書籍目録

「アメリカ西海岸、ならびに東アジア沿岸、諸島部各国との交易について」

パーマー / [ホェーフェル]

「アメリカ西海岸、ならびに東アジア沿岸、諸島部各国との交易について」

(『蘭領インド雑誌』第11年次第2号掲載論文の抜刷り) 1849年 [フローニンゲン刊]

Palmer, Aaron Haight. / [van Hoévell, Wolter Robert].

De Handel op de Westkust van Amerika, en de Oostelijke kusten en eilanden van Azie.

[Groningen], [C. M. Van Bolhuis Hoitsema], 1849. <AB2019185>

Sold

(Extracted from Tijdschrift voor Nederlandsch Indië. Jaargang 1849 II)

8vo (16.7 cm x 26.5 cm), pp.[369], 370-386, Modern paper wrappers.

Information

 本書は、ペリー(Matthew Carlbarith Perry, 1794 -1858)による日本遠征隊の実現に向けて活躍したロビイストであったパーマー(Aaron Haight Palmer, 1785? - ?)が1849年4月14日付で、クレイトン(John Middleton Clayton, 1795 - 1856)国務長官に宛てて提出した、アメリカ西海岸と太平洋を挟んで東アジア各国との貿易を積極的に展開することの重要性を説いた書簡論文で、原文の英語からオランダ語に翻訳され、雑誌『蘭領インド雑誌(Tijdschrift voor Nederlandsch Indië)』1849年号(第11年次第2号)に掲載されたものです。

 パーマーは、ニューヨークで法律事務所を開く一方で、政財界とのコネクションを強め、大陸横断鉄道実現と、太平洋を挟んだ東方アジアの独立国との交易拡大を主張するロビイング活動を活発に展開していました。特に、彼は日本との交易を実現することがアメリカの利益につながることを熱心に主張し、自ら膨大な調査報告書を作成し、政府関係者に提案していました。また、ペリー自身とも出発前に情報交換を行っているほか、長崎オランダ商館への働きかけも行っていたとされています。彼の提言は、彼自身によって印刷されたものもあれば、議会文書として後に公刊されたものもあり、1848年にはポーク(James Polk, 1795 - 1849)大統領に対して、日本北方地域を含む東アジア地域に関する報告書簡を送っているほか、1849年9月には、再びクレイトン国務長官に「日本開国計画書(Plan for opening Japan」を提出しています。1849年から1852年にかけては、内々に日本についての情報を収集していたペリーに直接貴重な情報提供をしており、こうしたパーマーの長きにわたる多大な尽力もあって、日本艦隊派遣の成功が実現したとされます。

 本書は、パーマーが、太平洋にその領土が到達したアメリカが、さらに太平洋を挟んだ東アジア諸国、特にまだイギリスの勢力がそれほど及んでいない国々との貿易を積極的に推し進めることで、一層大きな利益と影響力を得ることができることを強く主張した内容となっていて、その中で日本との貿易関係を開くことの意義についても詳細に語られています。こうした動きに強く反応したのが、当時蘭領インド政策の再建に尽力していた植民地経営改革論者ホェーフェル(Wolter Robert van Hoëvell, 1812 - 1879)で、彼は、オランダ植民地政策の問題点を積極的に指摘し、貿易の自由主義化を唱え、その主張を展開する雑誌『蘭領インド雑誌』を自ら創刊、編集にあたっていました。本書にはホェーフェルの記名は見られませんが、同雑誌においてホェーフェル以外の著者によるものは基本的にその著者名が明記されていることから、おそらくホェーフェル自身の翻訳ではないかと思われます。ホェーフェルは、翻訳文の掲載に先立って序文を寄せており、そこではパーマー論文の重要性と、アメリカをはじめとしてヨーロッパ諸国が東アジア地域に積極的な関心を寄せつつあることに警鐘を鳴らし、歴史的にも優位性を保持しているはずのオランダこそが、こうした各国の動向に先んじるべきであることを述べています。パーマー論文は、原文それ自身も当時のアメリカの対日政策、東アジア政策が形成されていく過程を理解する上で大変興味深いものですが、それがすぐさまオランダ語に翻訳され、オランダの対日政策にも一定の影響を与えた可能性があることに鑑みると、より立体的に当時の日本を取り巻く欧米各国の動向を理解する一助として、一層興味深いものと言えます。