書籍目録

「王立アカデミーによって精査された最新の発見に基づくアジア地図」

フェール

「王立アカデミーによって精査された最新の発見に基づくアジア地図」

1700年 パリ刊

de Fer, N(icolas).

L' ASIE Dressée selon les dernieres Relations et suivant les nouvelles Decouvertes sont les Points Principaux sont placez sur les Observations de Mrs de l'Academie Royale des Science.

Pars, 1700. <AB201849>

Sold

1 sheet map, 46.6 cm x 60.0 cm, contemporary hand colored.

Information

 本図の制作者であるフェール(Nicolas de Fer, 1646-1720)は、地図や図版の出版、販売を得意としたパリの出版社で、父から譲り受けた工房を発展させて成功を収めました。父が1657年にデュヴァル(Pierre du Val, 1619-1683)の小型地図帳を出版しており、地図製作にあたってはデュヴァルとの繋がりを活かすことができたと思われます。

 本図は、フェールが出版した『アトラス(L'Atlas curieux ou le monde...1700-1705)に収録されていたアジア全域を描いた地図です。およそ黒海以東のユーラシア大陸と東南アジア、そして日本を含めた広大な範囲を描いたもので、当時のヨーロッパ人が「アジア」という言葉でもって指していた地理的範囲全般を対象としています。

 地図の左右両方には、中国人とみられる人物像や、仏像を模したと思われる像を祀る人々の姿が描かれています。地図中には、地名と地形情報がおびただしく書き込まれているだけでなく、補足が必要な箇所にはテキストでその情報を追加しています。例えば、当時は未解明であった日本の北方海域については、日本やポルトガルの情報が各々で著しく異なっており、正確な輪郭を描くことが難しいことなどが説明されています。地理情報の多くはオランダ東インド会社からもたらされたものによっていると言われていますが、日本を含めた東インド地域については、早くからこの地域に進出していたポルトガルからの情報も参照しているようで、様々な情報を組み合わせて本図が作成されていることが分かります。子午線は、現代のようにグリニッジではなく、当時の基準であったカナリア諸島のフェロを基準としており、現代の目から見ても比較的正確と言えます。

 本図における日本については、他の地図ではあまり見られないユニークな輪郭で描かれていることが特徴的です。「蝦夷(JESO)」と記された北海道は、正確に島として描かれていることは、この時期の日本近辺図としては特筆すべきことですが、その輪郭はかなり曖昧です。本州は東西に伸びる形で輪郭が描かれており、そのせいか「江戸(Jedo)」は、本州北端に近い太平洋側に位置付けられてしまっています。「京都(都、Meaco)」は王宮を示すマークとともに記されていて、比較的正確な位置にあります。奥深く入り組んだ湾になっているのは、おそらく琵琶湖と淀川とが繋げられて、湾として描かれてしまったものと思われるものです。四国は、同時代の地図によく見られるように「土佐(Tonsa)」とだけ記されています。九州は、「豊後(Bungo)」として描かれていて、その形状はかなり不正確です。長崎の地名が見えない一方で、五島列島(I. Gotto)は明記されているほか、種子島(Tanaxma)も描かれています。フェールはこれ以外にも日本を単独で描いた地図を出版していますが、本図における日本はそれともかなり異なっており、大変興味深い点です。

 本図は、フェールが『アトラス』の為に作成したアジア図の中でも極めて初期の作品に位置付けられるものです。フェールの『アトラス』は現在では極めて稀覯となっているほか、そこに収録された「アジア図」も入手が難しくなっており、特に初期のものは貴重と言われています。日本研究の文脈でも、フェールによる日本単独地図はこれまで比較的よく知られてきましたが、同じ作者がアジア図において日本を全く異なる形で詳細に描いていたことはほとんど知られていないと言ってよいでしょう。