書籍目録

『ルブラーニによるイエズス会の聖者、福者の賛美集』

ルブラーニ /(日本二十六聖人殉教事件)

『ルブラーニによるイエズス会の聖者、福者の賛美集』

1692年 ナポリ刊

Lubrani, Giacomo.

IL SOLSTIZIO DELLA GLORIA DIVINA Nel Nome Santissimo DI GIESU, Predicato in due Mondi DA' SANTI, E BEATI DELLA SU A COMPAGNIA. PANEGIRICI DI GIACOMO LVBRANI,...

Napoli, Ant. Parrino / Michele Luigi Mutii, 1692. <AB2018215>

Sold

4to (15.0 cm x 21.0cm), Front., Title.,5 leaves, pp.1-339, 333-341, Contemporary parchment.
ページ余白に虫食いによる穴と破れあり。ページの一部に強いヤケあり。[Sommervogel: Vol.V-143]

Information

「日本二十六聖人殉教事件」で犠牲となった日本のイエズス会士3人を賞賛

 本書は、イエズス会士を中心とした歴史に名を残したカソリックの聖人や福者を個別に取り上げ、その生涯と偉大さを讃えたものです。英雄を称える称賛演説に起源をもつ「賛辞」を集めた賛辞集は、ルネサンス以降の出版物において一つの大きなジャンルとなったもので、特にカソリック出版物の文脈においては、本書のように聖人や福者を讃える重要な出版物として捉えられ、当時の賛辞演説の名手による様々な賛辞集が出版されています。本書の著者であるルブラーニ(Giacomo Lubrani, 1619 - 1693)は、ナポリ出身のイエズス会士で、ナポリにおいて長きにわたって文法、人文学の教鞭を取っていたことが知られており、本書医学にも数多くの著作を残しています。ルブラーニによる賛辞集である本書には、イエズス会創始者であるロヨラ(Ignacio López de Loyola, 1491 - 1556)(17-84頁)や、日本布教の道を開いたザビエル(Grancisco de Xavier, 1506? - 1552)(85-156頁)、第3代イエズス会総長であるボルジア(San Francisco de Borja, 1510 - 1572)(157-226頁)などの、主にイエズス会の初期の活動を支えた人物らの生涯を題材とした賛辞が20本収録されています。

 本書が、日本との関係で本書が興味深いのは、日本のイエズス会士であった3人、パウロ三木、ヨハネ五島、ヤコブ喜斉の生涯についての賛辞(DE' PROTOMARTIRI GIAPPONESI PAOLO MIKI, GIOVANNI GOTO, GIACOMO CHISAI.)が、最終部(第20章、324頁から339頁)に収録されていることです。1597年2月15日に長崎の西坂の丘の上の刑場で26人のキリスト教信者が処刑され流といういわゆる「二十六聖人殉教」事件は、豊臣秀吉による大規模なキリスト教迫害事件として、当時在日していた宣教師ルイス・フロイス(Luís Fróis, 1532 - 1597)による報告などによって、当時からヨーロッパで広く知られ、また非常に大きな衝撃を与えました。事件から30年後の1627年に、殉教者26人は福者としてウルヴァノ8世によって列福されたことで、この事件はその後もヨーロッパで長く記憶されることになり、様々な出版物が生み出されています。イエズス会は、フランシスコ会と比べて、世界各地の布教地において死没した宣教師の顕彰に当初消極的でしたが、1627年の列福以降は、「殉教者」として積極的に称える方針へと転換し、本書が刊行された1692年当時には、日本布教の今後の進展が絶望的になっていたこととも関係して、日本で落命した「殉教者」を称えることで、彼らの「勝利」を極めて精力的に喧伝するようになっていたことがわかります(イエズス会士とフランシスコ会士の「殉教」に対する態度の変遷とその背景については、小俣ラポー・日登美「日本の『殉教』とグローバル・ヒストリー:−日本が西欧の歴史に内在化する時–」日本東洋学会『通信』第42号、2019年所収を参照)。

 本書では、上述したイエズス会の創始者や初期活動を支えた人物らと並んで日本のイエズス会士が取り上げられており、当時の彼らの殉教が与えた衝撃の大きさと、極めて高い評価を見て取ることができる非常に興味深いものです。演説では、本題に入る前に日本についての概説から始められていて、日本が極東に位置する多くの島々からなることや、気候、ザビエルに始まる布教の歴史などが簡単に紹介されています。ザビエルによって種が撒かれ、日本に芽吹きつつあったキリスト教の教えの広がりを妨げることになった要因として、イギリス、オランダというプロテスタント諸国の日本来訪と、何よりも暴君太閤様(Taicosama、秀吉のこと)によるキリスト教弾圧が取り上げられています。秀吉は、初期キリスト教会の弾圧で知られるローマ皇帝ネロに相当する暴君として扱われており、この暴君が引き起こした最大の事件の一つとして「二十六聖人殉教」事件が位置付けられています。ルブラーニの論調は、イエズス会神父のアルブリーティオ(Luigi Albritio, 1579 - 1655)が彼の演説集において同じく日本の殉教者3人を取り上げた論調と同じく、非常に情熱的なものではありますが、アルブリーティオよりも事実経過に沿ってより事件の背景を具体的に論じることに重きが置かれているように見受けられます。こうした相違が、著者の違いに起因するものなのか、あるいは、本書がアルブリーティオの著作(1655年刊)から40年近く後になってから刊行されているという時代の変化に起因するものかについては、より詳細な調査が必要と思われますが、いずれにしても同じ主題を扱いながらも、様々な論じ方が存在していたということは、「日本の殉教者」の言説の変遷を理解する上で大変興味深いことと言えるでしょう。

 なお、本書は好評を博したようで、1705年には再版されていることが確認できます。本書は、初版、再版のいずれも、ラウレス・キリシタン文庫にも書誌情報が登録されておらず、国内研究機関における所蔵も確認できないことから、これまで研究において言及されたことがない文献ではないかと思われます。

  • 刊行当時のものと思われる装丁で状態は良い。
海を越えて世界にカソリックの教えの光が降り注いでいく様を象徴的に表現した口絵。
タイトルページ。著者ルブラーニ生誕の地で、活躍の中心地でもあったナポリで1692年に刊行されている。
目次。ロヨラ、ザビエルといったイエズス会創設期の聖人や福者らの功績を讃えた称賛演説が20本収録されている。「日本の殉教者」が論じられているのは最終第20章。
ロヨラ称賛演説冒頭箇所。
ザビエル称賛演説冒頭箇所。
「日本の殉教者」称賛演説冒頭箇所。3名の名前を明記している。
秀吉(Taicosama)は、初期キリスト教界を弾圧したことで知られるローマ皇帝ネロに比する暴君として扱われている。
121-142ページに欠けて、余白部分に虫食いによるものと思われる欠損があるが、テキストの欠落はない模様。