書籍目録

『日本のこどもの12ヶ月』

[ちりめん本] 長谷川武次郎

『日本のこどもの12ヶ月』

1906(明治39)年 東京刊

Hasegawa, T(akejiro).

THE MONTHS OF JAPANESE CHILDREN FOR 1907.

Tokyo (Yotsuya Hommura), T. HASEGAWA, 明治三十九年九月七日第一版発行、同卅九年一月十日訂正第八版印刷、同月廿日発行. <AB201725>

Sold

13.6 cm x 13.6 cm. Crepe paper book bound in diamond format, 7 folded crepe paper folded sheets including the covers (i.e. 14 pages), bound in Japanese style, Single silk tied.

Information

大変珍しい菱型に綴じられた、カレンダーちりめん本

 ちりめん本の中でも大変珍しい菱形に綴じられたもので、当時の日本のこどもの一年を、1ヶ月につき1ページを当てて、1907年のカレンダーに仕立てたなんともかわいらしいちりめん本です。

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒していました。

 このかわいらしいちりめん本は、ご覧のように正方形の角の一つを綴じて仕立てることで、菱形の形で開くようになっています。タイトルにあるように、こどもの一年を毎月の風景とカレンダーとで構成しており、どの絵も大変愛らしいものです。英字のキャプションがない月もありますが、一目見てその風景が眼前に思い浮かんでくるのは、長谷川によるちりめん本ならではと言えます。

 ところで、このカレンダー仕立てになっているちりめん本、最近になって最注目されているちりめん本の中でも、最も研究が待たれるものと思われます。何しろざっとわかっている限りでも、この手の企画が始まった1895年頃から、最後期の1960年代の間に70前後のカレンダーちりめん本が刊行されていたようで、まだ確認されていないものも多数あると思われることから、その全貌を明らかにすることは容易ではありません。カレンダーという特性上、使い捨てられてしまうことが多かったり、発行部数が通常の書物仕立てのものよりもどうしても少なかったことが、その大きな要因と思われます。

 カレンダー仕立てのちりめん本を研究する上で、大変興味深い資料として、1906(明治39)年に出された長谷川のちりめん本『日本の愛すべき花々(The Favorite Flowers of Japan)』の第二版に掲載された、当時の長谷川によるちりめん本の一覧リストがあります。それによりますと、カレンダー仕立てのちりめん本だけでも、なんと18種類も作成されています。試みにざっと転記すると、下記の通りです。
(冒頭の数字は引用者が付け足したもの)(カッコ内は当時の$価格)
(邦訳は引用者による仮題)

CALENDERS IN BOOKFORM ON CRAPE PAPER. 
(本仕立てのちりめんカレンダー)

1) Japanese Street Scenes Calendar. (0.75) (日本の街頭風景カレンダー)
2) Calendar on Flower Cards. (0.50) (花札カレンダー)
3) The Months of Japanese Children. (0.35) (日本のこどもの12ヶ月)
4) Hairpin Calendar. (0.35) (髪留めカレンダー)
5) Calendar in Japanese Towels. (0.25) (手ぬぐいカレンダー)
6) Japanese Sceneries (4 x 5 1/4 inches). (0.25) (日本の風景 大)
7) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中)
8) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中2)
9) " " (2 x 2 1/2 " ). (0.15) (日本の風景 小)

HANGING CALENDARS.
(壁掛けカレンダー)

10) Japanese Ladies and Street Scenes. (1.25) (日本の婦人と街頭カレンダー)
11) The Favorite Flowers of Japan. (1.00) (日本の愛すべき花々)
12) Hokusai's Masterpieces. (0.50) (北斎傑作集)
13) Hiroshige's Masterpiece. (0.50) (広重傑作集)
14) Japanese Sceneries in "Kakemono". (0.50) (掛物仕立ての日本の風景)
15) The Silhouettes in "Kakemono". (0.45) (掛物仕立ての影絵)
16) Japanese Towels. (0.45) (手ぬぐい)
17) Wistaria. (0.25) (藤の花)
18) Pagoda. (0.20)  (仏塔)

 単に綴じられたものだけでなく、壁掛けのものや、内容も実に多彩であったことがわかります。7)と8)とは全く同じ大きさのようですので、同じ大きさで異なる絵のものがあった可能性もあります。北斎や広重といった長谷川好みのモチーフや、手ぬぐい型ものものあったようです。今回ご案内するものも、ちょうどこのカタログと同じ時期のものですので、これは3)に該当するものと思われます。
 
 カレンダーのちりめん本が最も活発に刊行された時期は、1890年代の半ばから1920年ごろまでと思われます。その後も1960年代の刊行年が確認できるものが現存することから、繰り返し作成されていたことが伺えますが、最も多くのヴァリエーションをもって刊行が行われたのは、概ね上記の時期であると推測されます。

 なお、ちりめん本の研究書で著名な石澤小枝子『ちりめん本のすべて』では、カレンダーのちりめん本について下記のように言及しています。

「カレンダーは他にも色々な種類のものを出している。西宮雄作氏に見せていただいたものでは、ご婦人のハンドバックに入るくらい小さく折り畳んだものもあった。一月の絵は五重の塔の先の避雷針のみで、それを一二月まで広げるとやっと塔の全景が現れるという仕組みのものや、同じ趣向で畳んであるものを全部開くと華厳の瀧になるものなど様々なものがあり、愛好を呼んだに違いない。武次郎の頃からあるものは、主に本の形のものが多いが、西宮与作の時代になると、岐阜提灯のような形のもの、簾のような形のものなど趣向を凝らしている。」

 ひとくちにカレンダーのちりめん本といっても、その内容や、判型、大きさが全く異なるものがこれだけ出されていたとなると、毎年出されたカレンダーのちりめん本の全容を解明することがいかに大変なことかがわかります。とは言え、(まだ見ぬ)多様なちりめん本があるということですから、研究もさることながら、純粋な楽しみとしても今後の発見と整理に期待が高まります。