書籍目録

『全地球の歴史地理学:多くの地図と共に』第12巻(全12巻中)

ヴィセット

『全地球の歴史地理学:多くの地図と共に』第12巻(全12巻中)

1755年 パリ刊

Vaisséte, Joseph.

GEOGRAPHIE HISTORIQUE, ECCLESIASTIQUE ET CIVILE, OU Description de toutes les Parties du Globe Terrestre, enrichie de Cartes Géographiques. TOME DIXIEME.

Paris, Desaint & Saiilant / Jean-Thomas Herissant / Jacques Barois, M DCC LV(1755). <AB2018148>

Sold

12mo (9.3 cm x 16.8 cm), pp.[i(Title.)-iii],v[i.e.iv], v-viij, [1], 2-503, 1 leaf (blank), Folded maps: [7], Contemporary full calf.

Information

現在でも高く評価される18世紀フランスの世界地理書で紹介された日本と日本地図

 本書は、1755年にパリで刊行された世界地理書、『全地球の歴史地理学』の第12巻にあたるもので、日本を含めたアジア地域やアフリカ地域の諸国の地理、歴史について論じた文献です。

 著者のヴィセット(Joseph Vaisséte, 1685 - 1756)は、フランスのベネディクト会士の歴史家として著名な人物で、本書の他にフランス史の著作があり、当時のフランスを代表する歴史研究家の一人です。彼による『全地球の歴史地理学』は、その名の通り、ヨーロッパを中心として、日本を含むアジア、アフリカ、アメリカ各地の当時知られていたあらゆる地域の歴史と地理について包括的に論じることを試みた企画で、ヴィセット晩年の1755年に刊行されました。4折判で全4巻と12折判で全12巻の二種類が同時に刊行されており、本書は後者にあたるものです。

 『全地球の歴史地理学』の特徴は、歴史家でありかつ地理学の造詣も深かったヴィセットならではの記述の精確さと、同時代を代表するフランスの地図製作者ヴォーゴンディー(Robert de Vaugondy, 1723 - 1786)による数多くの地図を収録している点にあり、世界地理学書として当時の最高水準にあったものと思われます。本書は、八つ折り判の最終第12巻にあたるもので、現在の南アジア、東南アジア、日本や中国、朝鮮を含む東アジア、エジプトなど北アフリカ地域を対象としています。主要な地域や国については、ヴォーゴンディーによる地図と併せて紹介されており、日本を含めて全部で7枚の折り込み地図が収録されています。

 日本についての記述は、アジア諸島(Les Isles D'Asie)の部の冒頭にあり、265頁から320頁にかけて比較的詳細に論じられています。地理情報に関する概論に始まって、本州(当時は日本、Niphon, Niponと呼ばれていました)と九州(当時はいくつかの名称がヨーロッパで用いられていましたが、本書ではイエズス会の布教区分に由来する名称である下(しも)島、L'isle de Ximoが採用されています)、四国(Xicoco, Sicosk)という、当時の日本を構成する主要三島の説明と、それぞれの主要な都市について紹介しています。また、日本に隣接する地域として現在の北海道である蝦夷大陸(Terre de Ieso ou Yesso)、現在の沖縄である琉球諸島(Les isles de Lequios)についても合わせて紹介されています。また、地理情報だけでなく、統治機構、文化、言語、宗教などについても紹介しており、手短ながらも正確に多くの文献を参考にしながら日本についての歴史、社会を同時に把握できるようなテキストとなっています。

 日本を描いた地図は、1748年に刊行されたヴォーゴンディーの地図帳(Atlas Portatif Universel e Militaire...)に登場(日本を含む後半部分が刊行されたのは1749年)したばかりの当時最新の日本地図(本図には1749年と明記)で、特に当時のヨーロッパでは地理的に未知の地域となっていた蝦夷を明確に島として描いている点に特徴があります。現在の目から見ると相当奇異な輪郭で描かれていますが、当時は蝦夷が島であるのか、あるいは大陸とつながった半島であるのかについてすら明らかになっておらず、様々な輪郭で描かれていましたので、明確に島として描いた本図は、むしろ相対的にかなり正確なものであったと言えます。ただし、本州と蝦夷との間に存在しない、いわゆる松前島が描かれていたりする点などは混乱が見られます。とは言え本図が当時のヨーロッパにおいて最新の知見を反映した日本地図であったこと自体は間違いなく、その意味では著者であるヴィセットが、できるだけ正確で新しい知識に基づいて、日本を紹介しようとしていたことがわかります。なお、ヴォーゴンディによるこの日本図は18世紀後半のヨーロッパにおける標準的な日本地図の地位を占めるようになり、本書に限らず複数の文献に繰り返し採用されることになります(ただし、ヴォーゴンディは本図と異なる蝦夷を省き本州北端をより正確に描いた別系統の日本図も作成しています)が、その都度に細かな改訂が加えられており、改訂の変遷を辿ることによって、当時のオーロッパにおける日本に関する地理的情報の展開を辿ることができます。

 本書は、全巻揃いで見つかることが非常に稀有で、また日本についての記事を収録している本書、あるいは4折判本の第4巻だけでもあまり見つかることがありません。また、現存しているものであっても、ヴォーゴンディーによる重要な地図類が切り取られてしまっているものが多いことから、本書のように日本地図を含む図版が完備しているものは、貴重な研究資料ということができそうです。

(地図の詳細については、特にジェイソン・C・ハバード著 日暮雅道訳『世界の中の日本地図:16世紀から18世紀 西洋の地図に見る日本』柏書房、2018年, 390-397頁(Jason C. Hubbard. JAPONIAE INSVLAE. Hes & De Graaf. 2012. pp.348-34)参照)

タイトルページ。本書は、4折判で全4巻と12折判で全12巻の二種類が同時に刊行されており、本書は後者にあたる
目次①
目次②
目次③
目次④
1748年に刊行されたヴォーゴンディーの地図帳(Atlas Portatif Universel e Militaire...)に登場(日本を含む後半部分が刊行されたのは1749年)したばかりの当時最新の日本地図
日本に関する記事冒頭箇所。