書籍目録

『ハナコ:現代日本女性の物語』

エリアーショヴァー(文) / ウォフク(挿絵)

『ハナコ:現代日本女性の物語』

1944年 プラハ刊

Eliášová, B. M (text) / Vovk, Jiří (illustrations).

HANAKO: ROMÁN MODERNÍ JAPONSKÉ DÍVKY.

Prague (Praze), Rebcovo Nakladatelství, 1944. <AB2020268>

¥55,000

8vo (14.6 cm x 20.6 cm), pp.[1(Half Title.)-3(Title.), 4], 5-149, 1 leaf(contents), Original? Three-quarter cloth.
ページ余白上部にところどころ紙テープによる補修跡あり。

Information

戦時下のチェコにあって好意的に日本を紹介した珍しい絵入り物語

 本書は第二次世界大戦の最中である1944年にプラハで刊行された日本の女性を題材とした小説です。著者のエリアーショヴァー(Barbora Markéta Eliášová, 1874? - 1957)は、1912年から1927年の間に4度日本を訪れ、のべ3年以上に渡って滞在した旅行著作家です。本書はエリアショヴァーのテキストと、独特のユーモアが含まれた筆致で描かれた多くの挿絵が組み合わされた作品です。挿絵を担当したウォフク(Jiři Vovk, 1899 - 1961)は、チェコで活躍した当時を代表する著名な挿絵画家として知られています。本書は物語を読み進めることで、日本の様々な文化や芸術、風習を理解できるようになっていて、戦時下の極めて困難な時期にありながら日本を好意的に紹介した内容となっています。

 今では著者エリアーショヴァーのことを知る人はほとんどありませんが、2018年に彼女についての研究ノートとして、ブルナ・ルカーシュ「B・M・エリアーショヴァーと大正期・昭和初期の日本(一)新研究の出発点およびその展望」(『實踐國文學』第94号、実践女子大学、2018年所収)が発表され、改めて研究が進められています。同論文によりますと、エリアーショヴァーは、当時来日した多くの欧米人のように富裕層の出身ではなく、苦学して外国語を習得し英語教師となった人物で、来日後も英語教師やチェコスロヴァキアの公使館スタッフとして就労しており、こうした就労を伴う日本での滞在経験が、日本の人々との深い交流や理解を育んだとされています。エリアーショヴァーは、こうした豊かな日本滞在時の経験を生かして、帰国の際に随時日本を紹介する書籍を刊行しており、『楽しき時の日本、悲しき時の日本』V Japonsku v dobách dobrych i zlych, 1925)や、『日本の娘たち』(Dcery Nipponu. 1925)などの作品を残しています。同論文によりますと、後者は「芸者の世界に強く惹かれた男性作家によるジャポニズム文学とは異なり、近代の日本女性の生活、教養、社会進出などに着目した点で注目に値する」作品で、エリアーショヴァーが独自の視点で日本をチェコの読者に伝えていたことが分かります。

 エリアーショヴァーのこうした著作が、当時の日本においてどの程度認知されていたのかについては定かではありませんが、国立国会図書館をはじめとした国内研究機関には、僅かながらも彼女の著作が所蔵されていることを確認することができます。最後の日本滞在から帰国したエリアーショヴァーの1930年代以降の活動については、ほとんど知られていないようで、戦時中である1944年に刊行された本書がどのような経緯で執筆、刊行されたのかについては、まだ全くと言ってよいほど研究がなされていないようです。本書は、豊かな日本滞在経験に基づいて独参の日本論を展開していたというエリアーショヴァーの最後期の日本関係著作として、その背景事情も含めて大変興味深い1冊です。