書籍目録

『イエズス会創立者、聖イグナティウス・ロヨラの栄光』

[レエチッキ]

『イエズス会創立者、聖イグナティウス・ロヨラの栄光』

(第2版) 1628年 アントワープ刊

[Łęczycki, Mikołaj].

GLORIA SANCTII P.IGNATII DE LOIOLA FVNDATORIS SOCIETATIS IESV.

Antwerpiæ (Antwerpen), Henricum Aertssens, M. DC.XXVIII. (1628). <AB202478>

¥110,000

(Second edition).

Small 8vo (4.8 cm x 9.8 cm), Illustrated Title., 7 leaves, pp.1-237, Contemporary vellum.
[Sommervogel, Vol.4: 1451 ]

Information

ロヨラ列聖を記念して刊行され、より多くの信徒が日常的に携行して親しむことを企図したロヨラ伝

 本書は1622年にザビエルとともに聖人に列せられたイエズス会創立者、イグナティウス・ロヨラの生涯とその徳を称えた作品です。ロヨラの列聖を記念して刊行された作品で、初版は1622年にクラコフで刊行されており、本書はいわゆる日本二十六聖人が列福された1628年にアントワープで刊行された第2版にあたるものです。携行性を重視したと思われる非常に小さな書物で、より多くの信徒が懐中に忍ばせて日常的に用いることが意図されていたことがうかがえる作品です。

 本書には著者名が明記されていませんが、クラコフやヴィリニュス等の大学で活躍したポーランド出身の神学者、著作家のミコワイ・レエチッキ(Mikołaj Łęczycki / Nicolas Lancicius, 1574 - 1652)がその著者であることが推定されている作品です。レエチッキは、1609年にロヨラが列福されたことを記念して刊行された絵入りロヨラ伝(Vita Beati P. Ignatii Loiola. Societatis Iesu Fundatoris. Roma, 1609)のテキストを担当したことでも知られています。また、オルガンディーニ(Niccolò Orlandini, 1553 - 1606)によって進められていたイエズス会公式年代記(Historia Societatis Iesu)のロヨラ伝にあたる第一部(pars prima)の準備にも携わったことが知られています。イエズス会による公式のロヨラ伝としてはリバデネイラ(Pedro de Ribadeneira, 1527 - 1611)や、マッフェイ(Giovanni Pietro Maffei, 1536? - 1603)によるものがすでに刊行されていましたが、レエチッキはこれら最初期の「ロヨラ伝」に続く第二世代を代表する「ロヨラ伝」をはじめとした聖人伝の著者で、ロヨラの列聖を記念する作品として刊行された本書の著者に相応しい著者であったと思われます。

 本書は、マッフェイやロヨラによるすぐれた「ロヨラ伝」がすでに刊行されていたことを踏まえているようで、伝記作品としてロヨラの生涯を時系列に沿って詳細に紹介するのではなく、ロヨラの生前に成し遂げたさまざまな出来事や著作、彼の特性を象徴するような出来事、生前、没後に確認されたロヨラにまつわる奇跡、ロヨラと同時に列聖されたザビエルらとの深い繋がりといったトピックごとに記述がまとめられており、各章が独立した読み物となるべく工夫されているように見受けられます。このことは、信徒が日々折々の機会に本書任意の章を選んで読むことや祈りを捧げることを可能にしており、本書が携行に便利な非常に小さな書物に仕立てられていることと合わせて、より多くの信徒が日常的に本書を参照することを企図したものであると考えられます。もちろんラテン語で執筆されている本書を読解できる当時の読者層は限られていたと思われますが、それでもマッフェイやロヨラによる浩瀚なロヨラ伝を通読したり、携行することに比べて明らかに負担の少ないと思われる本書は、そうした作品とは異なる意図をもって刊行されていることは間違いないと思われることから、普及版ロヨラ伝ともみなしうるユニークな作品と言えるでしょう。