書籍目録

『近年の東洋における領事裁判権の解消:第1巻;日本、トルコ、シャム、ペルシャ』

チェン

『近年の東洋における領事裁判権の解消:第1巻;日本、トルコ、シャム、ペルシャ』

1932年 パリ刊

Tchen, Yaotong.

DE LA DISPARITION DE LA JURIDICTION CONSULAIRE DANS CERTAINS PAYS D’ORIENT: I JAPON, TURQUIE, SIAM, PERSE.

Paris, Recueil Sirey, 1932. <AB2019139>

Sold

16.5 cm x 25.2 cm, Half Title., Title., 1 leaf(dedication), pp.[I], II, III, NO LACKING PAGES, [7], 8-186, Original paper wrappers.
NCID: BA38368230 / Shulman. Japan and Korea(1970): 831.

Information

アジアにおける領事裁判権の撤廃と日本の事例の考察

 本書は、19世紀後半から20世紀にかけて西洋列強諸国が各地で行使していた領事裁判権と、その解消についてを議論した法律書です。2部構成となっており、第1部では領事裁判権がそもそも、法的にどのような性質のもので、また歴史的経緯を有しているのかについて解説し、第2部では、そのケーススタディとして、日本をはじめとする4カ国が取り上げられており、領事裁判権が認められるに至った経緯と、その解消に至った交渉過程などを論じています。

 著者のチェン(Yaotong Tchen)についての詳細は不明ですが、序文において、国際法学者のG. Gidelと並んで、フランスの法学者で1920年代における中国の近代法整備と不平等条約の改善に尽力したエスカラ(Jean, Escarra, 1885 - 1955)への感謝の言葉が見られることから、彼らの近くでフランス語と国際法を含む法学を修め、博士論文として本書を執筆したものと思われます。出版社であるRecueil Sireyは現在もフランス法学出版の老舗として非常に高く評価されている出版社ですので、同社から出版されていることに鑑みても、学問的水準が非常に高い書物であることがうかがえます。

 本書が出版された1932年は中国とイギリスとの間で治外法権撤廃に関する条約が仮調印されており、中国における領事裁判権を含む治外法権の解消が強く期待された時期にあたります。著者は序文において、領事裁判権は、それによって不利益を被っている国からだけでなく、むしろそれによって特権を享受してきた国々の法学者たちからも、その存在根拠を疑問視する声が相次いできたことを述べています。国際法の理念と公正性に鑑みても、領事裁判権は極めて異質な存在であり、法的一貫性の観点からも領事裁判権は撤廃されるべきであることを述べ、その学問的考察の第一部として本書を刊行する旨が述べられています。上述したように各国のケーススタディを扱う第2部では、最初に日本が取り上げられており、67ページから30ページ近くにわたって、日本における領事裁判権の導入と撤廃交渉の経緯と要点について詳しく論じられています。本書刊行時点において、日本はすでに領事裁判権が撤廃されてから久しくなっていましたが、日本を含む他国の撤廃交渉の事例は、中国における交渉にも一定の影響を与えたことが本書からもうかがえます。

 領事裁判権の撤廃交渉は、いうまでもなく明治政府の悲願であり、その交渉過程についてはすでに多くの研究の蓄積がありますが、本書のように日本での撤廃後久しい1930年代の中国における撤廃交渉が大詰めとなっていた時期に、他国の交渉事例とともに詳細に研究している本書は、これまでの研究にあまり見られない新しい視座を提供する文献として、非常に興味深い書物と言えるのではないでしょうか。

 なお、本書に続いて中国における領事裁判権を本格的に扱う第2巻の刊行が予定されていることが序文において述べられていますが、この第2巻が実際に刊行されたのかどうかについては、店主の知る限り、定かではありませんが、その後の中国における歴史的混乱に鑑みますと、おそらく刊行されなかったのではないかと思われます。

タイトルページ
序文では領事裁判権が国際法の一貫性の点においても疑問視されていることが述べられている。
日本についての記事冒頭箇所。
目次の日本関係記事に該当する箇所