書籍目録

『古き日本のある物語:カンタータ』(楽譜集)

コールリッジ=テイラー / ノイズ

『古き日本のある物語:カンタータ』(楽譜集)

1926年公演ビラ付属 1911年 ロンドン刊

Coleridge-Taylor, S(amuel). / Noyes, Alfred.

A TALE OF OLD JAPAn: A CANTATA FOR SOLI, CHORUS AND ORCHESTRA. (NOVELLO'S ORIGINAL OCTAVO EDITION)

London, Novello and Company, Limited, 1911. <AB2018209>

Sold

16.5 cm x 25.6 cm, pp.[i(Title.)-iii], iv, v, [1], 2-99,1 blank leaf, [1], 2-8(advertisements), Original half cloth on pictorial card boards.

Information

「日本を扱った大規模な合唱曲としては、ほとんど唯一の作品」

「サミュエル・コールリッジ=テイラー(1875〜1912)は、近年ようやくその作品が日の目を見るようになった作曲家である。彼はアフリカのシエラ・レオネ出身の父親とイギリス人の白人の母親の間に生れた混血児であった。しかし医師をしていた父親はまもなく国へ帰り、サミュエルは母の手で育てられた。彼は王立音楽学校ではヴァイオリンを習い、傍らスタンフォードの下で作曲を学んだが、1890年には早くも《テ・デウム》を作曲するという早熟ぶりを発揮した。彼が世に認められるようになったのは、カンタータ《ハイアワサの歌》(作品30)であり、これは彼の代表作ともなった。彼は黒人の血が混じっていることから来る当時の音楽界の偏見と戦いながら、37年という短い生涯に、様々なジャンルに亘って数多くの作品を書いた。その内容は、彼が学んだイギリスの伝統的手法による音楽、自分の血と関係があるアフリカを題材にした音楽、さらには彼が傾倒した東洋的な題材の音楽など多彩である。しかし作風は全体的に保守的であり、例えばアフリカの野趣に富んだ音楽をあまり期待することはできない。
 彼はすでに1906年に、中国を題材に取った《クブラ・ハーン》(作品61)という合唱付きの狂詩曲を書いて、東洋的なものへの傾倒を示しているが、その系列に属する作品として、5年後に《古い日本の物語》(作品76)というカンタータを発表した。この作品は、アルフレッド・ノイェスの詩に付けたもので、キミという娘とヨイチという絵師の悲恋を扱っている。コールリッジ=テイラーは、その詩の題名と登場人物のエキゾチックな名前がまず気に入り、さらにその詩のレトリックに富んだ美しさにも魅せられ、作曲の衝動に駆られたことを告白している。このカンタータは、1911年クインズ・ホールにてロンドンの合唱協会の演奏で初演され、《ハイアワサの歌》以後のこの種の作品としては、最も成功したものと評された。日本を扱った大規模な合唱曲としては、ほとんど唯一の作品と思われる。」

(岩田隆『ロマン派音楽の多彩な世界』朱鳥社、2005年、225-226頁より)