書籍目録

『万国民の現代史 第一巻:中国、日本、フィリピン、モルッカ諸島等』

[サーモン] / ティリオン

『万国民の現代史 第一巻:中国、日本、フィリピン、モルッカ諸島等』

蘭訳改訂版 1736年 アムステルダム刊

Tirion, Isaak.

HEDENDAAGSCHE HISTORIE, OF TEGENWOORDIGE STAAT VAN ALLE VOLKEREN; In opzigte hunner Landsgelegenheid, Personen, Klederen, Gebouwen, Zeden, Wetten, Gewoontens, Godsdienst, Regering, Konsten en Wetenschappen, Koophandel, Handwerken, Landbouw, Landziektens,

Amsterdam, ISAAK TIRION, 1736. <AB20178>

Sold

Revised edition in Dutch.

8vo, engraving fly title, 9 leaves, pp.1-88, 91-200, 203-441, 443-550, 555-645, 9 leaves (i.e. REGISTER): folding maps [2], folding plates [5], plates [2], contemporary marble card boards
刊行当時の簡易装丁、紙片断ち切りなし

Information

収録日本地図に重要な改訂を加えた稀覯版

 タイトルにあるように本書の原作は、イギリス在野の歴史家サーモン(Thomas Salmon, 1679 – 1767)による大部の叢書『万国民の現代史(Modern History; or Present State of All Nations. 1724 – 1739.)』です。これを底本に、アムステルダムで出版社を営んでいたティリオン(Isaak Tirion, 1705 – 1765)が、大幅な増補改訂を加えてオランダ語版として刊行した叢書の第一巻が本書です。「オランダ語版」とはいうものの、原著にはない図版や記述をふんだんに盛り込んでいることから、実質的にはサーモンのアイディアを範にとったティリオン独自の叢書といっても差し支えないと言われています。特に、日本については、オランダはヨーロッパ諸国の中で唯一の交流国という自負もあり、日本地図や出島の極めて詳細な図版、そして日本についての歴史、政治、文化について様々な記述を相当量増補しています。
 
この日本や中国、そしてフィリピンなど東南アジア諸島部を扱った第一巻は、1728年に初版が刊行されてから、何度か版の改訂とはうたわないものの、増刷を行なっており、本書は後年の1736年に刊行されていることがタイトルページからわかります。
 
 大変興味深いのは、1728年の初版に収録されている日本地図と、本書に収録されている日本地図に違いが見られるということです。この地図は、もともと有名な1727年のケンペル『日本誌(The History of Japan. 1727)』に収録されている日本地図に範をとったものですが、1728年の初版に収録した日本地図をベースに、1736年に刊行された本書に収録されている地図では重要な改訂が加えられました。それは、ヨーロッパ人にも特に関心の深かった本州北端と北海道付近の輪郭に関する部分です。このことについて、ルッツ・ワルター編『西洋人の描いた日本地図』は次のように解説しています。
 
「ここでティリオンは図録番号66の地図(1728年初版所収の地図のこと;引用者注)に対して興味深い訂正を行なった。本州の北端と蝦夷の南端はケンペル/ショイヒツァー型ではなく、ショイヒツァーが『日本誌』の日本図に付け加えた部分図に拠っているのである。松前島は消失し、渡島、津軽、下北のそれぞれの半島がはっきりと現れる。これによりティリオンはショイヒツァーが『日本誌』のために改変した版より、ケンペルのもともとの下絵および実際の形にずっと近くなるのである。」
 
 ティリオンが行なったこの改訂は、いつ行われたものなのかがはっきりしていません。地図には刊行年を表す年表記がない上、同じ1736年の刊行年を表記するタイトルページを有するものでも、旧来の1728年型の地図を収録しているものも散見されることから、1736年に本書の地図が完成していたのかどうかは断定ができません。1736年のタイトルページを持ちながら後年に販売されたものかもしれませんし、1736年に異刷として刊行された可能性もあります。

 本書は、刊行当時の原装丁を保っていることから、地図単体の形ではなく、書物に収録されている、オリジナルの発表形態、時期を知るための一つの手がかりとして、大変重要なものと言えるでしょう。