書籍目録

『イエズス会アルブリティーオ神父による聖なる賛辞集』

アルブリティーオ / (日本二十六聖人殉教事件)

『イエズス会アルブリティーオ神父による聖なる賛辞集』

ジュンタ版 1655年 ヴェネツィア刊

Albritio, Luigi.

PANEGIRICI SACRI Del Padre LVIGI ALBRITIO Della Compagnia di GIESV.

Venetia, Giuti, M. DC. LV. (1655). <AB2018214>

Sold

Giunti ed.

12mo (8.0 cm x 14.0 cm), Half Title., Title., 4 leaves, pp.1-140, 73(i.e.141), 142-355, 256(i.e.356), 357-365, 364(i.e.366), 367-522, 235(i.e.523), 524-575, Contemporary parchment.
背の革に切れ目と破れあり。本文テキスト余白に一部刊行当時のものと思われる書き込みとテキスト上にインク染み(363頁)あり。[Sommervogel: Vol.1-139]

Information

ロヨラ、ザビエルらと並んで大きく取り上げられた「日本二十六聖人殉教事件」で犠牲となった日本のイエズス会士

 本書は、イエズス会士を中心とした歴史に名を残したカソリックの聖人や福者を個別に取り上げ、その生涯と偉大さを讃えたものです。英雄を称える称賛演説に起源をもつ「賛辞」を集めた賛辞集は、ルネサンス以降の出版物において一つの大きなジャンルとなったもので、特にカソリック出版物の文脈においては、本書のように聖人や福者を讃える重要な出版物として捉えられ、当時の賛辞演説の名手による様々な賛辞集が出版されています。イエズス会神父のアルブリーティオ(Luigi Albritio, 1579 - 1655)による賛辞集である本書には、イエズス会創始者であるロヨラ(Ignacio López de Loyola, 1491 - 1556)(164-211頁)や、日本布教の道を開いたザビエル(Grancisco de Xavier, 1506? - 1552)(212-262頁)、第3代イエズス会総長であるボルジア(San Francisco de Borja, 1510 - 1572)(348-389頁)などの、主にイエズス会の初期の活動を支えた人物らの生涯を題材とした賛辞が収録されています。著者であるイエズス会士アルブリティーオは、説教、演説の名手として当時名高く、本書以外にも多くの演説、説教集を刊行しています。

 本書が、日本との関係で本書が興味深いのは、日本のイエズス会士であった3人、パウロ三木、ヨハネ五島、ヤコブ喜斉の生涯についての賛辞が、263頁から306頁にわたって収録されていることです。1597年2月15日に長崎の西坂の丘の上の刑場で26人のキリスト教信者が処刑されるといういわゆる「二十六聖人殉教」事件は、豊臣秀吉による大規模なキリスト教迫害事件として、当時在日していた宣教師ルイス・フロイス(Luís Fróis, 1532 - 1597)による報告などによって、当時からヨーロッパで広く知られ、また非常に大きな衝撃を与えました。事件から30年後の1627年に、殉教者26人は福者としてウルヴァノ8世によって列福されたことで、この事件はその後もヨーロッパで長く記憶されることになり、様々な出版物が生み出されています。イエズス会は、フランシスコ会と比べて、世界各地の布教地において死没した宣教師の顕彰に当初消極的でしたが、1627年の列福以降は、「殉教者」として積極的に称える方針へと転換し、本書が刊行された1655年当時には、日本布教の今後の進展が絶望的になっていたこととも関係して、日本で落命した「殉教者」を称えることで、彼らの「勝利」を極めて精力的に喧伝するようになっていたことがわかります(イエズス会士とフランシスコ会士の「殉教」に対する態度の変遷とその背景については、小俣ラポー・日登美「日本の『殉教』とグローバル・ヒストリー:−日本が西欧の歴史に内在化する時–」日本東洋学会『通信』第42号、2019年所収を参照)。

 本書では、上述したイエズス会の創始者や初期活動を支えた人物らと並んで、彼らとほぼ同じだけの紙幅を割いて日本のイエズス会士が取り上げられており、当時の彼らの殉教が与えた衝撃の大きさと、極めて高い評価を見て取ることができる非常に興味深いものです。文中では、パウロ三木、ヨハネ後藤、ヤコブ喜斉の3人の信仰がどれだけ篤いものであったかを強調していて、専制的な君主と坊主(Bonzi)によって日本で広められている誤った教え(仏教や神道)に染まらずに信仰を顕示し、困難な状況にあっても日本の暴君である太閤様(Taicosama tiranno Giaponese、秀吉のこと)の官吏に屈することなく、逆に彼らに教えを説いたこと等を情熱的に伝えています。本書で語られている内容は、殉教事件の史実を忠実に伝えることよりも、彼らの死がいかに信仰に殉じた崇高なものであったのかを称えることに主眼が置かれており、当時のイエズス会におけるパウロ三木ら3人の死がどのようなレトリックで語り継がれ、評価され、喧伝されていたのかを伝える興味深い内容となっています。

 また、本書は1655年にヴェネツィアで出版されていますが、16世紀を中心にフィレンツェを始めイタリア各地における勢力的な出版活動で知られるジュンティ(Giunti)家のうち、主にカソリック関係著作の出版を行なっていたヴェネツィアのジュンティから出版されており、有名なジュンティ家の出版標章をタイトルページに見ることができます。

 本書はラウレス・キリシタン文庫にも書誌情報が登録されておらず、国内研究機関における所蔵も確認できないことから、これまで研究において言及されたことがない文献ではないかと思われます。

ロヨラ称賛演説冒頭箇所
ザビエル称賛演説冒頭箇所
ロヨラ、ザビエルに続いて掲載されているのが、日本の3人の殉教者を称賛する演説。
太閤様(秀吉のこと)による暴虐に屈することなく信仰を堅持した殉教者として3人の信仰の篤さを様々なレトリックを用いて情熱的に称賛している。
  • 背表紙に横方向の切れ目が複数あり、背革の一部が外れている状態だが、概ね状態は良いと言える。