書籍目録

①『国際法一名萬國公法上編 一~五』 / ②『国際法入門』

①箕作麟祥(訳)/ ②ウルジー

①『国際法一名萬國公法上編 一~五』 / ②『国際法入門』

訳本とその底本のセット ①1873(明治6)年 / ②1873年 ①東京刊 / ②ニューヨーク刊

②Woolsey. Theodor, D.

②INTRODUCTION TO THE STUDY OF INTERNATIONAL LAW, DESIGNED AS AN AID IN TEACHING, AND HISTORICAL STUDIES. THIRD EDITION, REVISED AND ENLARGED.

②New York, ②Armstrong & Co, ②Armstrong & Co. <AB2020190>

Sold

②3rd ed.

①15.0 cm x 22.8 cm / ②8vo (12.5 cm 19.7 cm), ①上編5冊(揃い)  上編一:3, 2, 53丁 / 上編二:62(第46丁が欠)/ 上編三:63(第10、20丁が欠)/ 上編四:64丁 / 上編五:58, 2丁 / ②1 leaf, pp.[1(Title.)-5], 6-487, 1 leaf(blank), ①Bound in Japanese style. / ②Original publishers embossed cloth.
①題箋あり。綴じ紐に緩みあり。一部に欠落している折丁があるように見受けられるが、落丁なのか印刷当初から脱落しているのか不明。②旧蔵機関による押印と貸し出しカードを入れるポケットの貼り付けあり。

Information

 このコレクションは、幕末から明治初期の傑出した洋学者として名高い箕作麟祥によって翻訳された『国際法』と、その底本となったウールジー(Theodore Dwight Woolsey, 1801 - 1889)による英語原著本のセットです。当時アメリカを中心としてヨーロッパ各国でも広く読まれていたウールジー(Theodore Dwight Woolsey, 1801 - 1889)の『国際法入門』(Introduction ot the study of internatilnal law,...1860 / 1864(2nd ed.) / 1872 (3rd ed.))の重要性に着目した箕作麟祥は、第3版を底本として、その第1部を訳出し『国際法』と題して1873年に刊行しました。箕作はナポレオン法典の翻訳とそれに伴う「六法」の産みの祖としても名高い人物ですが、『国際法』は当時ある種の流行語であった「万国公法」を「国際法」へと変える契機となったことでも重要な書物として知られています。

 ウールジーはもともとギリシャ古典研究や神学研究といった人文学分野で傑出した学者として著名でしたが、豊かな教養を背景にイェール大学で国際法の講義も行うことになり、講義のために執筆したノートをもとに『国際法入門』を刊行しました。『国際法入門』は、法学特有の難解な言い回しを避け、平易な文体で簡潔な叙述に努めてられており、当時の国際法関係の名著があまりにも大部で専門家向けであったことに対して、法学を専門としない学生にも読みやすくなるよう工夫されていたことから、同時代の国際法の基準テキストとなるベストセラーとなりました。初版は1860年に刊行され、南北戦争の勃発に対応するため大幅に増補改訂が施された第2版が1864年に、第3版が1872年(再版1873年)(箕作が底本としたのはこの第3版)に刊行され、以降も版を重ねています。
 
 箕作は、序文において「萬國公法」の名称が広く用いられている意義を認めた上で、よりInternational Law の原意に近い訳語として「国際公法」を用いる旨を述べています。今ではInternational Lawの訳語として定着している「国際法」という言葉は、本書刊行当時は「万国公法」と言う訳語の方が広く普及していました。これは、当時日本で広く読まれていたホイートン(Henry Wheaton, 1785 - 1848)が著した『国際法原理』(Elements of International Law. )漢訳本のタイトルが『万国公法』であったことに由来するものですが、単なる訳語の相違だけでなく、国際法理解のあり方(自然法的側面を重視するか、慣習法的側面を重視するか等)にも関係する大きな問題でした。箕作による『国際法』の刊行と、訳語としての「国際法」の提言は、「宇内の公法」としての万国公法という、自然法的側面を強調した International Law の解釈から、当時の国際情勢と国際法理解に即して、より慣習法的、実定法的側面も併せて視野に入れた解釈へと、日本における International Law 概念の理解が深化 / 変容するきっかけになり、明治14年に東京大学の講座名に「国際法」が用いられることでこの語が定訳となる基礎を築いくことになりました。

 ウールジーの『国際法入門』はホイートン『国際法原理』よりはコンパクトな書物とは言え、その分量は400ページを超える著作で、平和時の独立国家の権利や国家間の関係を解説する第1部(第36節から第154節まで)と戦争時の独立国家の権利(中立権含む)を解説した第2部とに分かれています。箕作が『国際法』「上編1~5」で訳出したのは、このうちの第1部に該当するものです。第2部以降は下編として刊行予定だったものと思われますが、実際に刊行された形跡はありません。また箕作訳『国際法』では、ウールジー『国際法入門』序章で展開されている、国際法史の解説については、その重要性を認めつつも、訳出されておらず、より実践的な内容となる第36節から翻訳がなされています。詳細は両書を対象しながら確認する必要がありますが、その分量から見ても箕作による『国際法』はウールジー[国際法入門』の逐語全文訳ではなく、大意をまとめた抄訳であると思われます。

ウルジー原著の目次が訳出されている。
原著第2部(戦争時の国家間関係を論じる)の訳出となるはずであった下篇は、実際には刊行されなかった。
ウルジー原著
図書館旧蔵書のため見返しに押印がある。
タイトルページ。本書は第3版で、1872年、1873年に刊行されている。
第2版への序文。
第2版への序文の末尾に第3版(本書)についての注記がある。
本文冒頭箇所。第1節から第35節までは国際法の歴史が論じられている。箕作はその重要性を認識しつつも、当面のより実用的な要請に応えるためにこの箇所の訳出を見送ったとしている。
箕作による訳出の冒頭箇所にあたる第35節。
補遺では参考文献、重要条約、本文の注釈などが掲載されている。訳出された箇所ではないが、箕作自身の国際法理解には大きな助けになったと思われる。
巻末には索引が設けられている。
図書館旧蔵書のため、巻末見返しには貸し出しカードのポケットが残されている。