書籍目録

『地球上の国々と人々、あるいは5部からなる地球の完全なる記述:第2巻アジア』

[レール]

『地球上の国々と人々、あるいは5部からなる地球の完全なる記述:第2巻アジア』

第2版 1815年 ライプツィヒ刊

[Löhr, Johann Andreas Christian]

Die Länder und Völker der Erde oder vollständige Beschreibung aller fünf Erdtheile,…Zweyter Band. Asien. Mit 21 Kupfern und I Karte. Zweyte Auflage.

Leipzig, Gerhard Fleischer dem Jüngern, 1815. <AB2020253>

¥110,000

2nd edition.

8vo (11.8 cm x 19.6 cm), pp.[I-II(blank), III(Title.)-V], VI-VIII, [1-3], 4-187, 183[i.e.188], 189-354, 1 leaf, Plates: [9], Plates(colored): [12], Folded colored map: [1], Half card on marble boards.
見返しと1葉(テキストなし)の間のノド、折り込み地図にテープによる補修あり。

Information

19世紀前半の教養書において彩色図版とともに描かれた当時のヨーロッパにおける標準的な日本観

 本書は、世界の国々と人々の文化や特徴を網羅的に紹介する教養書シリーズとして刊行された書物の第2巻にあたるもので、日本を含むアジアの国々が紹介されています。タイトルページにも記されているように各地の人々の姿や建物などを描いた21枚の銅版画が収録されていることが特徴で、巻末には彩色が施された折込のアジア図も収録されています。日本についても1章を設けて図版とともに紹介されており、当時のヨーロッパの標準的な日本理解がどのようなものであったかを知ることができる書物となっています。

 著者についての情報は表題紙や序文にも記されていませんが、国外所蔵機関の書誌情報などを見る限り、レール(Johann Andreas Christian Löhr, 1764 - 1823)による著作とされているようです。レールは、本書をはじめとして教養書としての地理学書や歴史書などを数多く手掛けていた著作家で、そのいずれもがそれなりに好評を博したようで、本書も幾度も版を重ねています。本書は、アジア地域を対象にしており、アラビア、ペルシャ、東インド、日本、中国、台湾、朝鮮、チベット、モンゴル、琉球、ネパール、コーカサス、韃靼、東方ロシアなど、非常に幅広い範囲の国々が扱われています。このうち、日本については、第6章(187頁〜)において論じられています。

 記述は日本の地理的紹介から始まっており、日本は、大小の島々から構成された国で、主要な3島として、日本(Nipon、本州のこと)、下(Ximo / Schimo、九州のこと)、四国(Xicoco)が知られていること、日本の沿岸は岩礁が多く海の難所として大変危険であること、日本(本州)は最大の島で都(Miako、京都のこと)と江戸(Jeddo)という二大都市を擁することなどが解説されています。また、都、江戸の解説と合わせて、ヨーロッパ人として唯一日本との交易が許されているオランダ人がいる長崎(Nangasaki)のことや、日本の北方にある蝦夷ヶ島(Jesoinseln)のことについても触れています。

 日本の歴史については、長らく世俗と宗教上の双方の最高にして唯一の権力者が統治していたが、約300年前に、世俗君主として公方様(Kuba Soma、将軍のこと)が世襲の権力を獲得し、内裏様(Dairi Soma、天皇のこと)には、宗教上の権力のみが残されることになったことが紹介されています。また、日本の人々の外見的な特徴として、肌は黄色で髪は黒髪、背はそれほど高くなく、顔は平たくて目は小さいなどが挙げられています。学芸については中国よりも優れており、多くの学校、大学、印刷所を有していることや、綿織物や絹織物が多く生産され、鉄の産出量は多くないが鋼の錬成技術は極めて高度であることなども紹介されています。人々の気質としては、あらゆる階級の人々が誇り高く、大変丁寧で誠実、精力的で勤勉、清潔好きであるが、その一方で極めて暴力的な一面もあるとしています。これ以外にも家庭生活、家屋の様子、服装、暦、統治機構、宗教など、多岐にわたって日本のことが紹介されていて、コンパクトな記述ながら大変わかりやすく簡潔な日本紹介記事となっています。本書に見られる日本関係記述の多くは、ケンペルをはじめとした当時ヨーロッパで広く読まれていた日本関係図書の記述によっているものと思われ、当時の標準的な日本理解の一例の示すものと言ってよいものでしょう。

 彩色が施された図版には着物を纏った人々の姿が描かれており、前面の二人の人物の姿は、17世紀のモンタヌスの著作の影響が見られ、あまり写実的とは言えない点がある一方、後方に描かれている3人の姿は丁髷や着物姿が比較的写実的に描かれており、複数の情報源を元にして制作されていることが窺えます。また、巻末の折り込み図に描かれている日本の姿は、小さいながらも蝦夷を島として明瞭に描いている他、樺太も半島ではなく島として描いているなど、(どこまで意図的なものであったかどうはともかく)当時としてはかなり正確な輪郭であると言えます。

 本書は教養書として刊行されているだけに、当時のヨーロッパにおける標準的な日本理解の一例を示すものと言え、日本の人々を描いた図版や地図も収録していることから、日本関係欧文史料として一定の学術的価値を有する書物と思われます。また、図版や地図が欠落することなく揃っていることも貴重と言えるでしょう。

装丁は刊行当時のものと思われるが、背部分は後年の補修が施されているように見受けられる。
見返し紙と冒頭の余白1葉のノドがテープによって補修されている。
タイトルページ。
目次①一口に「アジア」と言っても、中東も含む広範囲の国々が扱われていることがわかる。
目次②
目次③
本文冒頭箇所。アジアの概説から始まっている。
21枚の図版を収録していることが本書の特徴。上掲はトルコの人々を描いた彩色図。
アルメニアの人々
ペルシャの人々
モルッカ諸島の人々
第6章(187頁〜)日本について論じられている。
コンパクトな記述ながら多岐にわたって日本や日本の人々について解説されている。
日本の人々を描いた彩色図版も収録している。
続く中国の人々を紹介する章では南京の大報恩寺を描いた図版が収録されている。
中国(清)皇帝の行列
巻末には折込の彩色アジア図も収録されている。
北海道や樺太をはっきり島として描くなど、当時としてはかなり正確な図と言える。
巻末の図版一覧。21枚の図版と地図が欠落することなく揃っていることは貴重。