)とほぼ同時期(1879年)に、同じく御雇外国人であったクニッピング(Erwin Knipping, 1844 - 1922)が手がけた大型の日本図(Stanford’s Library Map of Japan)があります。同図は伊能図をベースにしつつも独自の編集を施しつつ、より詳細な地理情報を加えたもので、当時の西洋製日本図の最高水準を示す地図として極めて高く評価されていますが、出版された部数は極めて少なかったものと思われ、現存しているものは世界中で見てもごくわずかでしかありません。本図とクニッピングが作成した日本図との関係については詳細な比較検証が必要とされますが、スタンフォード社としては高い評価を受けたとはいえ、その出版に多大なコストを要したであろうクニッピングによる日本図のいわば普及版として本図を製作したのではないかとも思われます。

 本図には出版年がどこにも記載されていないために、正確な刊行時期を特定することが困難ですが、先述の通りスタンフォード社が手がけていた地図帳にも同じ図が収録されているため、その出版年からある程度の時期を推定することができ、本図はおおよそ1887年から1890年頃の出版ではないかと考えられます。地図のどこにもその旨は記されていませんが、本図は幾度も改定されながら版を重ねたことがわかっており、各版は地図の内容そのものの違いから以外にも、下記の出版事項の記載の違いによっても見分けることが可能です。

①初版(1887年頃刊行と推定)
地図下部中央の余白に記されているスタンフォード社の住所が「55 Charing Cross」となっており、「Stanford's Geographical Establishment」という記載が地図下部右の余白に明記されている。

②第2版(1887年頃から1890年頃刊行と推定)*本図
地図下部右の余白に「60」という数字が明記されている。スタンフォード社の住所は①と同じ

③第3版(1890年頃以降?)
スタンフォード社の住所が「26 & 27 Cockspur Street」に変更される。それ以外の出版情報は②と同様。

④第4版(1895年頃以降?)
地図下部右の余白にあった「60」という数字が削除される。地図下部左の余白に「London Atlas Series」が新たに明記される。

*上記の見分け方については、ロンドンの古地図店 Daniel Crouch Rare Books 社がジェイソン・ハバート氏旧蔵の西洋製日本古地図コレクション(現ゼンリンミュージアム所蔵)を手がけた際のカタログ『Mapping Japan: The Jason C. Hubbard Collection. Part two』84 / 85ページを参照。

 なお、本図は店主がロンドンで見つけたものですが、裏面の広告部に旧蔵機関と思われるニューヨークのUnion Collegeの旧蔵印が確認できることに加え、非常に興味深いことに刊行当時の販売店を示すものとして、「ZP. MARUYA」(現在の丸善)のラベルが貼られており、刊行当時の明治期の日本国内でも販売、流通していたことを示しています。