書籍目録

『タウンゼント・ハリス:アメリカ外交のある一章』

モリス / (ニューヨーク・ジャパンソサエティ)

『タウンゼント・ハリス:アメリカ外交のある一章』

1921年頃? ニューヨーク刊

Morris, Roland S(letor).

TOWNSEND HARRIS: A Chapter in American Diplomacy.

New York, Japan Society, Inc, 1921?. <AB201836>

Sold

14.7 cm x 22.8 cm, Front., pp.[1(Title)-4], 5-19, Original paper wrappers.

Information

日米外交の基礎を築いたハリスの知られざる伝記

 幕末における日米外交のみならず幕府と欧米各国との交渉に際して、主導的な立場を果たした人物として、ハリス(Townsend Harris, 1804 - 1878)は、あまりにも有名な人物です。彼は、日米修好通商条約の締結、江戸城への登場、将軍家定への謁見といった最初期の日米外交の節目のほとんどすべてに関わり、初代駐日公使として日本に常駐した最初の外交官でもありました。本書は、ハリスの日本での活動期に焦点を当てた伝記として著された小冊子です。

 ハリスの伝記としては、グリフィス(William Elliot Griffis)による Townsend Harris, first American envoy in Japan. London, 1895. が大変有名ですが、本書は、1921年にその役を退いたばかりの元駐日大使、モリス(Roland Sletor Morris, 1874 - 1945)によって書かれたものです。モリスは、グリフィスの著作を入手することに大変苦労したことを述べつつ、それを参考にしながら独自の視点で、ハリスの日本滞在中における活動を記しています。モリスの視点は、執筆当時現役の駐日外交官であった人物ならではと言えるもので、半世紀以上前に日米外交の基礎を築いたモリスに対する深い尊敬の念に基づいた筆致で本書は記されています。

 序文によりますと、本書はモリスが東京で在任中に書き上げたもので、ハリスの死後に設立されたニューヨーク・ジャパン・ソサエティー(以下JS)のハリス基金委員会(Townsend Harris Permanet Endowment Fund Committee of the Japan Society)援助の下で出版されたようです。JSは、1907年に日米友好と文化交流の促進を目的として設立された非営利団体で、ハリスが設立したニューヨーク市立大学の当時の総長フィンレイ(John Huston Finley, 1863 - 1940)も設立に関わった、ハリスと縁の深い団体です。JS内に設けられたハリス基金とは、アメリカの日系企業からの寄付金を元に設けられた基金のことで、JSの出版事業やイベント開催のための資金を提供しています。序文に記載されたJSの住所(25 West 43d Street New Yrok)は、1920年に移転した際の住所ですので、タイトルページ記載のモリスの日本大使在任期間の表記(1921年4月1日まで)と合わせて鑑みると、本書が概ね1921年頃に刊行されたものであろうことが推測できます。

 口絵には、2枚のハリスの写真、ならびに1855年9月8日付の初代駐日領事任命書が掲載されていて、これらはワシントンの駐米日本大使(刊行当時は幣原喜重郎と思われますが明記されていません)から提供されたものであることが序文で記されています。これらの資料は、JSの創設に深く関わり1910年から10年間にわたって理事長を務めたラッセル(Lindsay Russel)から駐米日本大使に贈られたものであることも紹介されています。ここに掲載された任命書は、現在ニューヨーク市立大学に所蔵されているものと思われます。またこの序文には、当時のハリス基金委員会のメンバーも記されていて、ラッセルのほか、JS創設に日本側から関わった正金銀行ニューヨーク支店長だった一宮鈴太郎(R. ICHINOMIYA)や、三井物産ニューヨーク支店長でのちの同志社理事となる小林政直(MASANAO KOBAYASHI)の名前などを見ることができます。

 JSは、戦中の苦難の時期を経ながら現在も精力的に活動を続けていますが、ハリス基金を元にして作成された本書のような出版物は、どういうわけか国内の研究機関ではごくわずかしか所蔵されていないようです。あまりにも有名な人物の、現役駐日外交官が記した知られざる伝記として、また、日米友好を願ったJSの貴重な出版物として、本書はユニークな資料価値を有していると言えます。

口絵とタイトルページ。日本大使から提供されたという1855年9月8日付の初代駐日領事任命書やハリスの写真が掲載されている。
序文。本書刊行の経緯やハリス基金委員会の当時のメンバーも記されている。
本文冒頭。わずか20ページ足らずの小冊子だが、それだけに装丁も含めて現存しているものは貴重である。