書籍目録

『外国伝道報告書簡選集;インド(第15,16巻)、日本・パラグアイ(第17,18巻)』

ファンファーニ編

『外国伝道報告書簡選集;インド(第15,16巻)、日本・パラグアイ(第17,18巻)』

4冊(全18巻中) 1829年 ミラノ刊

Fanfani, Ranieri.

SCELTA DI LETTERE EDIFICANTI SCRITTE DALLE MISSIONI STRANIERE PRECEDUTA DA QUADRI GEOGRAFICI STORICI, POLITICI, RELIGIOSI E LETTERARI DE’ PAESI DIMISSIONE…

Milano, Ranieri Fanfani, 1829. <AB2018203>

Sold

4 vols. (of 18 vols.)

8vo (15.0 cm x 21.0 cm), Vol. 15: A folded colored map, Title., pp.[1-5], 6-278, 1 blank leaf, Colored plates with tissue guards: [5], Vol. 16: pp.[1(Title.)-5], 6-282, 1 blank leaf, Colored plates with tissue guards: [6], Vol. 17: A folded colored map, pp.[1(Title.)-7], 8-254, 1 blank leaf, Colored plates with tissue guards: [4], Vol. 18: pp.[1(Title.)-5], 6-420, 2 leaves Colored plates with tissue guards: [6]., Contemporary half leather on marble boards.
ページの所々にシミあり。

Information

 本書は、16世紀から17世紀にかけてのイエズス会による日本伝道の記録を多分に含んだ文献で、美しく彩色が施された日本地図をはじめとした図版を多数収録しています。元々は、イエズス会をはじめとしたカソリックによる世界各地の伝道の記録と現地の社会、文化を包括的に収録するという全18巻からなる叢書として企画されたもので、今回ご案内するものは、その最終部にあたる第15巻から第18巻にあたり、イタリアのミラノで1829年に刊行されています。

 この叢書は、南北アメリカや中国、東南アジア、インド、そして日本といったカソリックによる世界各地への勢力的な伝道活動の軌跡を主要な報告書簡集を再編纂し、新たに多くの地図や銅版画を盛り込んだもので、単なる伝道記録としてだけではなく、世界各国地域の「世界地誌」としても読むことのできるものです。第15巻と第16巻は、主にインドを対象としており、第17巻と第18巻は日本(とパラグアイ)を対象としています。編者にして出版社でもあるファンファーニ(Ranieri Fanfani)についての詳しい経歴は不明ですが、19世紀はじめの時点において用いることができた、世界各地へのカソリック伝道書簡集の「古典」とも言える評価の高い文献を自身の視点で独自に再編集したこの叢書は、カソリック伝道の歴史の肯定的な再評価を促すとともに、当時流行していた「世界地誌」「世界史」文献としても好評を博したことが伺えます。本書に豊富に収録されている彩色図版は、現在の視点から見ると疑問に思わざるを得ないものも散見されますが、本書刊行当時のヨーロッパにおける視覚情報の標準的な水準を示すものとしてかえって貴重なものが多く、また地図資料についても、少なくとも当時最新の知見が反映されたものを採用しようとする姿勢が伺えることから、当該地域に関する地理情報の当時のヨーロッパにおける水準を本書に見ることができるものと思われます。

 日本を対象とした記事は、第17巻全てと第18巻の前半に見ることができます。第17巻の冒頭には、彩色が施された日本地図が収録されていますが、これは1820年から21年にかけてロッシ(Luigi Rossi)によって刊行された『52枚の地図からなる新世界地図帳(Nuovo atlante di geografia universale in 52 carte. 1820–21)』の第27図として収録された日本図を範に採ったものと思われます。ロッシの地図帳に収録された日本図は、同時代のフランスの地図製作者ビュアージュ(Jean-Nicolas Buache, 1741-1825)が1820年ごろに刊行した日本図を範にしたもので、先行する日本図を参照して作成された当時のヨーロッパにおける標準的な日本図と言えるものです。ロッシの地図帳は本書と同じくミラノで刊行されていますので、ファンファーニは、この当時最新であった日本図に着目し、本書に採用したものと思われます。

 本文については、ファンファーニが序文で述べているように、イエズス会による16世紀の日本伝道書簡集の古典として名高いマッフェイ(Giovani Pietro Maffei, 1533 - 1603)の『インド史』のセルドナーティ(Francesco Sedonati, 1540 - 1602)によるトスカーナ語訳版(Le istorie delle Indie orientali. 1589)を主な資料として用いています。マッフェイの書簡集は、16世紀の日本社会の状況をヨーロッパに伝えた文献として同時代から現代に至るまで高く評価され続けている古典的名著と言えるものですが、ファンファーニは本書によって、当時の文脈でマッフェイの再評価を試みたとも言えます。本書に収録されている彩色図版は、マッフェイの著作には含まれていなかったもので、その大半は、モンターヌス(Arnoldus Montanus, 1625 - 1683)の『東インド会社遣日使節紀行(Gedenkwaerdige gesantschappen der Oost-Indische Maatschappy in ’t Vereenigde Nederland, aan de kaisaren van Japan. 1669)』に源流を持つものと思われます。モンターヌスのこの著作は、ヨーロッパに日本についての視覚情報を本格的にもたらした著作としても知られていますが、ここに収録された日本の人々の姿は、その後の「日本像」に強い影響を及ぼし、19世紀半ばに至るまで繰り返しこの著作に由来する図版が、様々な書物に登場しています。本書に収録されている図版もこうした系統にあるものと思われます。現代の視点から見ると荒唐無稽と思われるものも少なくありませんが、当時のヨーロッパにおける標準的な「日本像」がどのようなものであったかを理解する上では、大変重要なものです。

 本書は、18巻にもわたる叢書の一部に含まれていたこともあって、これまでほとんど知られることがなかった文献と思われますが、日本についての記述の分量だけでも、ゆうに単行本1冊を超えるものがあり、また上述したような地図や図版といった視覚情報をふんだんに収録している点に鑑みても、1820年代におけるヨーロッパの標準的な日本像を伝える文献として、決して看過できない価値を有するものと思われます。