書籍目録

「近代日本の進歩についての概観」

ボアソナード

「近代日本の進歩についての概観」

(フランス学士院道徳・政治アカデミー誌(1895年6月28日 / 8月9日)からの抜刷) 1895年 パリ刊

Boissonade, M. G(stave).

COUP D’OEIL SUR LES PROGRÈS DU JAPON MODERNE.

Paris, Alphonse Picard & Fils, 1895. <AB201992>

Sold

EXTRAIT DU COMPTE RENDU DE l'Academie des sciences morales et politiques...(Séances des 28 juillet et 9 août 1895)

13.5 cm x 21.4 cm, pp.[1(Front cover / Title.)-3], 4-42, Original paper wrappers.

Information

「日本近代法の父」ボアソナードが帰国直後に行った日本の現状についての講演

本書は、日本の近代法整備において中心的な役割を果たしたボアソナード(Gustave Émile Boissonard, 1825 - 1910)が、20年以上にわたる日本滞在を終えて帰国した1895年に、フランス学士院・政治アカデミー(Académie des sciences morales et politiques)に対して行った講演をもとにした小論です。幕末から明治にかけて大きく変わりつつある日本社会の実情を、多くのフランス人の関心が高かったトピックを取り上げてボアソナードが論じる内容となっており、長きにわたって日本政府の中心にあって重要な役割を果たしてきた稀有なヨーロッパ人による鋭い考察として、大変興味深い物です。

 内容は、目下の大きな話題となっていた日清戦争とその帰結として、日本の近代化に対する西洋の承認が得られるかどうかについてに始まり、自らが関わった近代法整備について、司法大臣山田顕義の急死を悼みながら説明しています。また、鉄道、遠洋航海技術と汽船会社の興隆、産業が発展し、人と商品の国際移動を日本が自ら精力的に行うようになることに伴うフランスへの(主として商業的な)影響についてといった特にフランスで関心の高かったと思われるテーマについて論じています。政治経済分野における目を見張るような進展については、ボアソナードは特に強調しており、さらに学問分野や道徳面におけるめざましい発展を遂げていることを述べています。前者については、過去7世紀余りにわたって続いた封建制の内実とその経緯、幕末から明治に入り、近年に至るまでなお続いている急激な変化を具体的に歴史を紐解きながら解説しています。また、明治以降の日本の政治状況を語る上で、逸することができないきわめて重要な問題として、欧米各国と幕末に締結された不平等条約の改正問題を取り上げています。経済問題では、安定した通貨相場と高品質な紙幣の安定供給や銀行制度の拡充、近代租税制度の整備がこの間着実に進められてきたことを説明しています。教育制度については、江戸時代から寺子屋に代表されるような学校制度があったことや、西洋学問についてもオランダを通じて一定の受容があったと言う歴史的経緯を説明してから、明治以降に急速に改革が行われた教育制度や学校制度の概要を紹介しています。東京大学をはじめとする高等教育研究機関において、最新の学問の精力的な受容が日々行われており、それが多方面にわたって社会変革を促していることにも言及しています。また、刑法の整備により社会治安が安定したことや、病院や慈善施設の拡充、刑務所における囚人の待遇の改善といった、当時の欧米社会において文明度を測るひとつの指標となっていたような社会施設の状況についても論じています。

 本書は、わずか40ページほどの小論に過ぎませんが、当時の日本社会の状況についてボアソナードがフランスの聴衆を意識して発信したものとして、大変興味深いものです。ボアソナードの法典編纂に関する著作については比較的よく知られていますが、本書のような帰国後に日本社会について発信した著作については、相対的にあまり知られていないのではないかと思われます(国内では、国会図書館やボワソナードが創立に深く関わった法政大学での所蔵が確認できますが、それ以外の研究機関における所蔵は確認できません)。また、この小論は、日本国内でも関心を呼んだようで、ボアソナードが創刊した和仏法律学校の機関紙である『仏文雑誌(Revue Française du Japon)』第13号(1896年2月20日号)に転載されていることが確認できます。