書籍目録

『第20期トーマス・クック商会の世界旅行』

トーマス・クック商会

『第20期トーマス・クック商会の世界旅行』

1891年 ニューヨーク刊

Thos. Cook & Son.

TWENTIETH SEASON. COOK'S TOURS ROUND THE WORLD. Programme and Itineraries of Five Select Tours, under Personal Escort, TO LEAVE SAN FRANCISCO, SEPTEMBER 15TH, 26TH, AND OCTOBER 8TH, AND VANCOUVER, AUGUST 29TH, VISITING JAPAN, CHINA, MALAY PENISULA, INDIA,

New York, A. H. Kellogg, 1891. <AB201935>

Sold

Oblong (11.0 cm x 14.5 cm), 1 leaf(blank), folded map, pp.[1(Title.)], 2-98, LACKING 1 leaf, 101-108, Contemporary full (morocco?) leather.

Information

 トーマス・クック(Thomas Cook, 1808 - 1892)は、イギリスの実業家で、旅行代理店を世界的に展開することで成功を収めた人物です。旅行者が旅行先で無駄なく魅力的な景勝地や見所を訪れることを可能にする、いわゆる団体旅行ツアーの企画、提供することで成功を収めたことから、近代ツーリズムの祖と言われています。また、クックは鉄道時刻表をはじめとした各種出版物の刊行でも非常によく知られており、ホテルガイドや各地のガイドブックを多く生み出しました。残念ながら、2019年9月に178年の歴史に幕を降ろす破産申請がなされたという報道がありましたが、クックが今日に至るまでの旅行業に多大な貢献と影響を及ぼしたことは誰もが認めるところです。 

 本書は、クック商会を最も有名にならしめた「世界一周旅行」のためのガイドブックアルバムです。1891年初秋から1892年にかけての日程で企画されたクック商会による第20回目の世界一周旅行の各プランや、料金などを紹介するために特別に作成されたもので、横長のアルバム仕立ての書物となっています。立派な革装丁が施され、小口は三方とも金箔押しがなされているといった、書物の形状そのものに対する強いこだわりからも「世界一周旅行」に対するクックの力の入れようが伝わってきます。

 書籍の内容としては、クック社による世界旅行がどのようなものであるのかといった概説、各種ルート、日本をはじめとした各寄港地の見どころ、料金、各種オプショナルツアーといったもので、当時クック商会がどのような世界旅行をサービスとして提供していたかを知ることができる大変興味深い内容となっています。世界旅行のルートとしては、概ねアメリカ西海岸を8月の終わりから9月の半ばにかけて出発し、秋の日本を満喫してから、香港、インドへと年末年始にかけて滞在し、スエズ運河を通じて地中海に抜けていって、アメリカ東海岸へと至る、という西廻り航路をとったルートが最も標準的なものだったようです。クック社の長年の旅行会社としての実績と経験から、この時期とルートが最も快適に楽しむことができるものであることが、本書でも強調されています。こうした標準ルートに加えて、オーストラリアやニュージーランドなどの南半球も盛り込んだルートや、パレスチナの聖地を重点的に巡るオプショナルツアーなどの情報も本書には掲載されており、クック商会の1891年当時の企画商品を知ることができるようになっています。価格も出発地や寄港地、船舶やホテルの等級によって細かく分かれており、利用者が自身の希望や事情に応じて、様々なサービスを選べるようになっていたようです。

 本書は、このように19世紀末にクック商会によって行われていた各種ツアーパックの詳細を知ることができる大変興味深い資料であると同時に、こうした案内のための書籍それ自身が記念となるような豪華な装丁を施して作成されていたということも伝えてくれるという、ツーリズムと印刷物との強い繋がりを示す非常に重要な資料ではないかと思われます。