書籍目録

『アーティスト:少女のための装飾絵画、ドローイングその他の手引き』

ガンディ

『アーティスト:少女のための装飾絵画、ドローイングその他の手引き』

1835年 ロンドン刊

Gandee, B. F.

THE ARTIST OR, YOUNG LADIES' INSTRUCTOR IN ORNAMENTAL PAINTING DRAWING, ETC.

London, Chapman and Hall, 1835. <AB2018145>

Reserved

10.2 cm x 16.4 cm, pp.[i(Half Title.), ii], Front., Colored illustrated Title., pp.[iii(Title.)-v], vi, vii, pp.[1], 2-253, 1 leaf (advertisement), Plates: [17], Original decorative green cloth.

Information

漆塗りを模した「ジャパニング(日本風装飾塗装)」の手引きと作品例が掲載された少女向け教育書

 美しい装丁と挿絵がふんだんに収録されている本書は、その名の通り、少女のための芸術手引のための読み物として書かれたものです。1835年にロンドンで刊行されており、当時のロンドンで比較的容易に入手することができた道具や材料を用いて作成することができる、当時最新の(流行りの)様々な芸術技法を会話形式で紹介しています。そして、その中の一つとして、一章を割いて大きく取り上げられているのが、当時「ジャパニング(日本風装飾塗装)」と呼ばれていた、漆塗りを模した技法です。

 本書の冒頭は、ママとその娘であるエレンの会話から始まっています。エレンが近く開催される予定のチャリティーに出品するための手作り品を作らなければならなくなって困っている、という場面から始まって、頼りになるシャルロットにお願いして、様々な技法を教えてもらいましょう、という流れになり、シャルロットを先生にしてエレンがジャパニングをはじめ様々な技法を学んでいく、という内容になっています。各章でエレンが学んだ技法を生かして作成した作品例が挿絵となってふんだんに盛り込まれており、わかりやすいテキスト内容と相まって、テキストとして読みやすくなる工夫がなされています。

 日本の漆塗りを模したジャパニングのヨーロッパでの需要の高さは長い歴史があり、1688年に刊行された『ジャパニングとワニスの技法についての論考(Treatise of Japaninng and Varnishing)』という大部の著作が刊行されたこともあって、日本をイメージさせる工芸技法として特にイギリスやアメリカで流行しました。本書で紹介されているジャパニングもこうした歴史的背景を持って紹介されているものと思われます。本書に収録されている挿絵や、エレンが金箔の扱いに苦労する場面が描かれていることなどに見ますと、漆を使うことはなかったにせよ、比較的正確な情報に基づいて説明がなされていることが伺えます。

 本書は、子供にも読みやすいように工夫された読み物として刊行されたものですが、こうした作品を通じてエキゾチックな日本についてのイメージが19世紀半ばに形成、蓄積されていったことは大変興味深いことのように思えます。本書が刊行されたのは1835年ですが、これを少女時代に読んだ読者は、開国後の日本について知ることにもなった世代でしょうから、当時の本書の読者がその時の日本についてどんなイメージを持ったのかについて、本書を紐解いて想像してみることもまた、意味のあることのように思えます。

タイトルページ。
冒頭に掲載されている口絵
ママの娘であるエレンがチャリティに出品するための素敵な手作り品を作らなければならなくなったので、芸術方面に長けたシャルロットに様々な技法を教えてもらう、という会話劇になっている。
シャルロットが手引きする技巧として一章を割いて大きく紹介されているのが、「ジャパニング」である。
ジャパニングの作品例として図版も掲載されている。
もう一つの作品例図版。こうした子供向けの手引書などの読み物を通じて、エキゾチックな日本に対するイメージが形成されて行ったことがうかがえる。
アーティスト、と題した本だけあって、装丁も大変凝ったもの。
小口三方は美し金箔が施されている。ちなみにジャパニングの記事では、エレンが緊迫の取り扱いに四苦八苦する場面も登場する。