書籍目録

『フェリペ2世統治下における世界の歴史:第2部 1571年から1585年』

エレラ・イ・トルデシャリス

『フェリペ2世統治下における世界の歴史:第2部 1571年から1585年』

第2版(バリャドリッド版) 1606年 バリャドリッド刊

Herrera y Tordesillas, Antonio de

SEGVNDA PARTE DE LA HISTORIA GENE-ral del Mundo, de XV. años del tiempo delse-ñor Rey don Fellipe II. el Prudente, desde el año de M.D.LXXI. hasta el de M.D.LXXXV.

Valladolido, Juan Godinez de Millis, 1606. <AB201867>

¥399,600

Second edition.

Large 8vo (19.0 cm x 27.0cm), 1 leaf (blank), Title, 1 leaf, pp.1-197[i.e.179], 180-379[i.e.375], 376-462[i.e.464], 460[i.e.465], 462[i.e,466], 467-300[i.e.500], 501-510, lacking 2 leaves?[i.e. pp.511-514, may be never printed], 515-710[i.e.620], 711[i.e.621], 622-630, 1 leaf(Printer device),19 leaves (bibliography, tables), 1 leaf (blank), Later (18th Century?) speckled calf.
装丁の綴じに緩み(表表紙が外れかけており、見返しと冒頭1葉(印字なし)が綴じから外れている)あり。

Information

スペイン王室から見た天正遣欧使節記事を含むフェリペ2世正史

 本書は、「日の沈まない帝国」と呼ばれた黄金時代のスペイン王であったフェリペ2世(Felipe II, 1527 - 1598)の統治下に起きた出来事を記した歴史書で、全3部からなるうちの第2部(1571年から1585年)にあたるものです。日本との関係で非常に興味深い、天正遣欧使節とフェリペ2世との謁見の場面を詳細に記した記事が本書には収録されています。また、それ以外にも日本における1577年から83年までのイエズス会による宣教活動と戦乱に明け暮れる日本の不安定な社会情勢についての記述や、フィリピンとの関係から見た日本についての記述も見ることができます。

 名門ハプスブルク家のカスティーリャ、ならびにアラゴン王国の国王として君臨したフェリペ2世の治世下のスペインは、1581年にフェリペ2世がポルトガル国王としても即位したことにより、大航海時代以降におけるポルトガル、スペイン両国による世界各地を支配下に収めることになり、その結果「日の沈まない帝国」と称されるようになりました。本書が「世界の歴史(Historia General del Mundo)」と題されているのも、当時流行の一つであった「普遍史」という意味合いを持たせたことももちろんあるでしょうが、それと同時にフェリペ2世治世下の歴史は、すなわち世界全体の歴史を意味することになるとの自負があってのものと思われます。

 本書は、フェリペ2世のもとで王室の歴史家として活躍したエレラ・イ・トルデシャリス(Antonio de Herrera y Tordesillas, 1549 - 1625)が著したもので、全3部からなる大部のフェリペ2世史のうちの第2部にあたります。エレラ・イ・トルデシャリスによるこの作品は、フェリペがイングランド女王メアリ1世と結婚する1554年から1570年までを扱う第1部、本書である1571年から1585年を扱う第2部、そして1585年からフェリペ2世の死去する1598年までを扱う第3部からなります。当然王室の立場を反映した歴史記述ではあるものの、同時代人による浩瀚な歴史書として現在でも高く評価されている作品です。第1部、第2部の初版は1601年にマドリッドで、次いでその改訂版が1606年にバリャドリッドで刊行されています。このバリャドリッド版は初版のマドリッド版を大きく改訂したもので、マドリッド版が1559年から始まるのに対して1554年にまでさかのぼって記述を始めている他、多くの増補改訂が施されています。本書は、このバリャドリッド版の第2部にあたるものです。なお、最終第3部は1612年にマドリッドで刊行されています。

 本書が扱う期間は、フェリペ2世がポルトガル王としても即位する極めて重要な期間にあたるものであるだけでなく、上述のように日本からの天正遣欧使節との謁見という非常に大きな出来事があった時代です。フォリオ大の大きな用紙に2段組の小さな活字でびっしりと印刷された本書の604ページから610ページにわたって、天正遣欧使節のヨーロッパ来訪について、二度に及んだフェリペ2世との謁見を中心的な主題として論じており、当時のスペインの公式な歴史観からの天正遣欧使節の記述を知ることができる極めて重要な資料となっています。「日本のカソリック諸侯からのローマ法王へ使節のカソリック王(フェリペ2世)との謁見とローマへの出発」との章題が設けられた記事では、使節が来訪した目的とその背景となった事情、日本を出発してからの航程が説明されてから、マドリッドへの使節の到着を一つのハイライトにフェリペ2世との謁見の様子が描かれています。また、続いての章では、使節がローマで教皇に歓迎される様子や、その後のイタリア各地の歴訪、そして再びスペインに戻りモンソンでフェリペ2世と再度の謁見を果たしたことが描かれています。

 天正遣欧使節の記録については、イエズス会関連の資料が当時から多く刊行されていますが、いずれもローマにおけるグレゴリオ13世との謁見に焦点を当てたものが多く、その前後に行われたフェリペ2世との謁見については、これまであまりよく知られてきたとは言えません。本書は、同時代にフェリペ2世に仕えた歴史家が王室の正史として記した歴史書であることから、その文中に現れた天正遣欧使節についての記述は、当時のスペインの天正遣欧使節に対する公式な見解、記録として読み取ることができるもので、宣教師の視点から描かれた天正遣欧使節についての記録にはない独自の価値を有するものと思われます。

 なお、著者のエレラ・イ・トルデシャリスは、本書だけでなくスペインが支配下に収めていた西インド(いわゆる「新大陸」)の征服史(Historia general de los hechos de los castellanos en las Islas y Tierra Firme del mar Océano que llaman Indias Occidentales、通称Décadas. 1601 - 1615)の著者としてもその名をよく知られています。本書については、近年になって再評価が進んでおり、2016年にはマドリッド版とバリャドリッド版の原著双方を参照、校閲して新たに編纂された現代版(Antonio de Herrera y su Historia General del Mundo. 4 vols. Madrid, 2016)が刊行されていることから、本書に対する注目はヨーロッパでも改めて高まってきているものと思われます。。

いわゆるフォリオ判に近いかなり大きな書物。18世紀ごろの革装丁と思われるが、表紙が外れかけており、見返しと冒頭1葉(印字なし)が綴じから外れているが修復は比較的容易と思われる。
タイトルページ。1601年に刊行されたマドリッド版を改訂してバリャドリッドにて1606年に刊行されたものである。
本文冒頭部分。1年を1章とする構成をとっている。
グレゴリオ13世による暦の改訂など、フェリペ2世治世下に起きた主要な出来事をスペインの視点を中心にして網羅的に記す内容となっている。
1583年の章には、1577年以降の日本におけるイエズス会の活動と日本の社会状況の変遷についての記事がある。
天正遣欧使節の来訪を記す記事を含む第15章の冒頭部分。
天正遣欧使節の来訪を記す記事の冒頭部分。使節の目的と概要、そしてローマ訪問前に訪れたマドリッドでのフェリペ2世との謁見の様子について論ずる。
上掲の続き。帰路におけるフェリペ2世との2度目の謁見についても論ずる。以降、天正遣欧使節記事の後もフィリピンについての記事が続き、そこでも日本との関係が論じられる。また、その後には教皇の崩御と新教皇の即位についての記事が続く。
巻末には参照文献が掲載されており、イエズス会の報告書(Carta de Iapon)や、カンパーナ(Cesare Campana, 1532 - 1606)の『世界史(Historia General)』、チャッピ(Marcantonio Ciappi, ? - ?)による『教皇グレゴリオ13世の偉業概略(Vida de Gregorio XIII.)』などが挙げられている。