書籍目録

『トラベル・イン・ジャパン』1935年春(創刊)号

国際観光局 / [光吉夏弥]

『トラベル・イン・ジャパン』1935年春(創刊)号

1935年 東京刊

Board of Tourist Industry / [Mitsuyoshi, Natsuya]

TRAVEL IN JAPAN. SPRING NUMBER 1935. VOL.1 No.1.

Tokyo, The Tokyo Tsukiji Type Foundry, Ltd, 1935. <AB2020144>

Sold

22.1 cm x 29.8 cm, pp.1-36, Original pictorial paper wrappers.
一部の折丁が綴じから外れているが、全体として良好な状態。

Information

光吉夏弥の優れた編集によって、内容だけでなく書物としても完成度の高い作品として刊行された英文季刊雑誌

 本書は、戦前の外国人観光客誘致のために1930年に設立された国際観光局が発行していた英文雑誌です。単なる外客誘致のための英文ガイドブックというよりも、日本の文化や歴史、現在の発展めざましい姿を優れた写真やイラストを組み合わせて誌面を構成していて、美しい表紙デザインと上質な用紙も相まって、日本社会全体の肯定的なイメージを冊子を通じて表現するものとなっています。国際観光局は、吉田初三郎や上村松園ら、当時の優れた画家たちに依頼して宣伝ポスターを制作(これらについては以前当HPでも紹介)していて、日本の対外イメージを好転させ、多くの観光客を呼び寄せるための宣伝物には、優れたデザインやテキストが必要であることを十分に認識し、直接的な観光誘致だけでなく、文化広報とも言いうるような広範囲にわたるメディア活動を展開していました。

「国際観光局が最も力を入れていた活動は『対外宣伝』、すなわち海外への日本の宣伝であった。なかでもアメリカを当初から主要ターゲットに据えており、開局の翌年にはニューヨークで、またその翌年にはロサンゼルスでそれぞれ事務所を開設しただけでなく、1932年にロサンゼルスで開催されたオリンピック、1939年にニューヨークとサンフランシスコで開催された万国博覧会といった巨大イベントでも積極的に日本の姿を宣伝している。
 そして、これら一連の宣伝活動には多様な媒体が動員された。ポスター、絵はがき、地図、パンフレットはもちろんのこと、写真をふんだんに使用した定期刊行物『トラベル・イン・ジャパン』や、日本の文化や風物を紹介する『ツーリスト・ライブラリー』が万単位で印刷され、旅行会社、ホテル、教育機関、マスコミなどに配布されたのである。また、国際観光局が映画制作に取り組んでいた点も見逃せない。日本の名所、風景、四季、風俗、伝統などを題材にした映画のフィルムは各在外事務所に常備されただけでなく、アメリカの映画会社パラマウントに配給された。」
(千住一「国際観光局の10年」公益財団法人日本交通公社『観光文化』第239号、2018年所収論文、30頁より)

 本書は、国際観光局の対外宣伝の中心的な役割を果たすものとして1935年に創刊された英文雑誌(季刊)の創刊号です。多くの写真を配して春の日本の美しさを紹介しているだけでなく、写真とテキストの配置の仕方にも非常にこだわりが感じられ、また表紙も銀箔を周辺に配した多色刷りの非常に美しいもので、厚手の高級用紙に印刷されていて、編集者が書物の作りそのものにも非常に気を配っていたことがよく分かります。澤田精一「光吉夏弥:その生涯と時代」(2018年6月23日の白百合女子大学での講演録)によりますと、本書の編集を務めていたのが、戦後に「岩波の子供の本」の翻訳者として数多くの翻訳を手がけた光吉夏弥であったことは明らかにされています。多才多芸で知られ、書物にも強いこだわりのあった光吉が手がけたこともあって、本書はその内容だけでなく、異色とも言える出来映えを誇る完成度の高い書物として生み出されることになったと言えるでしょう。