書籍目録

『蘭領インド雑誌』第15年次第1巻(第1号から第6号)

ホェーフェル編

『蘭領インド雑誌』第15年次第1巻(第1号から第6号)

1855年 ザルトボメル刊

van Hoévell, W(olter). R(obert).

TIJDSCHRIFT VOOR NEDERLANDSCH INDIÉ. 15de Jaargang. AFL. 1-6. EERSTE DEEL.

Zalt-Bommel, Joh. Noman en Zoon, 1853. <AB201847>

Sold

8vo (15.5 cm x 25.3 cm), Title, pp. [I], II-IV, [1], 2-222, balnk leaf, [223], 224-316, blank leaf, [317], 318-460, Contemporary Card boards.
本文冒頭ページの右上部に補修跡あり。

Information

開国直前の日本を論じた記事2本を収録

 本書は、蘭領バタヴィアでの豊富な実務経験を有していた植民地経営改革論者ホェーフェル(Wolter Robert van Hoëvell, 1812 - 1879)が創立した雑誌『蘭領インド雑誌』の1853年の前半号にあたるものです。ホェーフェルはオランダ東インド会社解散後のオランダ植民地政策の問題点を積極的に指摘し、貿易の自由主義化を唱えました。『蘭領インド雑誌』は、ホェーフェルが自身の蘭領インド経営の責任者にあった1838年に創刊したもので、1862年まで編集を続けています。

 『蘭領インド雑誌』には、日本を扱った論文も度々掲載されていて、最終的に開国へと向かいつつある日本との貿易関係をどのように捉えるべきかをオランダの改革論者の立場から論じた記事を散見することができます。たとえば、1849年11号には、ペリー(Matthew Carlbarith Perry, 1794 -1858)による日本遠征隊の実現に向けて活躍したロビイストであったパーマー(Aaron Haight Palmer, 1785? - ?)がクレイトン国務長官に宛てた対日政策書簡がいち早くオランダ語に翻訳されて掲載されています。1853年に刊行された本書は、アメリカによる日本遠征隊がまさに向かいつつある時期に刊行されたもので、2本の興味深い日本関係論文が収録されています。

 最初の日本関係論文は、「アメリカ合衆国と大英帝国の日本とオランダに対する挑戦(De Verenigde Staten van Noord-Amerika en Groot-Brittannie tegenover Japan en Nederland.)」と題されたものです。執筆者のウィレム(Jacob Karel Willem Quarles van Ufford, 1818 - 1902)は、蘭領インドの実務に精通していた人物でのちのオランダの蘭領インド政策に大きな影響を与えたことで知られています。論文のタイトルからわかるように、アメリカの日本遠征隊派遣とそれに伴うアングロ・サクソン諸国の日蘭両国に対する影響力の増加と脅威について論じたものです。前年1852年6月のエディンバラ・レビュー(Edinburgh Review)に掲載されたオランダの蘭領インド経営を痛烈に批判したとされる論文に対する反駁と、今回の遠征隊派遣がもたらす影響などを論じており、激変しつつある東インド地域の国際情勢下で、日本との関係をどのように捉えていたのかを伺うことができる興味深い内容です。

 もう一つの日本関係論文は、「オランダ東インド会社総督ファン=イムホフによる1744年の対日貿易の評価(Het oordeel van den Gouverneur-Generaal G. W. Baron van Imhoff over den handel met Japan, in 1744)」と題されたもので、執筆者の署名がありませんので、あるいはホェーフェル自身によるものかもしれません。この論文で取り上げられているファン=イムホフ(Gustaff Willem van Imhoff, 1705 - 1750)とは、18世紀半ばの苦境に陥りつつあったオランダ東インド会社の改革案を矢継ぎ早に打ち出した人物で、1743年に総督に任命されてから1750年に任地のバタヴィアで亡くなるまで同社の再建に尽力したことで知られています。彼は、貿易活動全般の自由化や税制改革、オランダからの移民奨励政策などを打ち出しており、その文脈で対日政策の改善にも乗り出したものと思われます。著者は、交易圏の拡大により極東アジアにもヨーロッパ文明が進展しつつあることを述べ、アメリカによる日本艦隊派遣はヨーロッパ文明の促進にあるという大義名分があると言われているが、それが単なる自己利益のための行動であれば、誰に取っても望ましい結果をもたらすことはできないであろうと苦言を呈しています。今般の情勢下にあって、日本と2世紀を超える関係を有してきたオランダがどのような貿易関係を築いてきたのかを今一度再考することは、決して無益ではないことを述べながら筆を進めています。

 上記2本の日本関係論文以外にも、30本以上の蘭領インド経営に関する論文が本書には収録されており、同年代の蘭領インド経営の状況とアメリカによる日本遠征隊派遣によって大きな変化を迎えつつあった東インドをめぐる国際情勢にあって、オランダから見て日本がどのように捉えられていたのかを知ることができる重要な文献です。

タイトルページ。
目次①
目次②
目次③
「アメリカ合衆国と大英帝国の日本とオランダに対する挑戦」冒頭部分。
「オランダ東インド会社総督ファン=イムホフによる1744年の対日貿易の評価」冒頭部分。