書籍目録

『新アジア論集』

レミュザ

『新アジア論集』

全2巻 1829年 パリ刊

Abel-Rémusat, Jean-Pierre.

NOUVEAUX M´ÉLANGES ASIATIQUES, OU RECUEIL DE MORCEAUX DE CRITIQUE ET DE MÉMOIRES RELATIFS AUX RELIGIONS, AUX SCIENCE, AUX COUTUMES, A L’HISTOIRE ET A LA GÉOGRAPHIE DES NATIONS ORIENTALES;…

Paris, Schubart et Heideloff, 1829. <AB2020202>

Sold

2 vols.

8vo (12.8 cm x 20.3 cm), Vol.1: Half Title., Title., pp.[I], II-IV, [1], 2-137, 38[i.e.138], 139-446 / Vol.2: Half Title., Title., pp.[1], 2-428, 1 folded map, Contemporary card boards.

Information

19世紀フランスにおける東洋学興隆の立役者レミュザによる多数の日本研究を含む論集

 本書は、フランス・アジア協会(La Société Asiatique)の中心人物であった東洋学者レミュザ(Abel-Rémusat, 1788 - 1832)が1829年に刊行した論集で、当時最先端の東洋学研究を発信していたレミュザによる興味深い論考が数多く収録されており、その中には日本研究も多数含まれています。

 レミュザは、19世紀前半のフランスを代表する東洋学者で、コレージュ・ド・フランスの初代中国語講座の初代教授に若干27歳で就任した人物で、フランス・アジア協会ではその創設から中心的な役割を果たしていました。レミュザは特に中国、日本研究に強い関心を示し、数多くの論文を早くから発表しており、これらをまとめて、1825年には『アジア論集』(Mélanges asiatiques, 2 vols., Paris, 1825-26)を刊行しています。1829年に刊行された本書は、これに続くレミュザの論集で、前作と区別するために、『新アジア論集』と名付けられたものと思われます。全2巻からなる本書には、レミュザによる中国と日本を中心とした様々な論文が掲載されていますが、店主の確認できる限りで日本に関係するものを取り上げると、下記のようなものがあります。

①「マリアナ諸島と日本との間に位置するほとんど知られていない島々(小笠原諸島)についての記述」(Description d’un groupe d’iles peu connu et situé entre le Japon et les Iles Mariannes. Rédigée d’après les relations des Japonais.)
(1817年初出論文の改訂版)(第1巻153頁)

 当時日本で「無人島」とも呼ばれていた小笠原諸島について、日本の地図とヨーロッパ性の最新地図や記述をもとに論じたもの。1817年初出論文に、クラプロート(Julius Heinrich Klaproth, 1783 - 1835)によるその後の研究成果を反映させた改訂版。第2巻末に新たに作成した地図を収録。この図は、日本列島や琉球諸島と小笠原諸島の位置関係を示した広域地図と、「無人嶋図」と題した詳細図で、林子平『三国通覧図説』に収録されている「無人島」と呼ばれた小笠原諸島図を範に採ったものと考えられる。『三国通覧図説』は後の1832年にクラプロートによってフランス語訳版が刊行され、このフランス語訳版には「無人島図」含む地図も収録されているが、本図はこれに先立つ非常に貴重な西洋における「小笠原諸島図」ということができる。

②「ティツィング旧蔵の日本関係文献・草稿コレクションについて」
(Sur une collection d’ouvrages relatifs au Japon, formée par Titsingh.)
(第1巻266頁)

 オランダ東インド会社日本商館長を務めたティツィング(Isaac Titsingh, 1745 – 1812)が残した膨大な日本関係蔵書、地図、文献、草稿コレクションについての概説。ティツィングの紹介と彼のコレクションの意義、レミュザ自身が編纂に関わったティツィングの遺稿出版との関係などを詳しく紹介。

③「ロドリゲス『日本文典』について」
(Sur le grammaire Japonaise de Rodriguez.)
(第1巻347頁)

 イエズス会士ロドリゲス(Joam Rodriguez)が1620年にマカオで刊行した『日本小文典(Arte Breve da Lingoa Iapoa tirada da Arte Grande da mesma Lingoa…Macao, 1620)』の仏訳版(1825年)をもとに論じたもの。仏訳版はレミュザ自身の指導の元、ランドレス(Ernest Clerc de Landresse, 1800 - 1862)が訳したもので、日本語研究に対する新たな関心を高めることに貢献しただけでなく、19世紀の欧米における日本語研究の基準点としても重要な役割を果たした。それまでの日本語研究を概観し、その不十分さを指摘しつつ、日本語文法について解説している。日本のいろは文字のヨーロッパにおける最初期の紹介であるデュレ(Claude Duret)による「世界言語誌宝典』(Thersor de l’histoire des langues de cest univers. 1613)についても言及し、同書収録のいろは文字の読み方が間違っていることも正確に看破している(同書については当店HP解説参照)。

④「(Salrandièreの)鍼灸について」
(Sur l(acupuncture.)
(第1巻358頁)

 1825年に『鍼通電療法について(Mémoires sur l’Électropuncture …Paris, 1825)を出版した Jean-Baptiste Sarlandière (1787 – 1838) の著作を中心に日本と中国の鍼灸医療について論じたもの。鍼灸治療についてはティツィングも強い関心を持っていたことで知られており、レミュザもティツィングコレクションの整理を通じて、東洋医学についての知識を学んでいたことが窺える。

⑤「マースデン校閲英訳版『マルコポーロの旅行記』について」
(Sur les voyages de Marc-Pol, sommentés par M. Marsden)
(第1巻381頁)

 1818年に刊行されたマースデン(William Marsden, 1754 - 1836(による校閲英訳版『マルコポーロの旅行記』(The travels of Marco Polo,...London, 1818)について、マースデンの注釈や解釈、校閲内容を中心に論じたもの。マースデンはアイルランドの東洋学者として当時名高く、彼の中国や日本についての見解の妥当性を論じる内容となっている。

⑥「マレー『アジアの発見と旅行記についての歴史的記述』について」
(Sur l(histoire des Découvertes en Asie, par M. Murray)
(第1巻413頁)

 スコットランドの地理学者として当時著名だった、マレー(Hugh Murray, 1779 - 1846)の『アジアの発見と旅行記についての歴史的記述』(Historical account of discoveries and travels in Asia,… 3 vols. 1820)の紹介と書評記事。

 また、第2巻は、日本や中国への布教活動で活躍した宣教師や、アジア各地へのヨーロッパからの旅行者、中国の学者等の人物紹介が中心となっており、マテオ・リッチ(第2巻207頁)やアダム・シャール(第2巻217頁)といった中国での布教活動で大きな成果を残した人物らに加えて、第1巻でも取り上げられたイエズス会士ロドリゲス(Joam Rodriguez)(第2巻222頁)が取り上げられています。ロドリゲスはその高い実務能力とともに、秀でた日本語力でも知られており、ツヅ(通詞、通訳の意)ロドリゲスとまで呼ばれた人物です。また、同時代の東洋学者として、ロドリゲス『日本文典(Arte da Lingua de Iapam. Nagasaki, 1604-8)』(小文典に対して大文典と呼ばれる)をレミュザにもたらした、東洋学者ラングレ(Louis-Mathieu Langlees, 1763 - 1824)も紹介されています(第2巻316頁)。

 レミュザによる日本研究はまとまった大部の著作として発表されることがなかったため、その内容があまりよく知られていないのが実情です。しかし、レミュザは19世紀初めからのフランスにおける東洋学の隆盛において中心的な役割を果たした人物であり、その後ヨーロッパ各地における日本研究にも大きな影響を残したことは間違いなく、その存在は決して小さなものではなかったと言えます。その意味でも、本書にちりばめられたレミュザの日本研究は改めて研究されるべき価値ある論考と言えるでしょう。

第1巻
第1巻タイトルページ
「マリアナ諸島と日本との間に位置するほとんど知られていない島々(小笠原諸島)についての記述」(改訂版)
「ティツィング旧蔵の日本関係文献・草稿コレクションについて」
「ロドリゲス『日本文典』について」
「(Salrandièreの)鍼灸について」
「マースデン校閲英訳版『マルコポーロの旅行記』について」
「マレー『アジアの発見と旅行記についての歴史的記述』について」
第1巻目次①
第1巻目次②
第1巻目次③
第2巻
第2巻タイトルページ
イエズス会士ロドリゲス(Joam Rodriguez)の伝記
東洋学者ラングレ(Louis-Mathieu Langlees, 1763 - 1824)の伝記
第2巻目次①
第2巻目次②
第2巻目次③
第2巻末尾には、第1巻収録の「マリアナ諸島と日本との間に位置するほとんど知られていない島々(小笠原諸島)についての記述」に対応する折込地図が収録されている。
1817年に雑誌『ジュルナル・デ・サヴァン』に同論文を発表した際にも地図が設けられていたが、その時の地図とも微妙に異なるように見受けられる。