書籍目録

『日本における医学史概観』

アルドゥアン

『日本における医学史概観』

(『海洋と植民地雑誌』掲載論文を独立して刊行したもの)/ 著者直筆献辞あり 1884年 パリ刊

Ardouin, Léon.

APERÇU SUR L’HISTOIRE DE LA MÉDECINE AU JAPON.

Paris, Berger-Levrault et Cie, 1884. <AB2019140>

Sold

(Extrait de la Revue maritime et coloniale) / Dedication copy form the author.

8vo (16.0 cm x 25.0 cm), pp.[1(Title.)-3], 4-49, Original paper wrappers.
裏表紙左上に欠落があるが、テキストに欠損はなく概ね良好な状態(Wenckstern: 140)

Information

フランス一等海軍医による、日本とヨーロッパ人との出会いから蘭学の交流、明治に至るまでの日本医学史

 本書は、フランスの海軍医師であるアルドゥアン(Léon Ardouin, 1841 - 1909)によって書かれた日本の医学史で、16世紀のポルトガル人来航から1870年代に至るまでの日本の医学史を西洋科学との交流を軸にして描き出したものです。本文から見る限り、アルドゥアンは蘭学をはじめとした日本の医学史全般についての広く、また深い見識があったようで、具体的に多くの人命やトピックを盛り込んで本書を著しており、明治期前半にフランス人海軍医師の視点から書かれた日本の医学史として非常に興味深い書物となっています。

 アルドゥアンは、1870年代から90年ごろにかけてフランスが東アジアに展開していた艦隊付きの海軍医師としてアジア各地を歴任しており、長崎を中心とした日本への寄港経験もあったようですので、その機会に本書執筆の背景となる知識を得たものと思われます。ポルトガル人来航以降の南蛮外科や、オランダ人による紅毛外科の発展や、ケンペル、ティツィング、シーボルトなどを通じた蘭学の交流や、杉田玄白らによる『解体新書』、箕作家を中心とした津山洋学の発展など、日本の蘭学の発展に関する相当の知見がないと記せないようなテーマを具体的なトピックや、事例、人名、書名などを挙げながら論じられています。こうした日本における医学の歴史的な発展についての洞察だけでなく、幕末から明治にかけての急速な西洋医学導入についても詳細に論じており、例えば、目下最新の事例の一つであったヴィダル(Jean Paul Isidore Vidal, 1830 - 1896)による新潟病院での医学教師としての経験談を彼自身の論説(雑誌 L’union Médicale,第3シリーズ第24号、1877年に掲載されたLe Médecin Japonais.)を引用しながら批評しています。こうした本書の内容からは、アルドゥアンが日本の医学史に関する広い知見だけでなく、日本における最新の医学導入状況についても強い関心を払っていたことがうかがえます。また、アルドゥアンが、こうした新旧の日本医学に関する知見を得られるだけの人的なネットワークを有していたことが推察できますので、本書の背後にある彼の交流関係も興味深いところです。

 アルドゥアンに関する日本における研究は、店主の見る限りほとんどないようですが、ヴォルフガング・ミヒャエルが「幻の外科免許状の写真」(『日本医史学雑誌』第57巻第3号表紙絵解説)という短文中で言及しており、本書26ページに見える、オランダ通詞西吉兵衛にオランダ商館長ランストが発行した外科就業証書に関する記事のことを取り上げています。また、彼が海軍医師を退官してからは、ロシュフォール図書館の司書となり、生前から親しい交流のあった植物学者ラッソン(Piere Adlophe Lesson, 1805 - 1888)の旧蔵書コレクションを整理していたことや、おそらくアルドゥアンがラッソンに提供したと思われる『北斎漫画』が現存すること、アルドゥアンがラッソンに本書を直筆献辞を付して送っていることなどが、同図書館によって紹介されています。アルドゥアンが著者となっている書物は、フランス国立図書館目録では本書のみとなっていますが、Wencksternの A Bibliography of the Japanese Empire. 1895. では、本書以外にも2つの小論(いずれも雑誌記事)が掲載されています。本書も雑誌『海洋と植民地雑誌(Revue maritime et coloniale)』に掲載された論文を独立して刊行した書物である旨が記されていますが、Wencksternで言及されている残る2点の著作は、本書のように独立した形で形刊行されなかったが故に、フランス国立図書館目録に掲載されていないのではないかと思われます。いずれにしましても、アルドゥアンについての研究や、本書についての言及は極めて限られており、本書の高度な内容に鑑みますと、今後の研究価値を大いに秘めた重要な学術文献と言えるでしょう。

 なお、本書はタイトルページ右上にアルドゥアンによる直筆の献辞が記されており、先述のロシュフォール図書館所蔵本と同じく、アルドゥアンが直接親しい人物に贈った1冊であると思われますが、店主にはまだその人物を特定することができていません。