書籍目録

『日本に住む東インドのこれまで記録されていない極めて貴重なヤマネコの記録』

フォスマール

『日本に住む東インドのこれまで記録されていない極めて貴重なヤマネコの記録』

仏訳版 1773年 アムステルダム刊

Vosmaer, A(rnout).

DESCRIPTION D'UN CHAT SAUVAGE INDIEN, TRÈS SINGULIER, QUI N'A POINT ENCORE ÉTÉ DÉCRIT, ET QUI SE TROUVE AU JAPON;...

Amsterdam, Pierre Meijer, M. DCC. LXXIII.(1773). <AB2018197>

Sold

First edition in French.

4to (21.0 cm x 27.8 cm), pp.[1(Title.)-3], 4-6, blank leaf, with a plate, Modern paper wrappers.
(Landwerh's VOC:625]

Information

250年近く前にヨーロッパに渡ったツシマヤマネコ?非常に珍しい仏訳版

 本書は、図版1枚、テキスト4頁からなる小冊子ですが、図版を交えて「日本のヤマネコ」を18世紀にヨーロッパに伝えていたという、大変興味深い文献です。この「日本のヤマネコ」とされるヤマネコがいかなるヤマネコであったのかについては、その記述と図版からある程度推測が可能かと思われますが、当時の日本の対外交渉の窓口の一つでもあった対馬のヤマネコ、すなわち「ツシマヤマネコ」であった可能性が高いのではないかと思われます。このヤマネコが輸出されたと思われる時期は、いわゆる田沼時代に当たる時期で、幕府が長崎貿易を推奨し蘭学が交流した時期にあたりますので、こうした時流を背景になんらかの形で輸出が可能になったのかもしれません。

 著者のフォスマール(Arnout Vosmaer, 1720 - 1799)は、18世紀にオランダ、主にハーグで活躍した博物学者、博物学コレクターとして有名な人物です。商売で財を成しつつ、自身の博物学コレクションを早くから構築し始め、1751年にハーグに移ってからは国内外からも注目を集める一大コレクションを築いていきます。彼のコレクションはオランダ王室も知るところとなり、オラニエ公ウィレム5世(Willem V van Oranje-Nassau, 1748 - 1806)のもとで、オランダ共和国の博物館責任者に任命されます。また、彼はアムステルダムの高名な博物コレクターであったセバ(Albertus Seba, 1665 - 1736)のThesaurusの出版(全四巻のうち、第3巻と第4巻を彼が出版)にも尽力し、その過程で、リンネ(Carl von Linné, 1707 - 1778)に強い影響を受けた博物学者ホッタイン(Maarten Houttuyn, 1720 - 1798)とも親しくなり、博物学サークルでの地位を高めていきました。オランウータンの生体展示を初めて行ったのも彼だと言われています。
 
 フォスマールが自身のライフワークとして20年余にわたって刊行を続けたのが、『最も貴重で驚くべき自然の生物の自然誌的、歴史的記述(Allgemeene natuurkundige en historische beshryving des zeldzaamste en verwonderenswaardigste schepsel in der natuur)』で、これは彼が入手した貴重な世界各地の生物について、1冊につき1種を紹介するというシリーズ企画です。1767年から20年以上をかけて刊行を続け、最終的にそのタイトル数は30を超えるものとなりました。本書は、この企画の中の一冊にあたるもので、日本で採取され、はるばる東インド会社の船で生きたままオランダにまで送られてきたという「日本のヤマネコ」について紹介したものです。全体の中の第13巻に該当するもので、この企画において日本から送られた動物が紹介されているものとしては、唯一の巻となっています。冒頭には「日本のヤマネコ」の銅版画が掲載されており、当時の姿を今に伝えています。テキストでは、ヤマネコとイエネコの類似点と相違点を論じながら、その生物的特徴を細かに記述しています。オランダに持ち込まれたこの猫は、どうやら子猫だったようで、到着時は非常に状態も良かったことが報告されていますが、残念ながら数ヶ月で亡くなってしまったようです。

 フォスマールの上掲著作はオランダ語版と同時にフランス語版でも刊行されていたようで、本書は後者にあたるものです。言語を問わず残存数が少ない文献となっていますが、フランス語版はオランダ版よりも発行部数が少なかったのか、その存在自体がほとんど知られていない稀覯文献となっています。