書籍目録

『ヨーロッパ、アフリカ、(日本含む)アジア、アメリカで命を賭したイエズス会士たち』

タンネル

『ヨーロッパ、アフリカ、(日本含む)アジア、アメリカで命を賭したイエズス会士たち』

1675年 プラハ刊

Tanner, Matthias.

SOCIETAS JESU USQUE AD SANGUINIS ET VITAE PROFUSIONEM MILITANS, IN EUROPA, AFRICA, ASIA, ET AMERICA, CONTRA GENTILES, MAHOMETANOS, JUDAEOS, HAERETICOS, IMPIOS, PRO DEO, FIDE, ECCLESIA, PIETATE…

Prague, Typis Universitets Carlo-Ferdinandeae, M. DC. LXXVV. <AB201919>

Sold

4to(19.0 cm x 28.5 cm), Front., Title., 7 leaves, pp.1-308, 390[I.e.309], 310-548, 2 leaves, Plates: [4], 19th Century? three-quarter calf on marble boards.
(Laures ID: JL-1675-KB1-513-356 / De Backer & Sommervogel:1860) Dd4の余白に破れあり、ところどころヤケ、シミが見られるが全体として良好な状態。三方の小口が赤く染められている。

Information

日本宣教に携わった数多くのイエズス会士を豊富な銅版画とともに紹介する大著

 本書は、16世紀半ば以降、日本を含む世界各地で布教活動を繰り広げていたイエズス会が、各地で不況に尽力した殉教者や布教先で亡くなったイエズス会士を讃えるために作成されたものです。紹介されている人物の生涯(特に最期)を象徴する場面を描いた銅版画をふんだんに収録していることが特徴で、日本にゆかりのあるイエズス会士(日本の関係者も含む)を多数紹介されている大変興味深い資料です。

 著者であるターナー(Matthias Tanner,1630 - 1692)は、ボヘミア出身のイエズス会士で、人文学、哲学、神学といった諸学問について大学で教鞭をとる一方、本書のようなイエズス会の活動に尽力したイエズス会士の包括的な電気の編纂作業にも精力的に取り組みました。ターナーは、全世界をヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカの四つに分け、それぞれの地域を象徴する1ページ大の銅版画を配して、各地域で活躍し命を落としたイエズス会士を紹介しています。このうち、第三番目の地域となるアジアの部(207頁〜432頁)では、その大半が日本に関係のあるイエズス会士が紹介されていて、実質的に日本におけるイエズス会による宣教史を人名ごとに辿ることができる内容となっています。しかも、それぞれの人物を描いた銅版画が大量に収録されていることから、視覚情報として日本における殉教がヨーロッパ各地にどのように伝えられていったのかを知ることができます。日本における宣教師の殉教は、対抗宗教改革の時期にあってヨーロッパでは強い関心を呼び起こしたことが知られており、その熱気は本書が刊行された17世紀後半になっても冷めることがなかったことが伺えます。

 本書で銅版画を備えて紹介されている日本に関係のある人物のうち、店主の目に付いたものだけに絞って列挙するだけでも下記のようにかなりの数になります。

パウロ三木ら(1597年 26聖人のうちイエズス会士であった3人)
メスキータ神父(1614年 マカオへの追放途上の長崎で逝去)
木村レオナルド(1619年長崎西坂にて火刑)
アンブロジオ・フェルナンデス(1620年大村の鈴田にてスピノラに見守られ牢死)
アウグスティノ太田(1622年 壱岐にて斬首)
カルロ・スピノラ(1630年 長崎西坂にて火刑)
カミロ・コンスタンツォ(1622年 田平焼罪にて火刑)
ジェロニモ・デ・アンジェリス(1622年 江戸にて火刑)
シモン円甫(1622年 江戸にて火刑)
ディエゴ・カルヴァリヨ(1624年 厳冬の仙台広瀬川にて水責により刑死)
ミゲル中島右衛門(1628年 雲仙にて刑死)
アントニオ石田(1632年 長崎西坂にて刑死)
ベニート・フェルナンデス、パウロ斎藤(1633年 長崎で刑死)
中浦ジュリアン(1633年 長崎で刑死)
マテウス・デ・コーロス(1633年 大村で潜伏中に逝去)
セバスティアン・ヴィエイラ(1634年 長崎で刑死)
ディエゴ結城(1636年 大阪で刑死)
マルチェロ・フランシスコ・マストリリ(1637年 長崎で刑死)
ペトロ・カスイ(岐部)(1639年 長崎で刑死)
アントニオ・ルビノ(1643年 長崎で刑死)フェレイラ
クリストヴァン・フェレイラ(1650年 江戸で逝去)沢野忠庵

 もちろん上記以外にも数多くの日本に関係のあるイエズス会士が銅版画とともに紹介されており、同時代の日本研究資料としては、非常に豊かな内容を備えたものとなっています。また、日本で捕縛され拷問を受けて棄教した後は、「目明し忠庵」として積極的にキリシタン取り締まりに協力したと言われているフェレイラ(Cristövâo Ferreira, 1580 - 1650)が紹介されているなど、その人選の基準にも興味深いものがあります。フェレイラの棄教は、当時のイエズス会に巨大な衝撃を与え、その真偽を確かめる、あるいは説得を試みるための派遣団が複数結成されました(この事件をモチーフに小説にしたのが遠藤周作の『沈黙』であることは、2016年の同作の映画化を契機に改めて注目されるようになりました)。上記の人物中には、フェレイラの消息を追って入国し命を落とした人物も多数含まれています。一方で、フェレイラの晩年についての情報はヨーロッパにおいても錯綜していたと言われており、本書でどのような評価で持って紹介されているのかは、大変興味深い点です。

 日本における殉教者に焦点を当てたイエズス会による文献は、トリゴー(Nicolas Trigault, 1577 - 1628)の『日本におけるキリスト教の勝利(De Christianis apvud Iaponios triumphis. 1623)』、カルディム(Antonio Francesco Cardim, 1596-1659)の『日本殉教精華(Fasciculus e Japponicis floribus…1646.)』などの先行文献があり、両書とも国内において非常によく知られていますが、本書はこれらに劣るとも勝らぬ量・質を備えた文献でありながら、プラハで刊行されたという事情もあってか、これまであまり注目されてこなかった重要文献と思われます。

タイトルページ
ヨーロッパの部、冒頭の口絵
ヨーロッパの部、本文冒頭箇所
アフリカの部、冒頭の口絵
アフリカの部、本文冒頭箇所
アジアの部、冒頭口絵。大半が日本関係記事で占められている。
アジアの部、本文冒頭箇所
パウロ三木、ヨハネ五島、ヤコブ喜斉の3人。日本のイエズス会司祭として、1597年のいわゆる「日本二十六聖人」殉教事件で亡くなった。
天正遣欧使節に同行したことでも知られるメスキータ。マカオに追放される途上に亡くなった。いわゆる殉教者だけでなく、宣教先の地で亡くなった人物も本書には含まれている。
日本のイエズス会修道士として活躍した木村レオナルド
長年日本宣教に尽力し、捕縛されてから、1620年大村の鈴田にてスピノラに見守られ牢死したアンブロジオ・フェルナンデス
壱岐島で斬殺されたアウグスティノ・太田
1622年の元和の大殉教で犠牲となったスピノラ
1624年2月、厳冬の仙台広瀬川にて水責により刑死したディエゴ・カルヴァリヨ
キリシタン火刑のための薪の供出を拒否したことで捕縛され、雲仙地獄で刑死したミゲル中島右衛門
天正遣欧使節の一員としてあまりにも有名な中浦ジュリアン
長年、日本での宣教活動に尽力し慕われたマテウス・デ・コーロスは、潜伏中の大村で1633年に亡くなった。
すでに日本でキリスト教弾圧が激しくなっていた1637年、敢えて入国を決意し鹿児島に上陸後、直ちに捕らえられ長崎で殉教したマストリリ。彼は、拷問の末に棄教したというフェレイラの消息を確かめるべく来日した。
ローマに渡って神学を学びイエズス会神父となった後に帰国し、仙台で捕縛され江戸で刑死したペトロ・カスイ(岐部)
拷問を受けて棄教し、その後は幕府のキリシタン弾圧に積極的に加担したと言われるフェレイラ(沢野忠庵、通称「目明し忠庵」)も掲載されているのが興味深い。
上掲フェレイラ記事の続き。
アメリカの部、冒頭口絵。
アメリカの部、本文冒頭箇所