書籍目録

『詩の花々』

タブラーダ

『詩の花々』

(増補改訂第2版) 1904年 メキシコ・パリ刊

Tablada, José Juan.

El Florilegio: SONETOS DE LA HIEDRA / POEMAS EXÓTICOS / GOTAS DE SANGRE / POEMAS / PLATERECAS / MUSA JAPÓNICA / DEDICATORIAS / HOSTIAS NEGRAS.

Paris / Mexico, LIBRERÍA DE LA VDA DE CH. BOURET, 1904. <AB201728>

Reserved

(2nd revised & enlarged edition)

18.0 cm x 11.0 cm, Colored title plate, pp. [i-v (Fly title, Front., title, plate, text)]-xvi, 203, Original decorative cloth.

Information

和歌と俳句をメキシコ、スペイン語圏に初めて紹介した先駆者による詩集

 タブラーダ(José Juan Tablada, 1871 - 1945)は、日本の俳句(俳諧)、和歌にいち早く注目し、スペイン語訳を試みると同時に、自身でも詩作し、メキシコやスペイン語圏での俳句、和歌の広まりに大きな影響を与えた詩人、作家です。本書は、タブラーダの最初の詩集に改定と増補を加えて刊行したもので、一章を割いて和歌のスペイン語への翻訳作品や、日本をテーマにした詩が収められています。

 生涯を通じて雑誌への寄稿など膨大な作品を残したタブラーダですが、その中でも北斎の紹介や収集、そして詩集の刊行といった芸術面での活動に近年再評価が進んでいます。日本においてもタブラーダに関する書物は何点か存在していますが、フランス語や英語圏におけるジャポニズム研究が極めて盛んである状況に比して、スペイン語圏で活躍したタブラーダについての研究は極めて限られています。しかしながら、2008年に太田靖子氏によって、画期的な研究書『俳句とジャポニズム メキシコ詩人タブラーダの場合』が発表されました。太田氏の研究書は、俳句のスペイン語圏への先駆的紹介者としてのタブラーダを歴史的、文学的側面から包括的に論じ、彼の作品の原文と日本語訳とを紹介した画期的な研究書で、本書によってタブラーダの日本での再評価の道が開かれました。
 
 太田氏による前掲書冒頭で、タブラーダは次のように紹介されています。
 
 「日本に憧れ、「日本の僧侶になりたい」と詩に詠ったメキシコ生まれの詩人がいた。彼は、今から百年あまり前に来日し、1919年にスペイン語最初のハイク集を出版している。その詩人とは、スペイン語の詩に、日本の俳句を本格的に導入したホセ・ファン・タブラーダである。この事実にもかかわらず、彼は日本では一般に、ほとんど知られていない。一方、メキシコでは、タブラーダの知名度は近年急速に上がりつつある。ハイク作家という意味で、タブラーダは、日本でも認知されるべき詩人である。ノーベル文学賞を受賞したメキシコの詩人オクタビオ・パス(Octavio Paz, 1914-96)に、日本の俳句の素晴らしさを教えたのもタブラーダであった。」

 本書は、タブラーダによる最初の作品集で1899年に初版が刊行されました。その翌年1900年にタブラーダは、初めて日本を実際に訪れ6ヶ月あまり滞在します。それ以前からも日本への憧憬が強かったタブラーダは、この来日経験によって一層日本文化への憧れを強くし、特に浮世絵と和歌、俳句への傾倒を深めていきます。1904年に改定版として刊行された本書では、この日本滞在を経て新たに加えられた日本を題材にした詩や、和歌のスペイン語訳などの作品が追加されています。太田氏によりますと、本書は、本格的な俳句の技法を用いる作品を発表する前の時期にあたる作品で、その詩作はモダニズムの域にある「日本趣味」に留まる一方で、彼の作品集では最も優れたものとして評価されているということです。特に本書に収録された「日本の詩神(Musa japónica)」は単一脚韻の手法を用いたもので、のちの俳句形式による試作の先駆的作品として評価されています。また、和歌のスペイン語訳(全13首)も本書には収録されており、太田氏も前掲書において、これらはチェンバレンやゴーチェといった、タブラーダに先行する日本詩研究に影響を受けて、試行錯誤しながら生み出された作品であること、タブラーダが俳句研究に先立って、まず和歌の研究を行っていたことを指摘しています。タブラーダの俳句形式を用いた作品が発表されるのは、長い沈黙の時期を経たのちの1919年『ある日(Un día...)』、そして1922年の『花壺(El Jarro de flores)』まで待たねばなりませんでしたが、その萌芽はすでに本書に現れていると言えるようです。

 太田氏の画期的研究によって、ようやく再評価の端緒が開かれたタブラーダですが、その作品のほとんどが動乱の時代にあったメキシコで刊行されたこともあって、肝心の当時の作品を入手することが現在では極めて困難となっています。本書についても、国内における所蔵機関は京都外国語大学だけとなっており、初版の所蔵機関は確認できません。本書は、口絵の下部に痛みが見られますが、当時の装丁を保った貴重なもので、今後の研究資料として十分に活用できるものです。

口絵下部に一部痛みがありますが、当時のものとして状態は比較的良好です。
「日本の詩神」冒頭部分 太田氏による翻訳では、次の通り。 「私は公園にたどり着いた。/ 薔薇の花のなかで蝶たちが / 震える羽を閉じていた…  私はモリバトの甘いささやきを / 聞いた。それは君の愛のかたわらの / 私の愛のさざめき…  私は白い花菖蒲が血を出しているのを見た。 / その大きな蝋燭のような青白さを / 悲劇の苦悩が汚した。」