書籍目録

『アトムの冒険』

[スモレット] / (ケンペル)

『アトムの冒険』

初版第2刷 全2巻 1769年 ロンドン刊

[Smollett, Tobias] / (Kaempfer, Engelbert).

THE HISTORY AND ADVENTURES OF AN ATOM. IN TWO VOLUMES.

London, (Printed for) Robinson and Roberts, MDCCLXIX(1769). <AB2020209>

Sold

2 vols. First edition, second issue.

Large 12mo (10.0 cm x 17.0 cm), Vol.1: 2 leaves(blank), pp.[i(Half Title.)-iii(Title.)-v], vi-viii, [1], 2-86, 78[i.e.87], 88-143, 142[i.e.144], 145-227. / Vol.2: Half Title., Title., pp.[1], 2-190, 1 leaf(blank), Later full leather.

Information

ケンペル『日本誌』に着想を得て著された日本を舞台とした風刺小説

 本書は、18世紀のイギリスの大衆小説家スモレット(Tobias Smollett, 1721 - 1771)が匿名で著した小説で、1769年にロンドンで刊行されています。アトム(Atom、原子、風刺の意味)を語り手として転換される物語は、日本を舞台としており、公方(Cuboy)、関白(Quamba-cun-dono)、太閤(Taycho)、内裏(Dairo)と言った数多くの人物や、京都(Meaco)、蝦夷(Jesso)といった地名、小判(Kopan)といった当時のヨーロッパにおける日本を象徴する小物が多数登場するもので、その情報源の多くはケンペル『日本誌』にあると考えられています。

 「ケンペルの資料については文学者や評論家がより早く着眼していた」(ドイツ日本研究所編『ドイツ人の見た元禄時代:ケンペル展』(ドイツ日本研究所、1990年、128頁)と言われるように、啓蒙思想が花開いた18世紀のヨーロッパでは、「日本のポジティブな部分を見るのと同時に、ヨーロッパを批判する目的で、非常に面白い文学の題材として」(同上)日本が取り上げられることが流行し、こうした小説を介しても日本観は広められていきました。本書は、こうした作品の中でも代表的な作品の一つに数えられ、同時代のイギリス政治を批判する目的で日本を場面にした物語が展開されています。文中では、この物語は、出版社に偶然もたらされた未公刊の手書き草稿による実話として紹介されていますが、もちろんこれは事実ではありません。とはいえ、こうした作品は、当時のヨーロッパにおいて日本情報がどのように、どの程度広まっていたのか、また本書のような小説作品を通じて、事実と物語の双方が交わりながら、どのような日本観がけいせいされていったのかを理解する上で非常に重要な手がかりとなります。

 なお、『アトムの冒険』は、刊行年表記を誤って1749年(MDCCXLIX)とした初版初刷と、これを訂正して1769年(MDCCLXIX)とした初版第2刷という2種類の異なる初版が存在することが知られており、本書は後者に当たる初版第2刷です。