書籍目録

『ペリー提督指揮下にて遂行された日本へのアメリカ遠征隊隊員による水路誌と航海上の発見(日米和親条約ファクシミリと英訳と日本近海図を含む)』

モーリー / (ペリー)

『ペリー提督指揮下にて遂行された日本へのアメリカ遠征隊隊員による水路誌と航海上の発見(日米和親条約ファクシミリと英訳と日本近海図を含む)』

1857年 ワシントン刊

Maury, William L. Maury / (Perry, Matthew Calbraith).

SAILING DIRECTIONS AND NAUTICAL REMARKS: BY OFFICERS OF THE LATE U. S. NAVAL EXPEDITION TO JAPAN, UNDER THE COMMAND OF COMMODORE M. C. PERRY.

Washington, A. O. P. Nicholson, 1857. <AB2018221>

Reserved

4to (22.5 cm x 29.0 cm), pp.[1(Title.)-3], 4-21, Hal Title. Of FAC-SIMILE part, pp.14-1, 1 leaf(English translation), folded large map, Contemporary half imitation leather on marble boards.
見返しに蔵書票とノド部分に白テープによる補修あり。一葉(3−2、19,20頁該当)下部余白に欠落あり(テキスト箇所の損傷はなし)。海図の折り目付近にやぶれあり。ところどころにヤケとシミあるが概ね良好な状態。

Information

ペリー遠征隊がもたらした日本情報の流布に関する重要な示唆を提供する稀覯文献

 本書は、ペリー( Matthew Calbraith Perry, 1794 - 1858)による日本遠征隊の公式記録の一つとして出版された書物で、主に日本沿岸への航海に関する指示、注意をまとめた水路誌です。また、後半には日米和親条約の日本文ファクシミリと英訳が収録されています。さらに巻末には日本列島を中心とした大型の折り込み地図(海図)が収録されています。この水路誌と日米和親条約のファクシミリ、海図は、いずれもペリー日本遠征隊の公式記録第2巻(Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China seas and Japan, Performed in the years 1852, 1853, and 1854, under the Command of Commodore M. C. Perry, uUnited States Navy, by Order of the Government of the United States. Volume II. 1856)に収録されているものですが、本書は、独立した書物として改めて1857年に刊行されており、折丁記号や用紙も異なっている大変珍しいものです。

 水路誌の主な執筆者となっているのはモーリー(William L. Maury, 1813 - 1878)で海軍大尉としてペリー遠征隊の航海に際して中心的な役割を果たしたことで知られています。モーリーは航海中に自身の日記も残しており、これは他の書簡類や肖像画とともに現在、横浜開港資料館に保管されています。横浜開港資料館編『ペリーと横浜来航』(横浜開港資料館、2004年)には、モーリーと彼の水路誌について次のように紹介されています。

「モーリーは最初、輸送船カプリス号(傭船)に乗務し、のちミシシッピ号に転属しました。日本ではプレブルやベントらと毎日のようにボートで測量に出て、海図を作成しました。また彼が作成した江戸、下田港、函館港の水路誌 Sailing Directions は、航海中に艦隊の印刷物『ジャパン・エクスペディション・プレス』に刷られて配布され、のちに『日本遠征記』第2巻に収録されています。その部分だけ独立して出版もされました(本書のこと;引用者註)。海図も水路誌も日本への航海には欠かせない情報です。『日本遠征記』第1巻の前書きの注記には「水路学の部門においては、提督はとくに海軍大尉W・L・モーリー氏およびS・ベント氏の、正確で精力的な業績を認めている」と特記されています。」
(同書82頁コラム、伊藤久子「モーリー大尉の日記と水路誌」より)

「モーリー編『水路誌と航海上の所見』(1857年刊)も、遠征記第2巻に収録された水路誌をそのまま別冊にした本で、中国・日本沿岸の海図や日米和親条約の日本語原文も付されています。日本近海の航海のため最新の情報を、携帯に便利な本にして、実用に供する目的だったと考えられます。」
(同書82頁より)

 『日本遠征記』は、上院版と会員版、下田公衆浴場の混浴の場面を描いた図版を収録するものとそうでないものなど、様々な異刷が存在することが知られていますが、試みに店主の手元にある上院版第2巻の本書収録記事該当部分とを比較してみますと、折丁記号や用いられている用紙も全く異なることがわかります。具体的には、

本書
・独立したタイトルページ(「1857年ワシントンにてニコルソン(A.O.P. Nicholson, Public Printer、『日本遠征記』下院版の出版社としても知られる)にて出版」との表記)を有する。
・タイトルページを1頁として、「水路誌」は21頁まで、「日米和親条約のファクシミリ」は、独立したページづけがなされており、和文冒頭から1頁から14頁まで+英文。
・折丁記号は、タイトルページを1-1として、連続して5-4まで。
・「日米和親条約のファクシミリ」の仮表題紙の表記が『日本遠征記』のそれと若干異なる。
・テキストは、『日本遠征記』上院版よりもやや厚手の用紙に印刷。
・海図はテキストよりもさらに厚手の用紙に印刷。

「日本遠征記』第2巻
・独立したタイトルページではなく、簡易の仮表題のみ。
・巻全体の連続したページづけがなされており、「水路誌」は371頁から392頁まで、「日米和親条約のファクシミリ」は、巻末に独立したページづけがなされており、和文冒頭から1頁から14頁まで+英文。
・巻全体の連続した折丁記号があり、「水路誌」は、47s1から49s4まで、「日米和親条約のファクシミリ」は、53s-1から55s-1まで。
・「日米和親条約のファクシミリ」の仮表題紙の表記が本書のそれと若干異なる。
・テキストは、本書よりもやや薄手の用紙に印刷。
・海図はテキストよりもさらに薄手の用紙に印刷。

といった相違点を確認することができます。こうした書誌学上の両者の相違点は、単に書物の形態上の相違点にとどまらず、本書出版の意図や背景といった重要な情報を示唆するものでもあります。すなわち、これらのことから、

・本書は、『日本遠征記』の印刷済残部を用いて刊行されたのではなく、独立した書物として出版するという明確な意志と目的をもって出版されているということ。

・「水路誌」と「日米和親条約のファクシミリ」は、内容状の関連性は皆無(事実、『日本遠征記』においては、全く別の箇所に掲載されている)であるにもかかわらず、意図的に両者を組み合わせて編纂されていること。

といったことを読み取ることができるのではないかと思われます。本書刊行当時において、まだまだ未知の海域であった日本沿岸地域の最新で正確な水路情報を提供するという実用的な目的に供する(本書では、海図を『日本遠征記』所収のものよりもかなり厚手の用紙に印刷していることもこのことを裏付ける)と同時に、これらの情報が、画期的な日米和親条約に結実したアメリカの遠征隊によってもたらされたということを、改めて広く周知、認識させるという、ある種の示威的な意図を、本書から得ることができるのではないでしょうか。

 『日本遠征記』は、様々な異刷が存在するために、その全貌を明らかにするという課題がなお残されているとはいえ、(特に発行部数が多かった下院版は)現在でも比較的入手が容易である一方、ここから独立して出版された本書のような書物は残存数が極めて少なく、国内研究機関における所蔵も非常に限られている(本書に限ってはおそらく横浜開港資料館のみではないかと思われる)のが現状です。こうした出版物は、上述したように、それぞれに固有の背景と意図をもって出版されていることから、ペリーによる遠征隊がもたらした日本に関する情報が流布していく背景や歴史を辿る上で、非常に重要な示唆を提供してくれるものと言えます。こうした意味において、本書は知られているようで十分に解明し尽くされていないペリー遠征隊に関して、ユニークな研究の視座を提供しうる貴重な学術資料と思われます。

装丁は刊行当時のものと思われるもの。
ノドの部分には補強のためのテープが貼られている。
タイトルページ。『日本遠征記』収録記事ない本書のために用意されたもの。
「水路誌」冒頭箇所。
「日米和親条約ファクシミリ」冒頭箇所。
日本文の順序に沿って独立したページづけがなされている(この点は『日本遠征記』収録記事も同じ)。
最後に条約の英訳文が掲載されている。
前掲の続き。
巻末に収録している海図は、広げると107cm x 110 cmにもなる大変大きなもの。テキストよりもさらに厚手の用紙に印刷されており、実際に利用されることを想定したつくりになっている。
  • (参考)『日本遠征記』上院版第2巻の「水路誌」の仮表題紙
  • 本書のタイトルページ。
  • (参考)『日本遠征記』上院版第2巻「水路誌」記事
  • 本書の同じ箇所。左下部に本書独自の折丁記号(2)を確認できる。
  • (参考)『日本遠征記』上院版第2巻の「日米和親条約ファクシミリ」仮表題紙。左下に『日本遠征記』上院版独自の折丁記号(53s)を確認できる。
  • 本書も同様の仮表題紙があるが、『日本遠征記』とは折丁が異なるので、左下に記号はない。また、表記が若干異なっており、本書のために新たに作成されていることがわかる。
  • (参考)『日本遠征記』上院版第2巻の「日米和親条約ファクシミリ」末尾と英訳文。英訳文頁(右頁)の左下に折丁記号(55s)を確認できる。
  • 本書の同じ箇所。折丁が異なるので記号を確認できない。
  • (参考)『日本遠征記』上院版第2巻に収録されている海図。大きさはほぼ同じだが、本書に比べて明らかに薄い用紙に印刷されている。
  • 本書に収録されている海図。