書籍目録

『日本のこどもの12ヶ月:1899年カレンダー』(ちりめん本)

長谷川武次郎

『日本のこどもの12ヶ月:1899年カレンダー』(ちりめん本)

初版 1897年 東京刊

Hasegawa, T(kejiro).

CALENDAR for The Year 1899. THE MONTHS OF JAPANESE CHILDREN.

Tokyo(東京市), T. Hasegawa, 明治三十年九月一日印刷 同年同月七日発行. <AB201980>

Sold

First edition.

11.0m x 15.0 cm, Crepe paper book, 8 folded crepe papers including the covers (i.e. 16 pages), Bound in Japanese style, silk tied.
表紙にドイツの著名な楽譜出版社 Breitkopf & Hartel の印字

Information

ドイツ老舗楽譜出版社Breitkopfが販売

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒していました。

 このかわいらしいちりめん本は、タイトルにあるように、こどもの一年を毎月の風景とカレンダーとで構成しており、どの絵も大変愛らしいものです。英字のキャプションがない月もありますが、一目見てその風景が眼前に思い浮かんでくるのは、長谷川によるちりめん本ならではと言えます。本書は1899年用のカレンダーとして作成されたものですが、のちに非常によく似た構成で1900年用のカレンダーも作成されています。両者は一見全く同じように非常に見えますが、当然カレンダーの表記はそれぞれの年に応じて変えられているほか、細部をよく見ると本文、表紙、テキストのいずれもが異なっていることがわかります。また、大きさも1899年カレンダー(本書)の方がひと回り大きいこともわかります。同じような意匠でありながら、1899年カレンダーを1900年カレンダーにそのまま流用したわけではないことは、両者を比べてみると明らかです。

 また、興味深いことに、本書は表紙の右上部分に、BREITKOPF & HARTEL の印字があります。BREITKOPF & HARTEL は現存するドイツ語圏を代表する老舗楽譜出版社として知られますが、この会社が長谷川のちりめん本を扱っていたことを示すもので、長谷川ちりめん本の各国への広がりを知る上で非常に興味深いものと言えます。長谷川は、1894年に西洋音楽教育の御雇外国人であったディットリヒ(Rudolf Dittrich, 1861 - ?)の『日本楽譜(Nippon gakufu.1894)』がBreitkopf社から出版される際の印刷元になっていますので、こうした契機から、ちりめん本の販売網の一つとして同社との関係が継続していたのではないかと思われます。

 なお、ちりめん本の研究書で著名な石澤小枝子『ちりめん本のすべて』では、カレンダーのちりめん本について下記のように言及しています。

「カレンダーは他にも色々な種類のものを出している。西宮雄作氏に見せていただいたものでは、ご婦人のハンドバックに入るくらい小さく折り畳んだものもあった。一月の絵は五重の塔の先の避雷針のみで、それを一二月まで広げるとやっと塔の全景が現れるという仕組みのものや、同じ趣向で畳んであるものを全部開くと華厳の瀧になるものなど様々なものがあり、愛好を呼んだに違いない。武次郎の頃からあるものは、主に本の形のものが多いが、西宮与作の時代になると、岐阜提灯のような形のもの、簾のような形のものなど趣向を凝らしている。」

 ひとくちにカレンダーのちりめん本といっても、その内容や、判型、大きさが全く異なるものがこれだけ出されていたとなると、毎年出されたカレンダーのちりめん本の全容を解明することがいかに大変なことかがわかります。とは言え、(まだ見ぬ)多様なちりめん本があるということですから、研究もさることながら、純粋な楽しみとしても今後の発見と整理に期待が高まります。

表紙。右上余白部分に、ドイツを代表する老舗楽譜出版社Breitkopfの印字が見える。長谷川ちりめん本の海外への広がりの深さを示す興味深いもの。
冒頭に目次があり、一年を通じた子どもに関連する行事が記されている。一月は新年のお飾りと羽子板と凧揚げ。
二月は初午祭、三月はひな祭り。
四月は灌仏会、五月は端午の節句と鯉のぼり。
六月は天皇際、七月は七夕。
八月は十五夜のお月見、九月は菊祭
十月はえびす祭り、十一月は酉の市。
十二月は雪遊び、その右は奥付けとなっている。
裏表紙。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。両者は個別にみると全く同じように思えるが、並べてみると大きさや絵柄、テキストの配置など全てが細かく異なることがわかる。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。
(参考)本書(左)と1900年用カレンダー(右)。