書籍目録

『現代日本文学アンソロジー』

好富正臣

『現代日本文学アンソロジー』

著者直筆献辞本 1924年 グルノーブル刊

Yoshitomi, (M(asaomi).

ANTHOLOGIE DE LA Littérature Japonaise CONTEMPORAINE…

Grenoble, Xavier Drevet, 1924. <AB2020266>

Sold

Dedication copy inscribed by the author.

8vo (12.0 cm x 19.0 cm), pp.[1(Half Title.), 2], 4 leaves(15 photos), pp.[3(Title.)-5], 6-225, Original paper wrappers.
表紙下部ノド付近に破れあり、用紙にヤケが見られるが概ね良好な状態。

Information

外交官でありながら日本の文化・文芸のフランス語での紹介に尽力した著者の初期作品

 本書の著者である好富正臣は、東京帝国大学を卒業後の1923年に外務省在外研究生となりパリ大学に留学、以降外交官としてのキャリアをドイツ、ソ連で重ね、1924年に南京に一等書記官として赴任してからは、大東亜省の情報部長となり、当地で1943年に亡くなっています。好富は、外交官としてのキャリアを重ねる一方で文学への関心、造詣が深かったようで、有島武郎『在る女』の翻訳刊行もパリ大学留学中の1926年に行っています(好富の経歴と『或る女』の翻訳については、杉淵洋一『有島武郎をめぐる物語』青弓社、2020年が詳しい)。

 本書は、有島が現代日本文化の様相を文学を中心としつつも、都市や産業、教育といった実社会の近代的側面にも焦点を当てて解説したものです。冒頭には、富士山や雪の金閣寺など、当時の欧米から見たいわゆる日本らしい伝統的な風景を写した写真とともに、東京駅や東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学など、物質的にも学問的にも近代化著しい日本の風景を写した写真を掲載しています。また、日本最初の国際派俳優としても知られる早川雪洲や、日露戦争における戦士によって当時「軍神」と崇められた広瀬武夫の銅像などの写真も掲載されています。

 本文は全三部部構成で、第一部が「日本文化の概観」、第二部が「(日本の)今日の実生活の状況」、第三部が「日本の人種とその背景」となっています。第一部では日本の文化や文学、詩歌を古代から現代に至るまで、好富の視点から描かれた通史で紹介されています。第二部では、都市生活、産業、教育、スポーツに焦点を当てて、日本の現代的な側面を解説しています。第三部では、日本の人種的な背景とともに、平和を愛する人民であることが強調されています。本書の後半は、『現代日本文学アンソロジー』というタイトル通り、国木田独歩、正宗白鳥、徳田秋声、菊池寛らの作品のフランス語訳が収録されていて、有島武郎『或る女』の翻訳刊行以前から、一貫して好富が日本の現代小説のフランス語圏への紹介に強い意欲を持っていたことが伺えます。

 なお、好富は本書に続いて、本書第2巻として『日本の女性とその文学』を本書刊行と同年と思われる1924年に刊行しています(ただし出版社は異なる)。本書は、好富本人による1926年付の献辞文が見られるものです。