書籍目録

[異國落葉籠]

[三木光斎 (歌川芳盛) 画 / (ペリー遠征隊)

[異國落葉籠]

刊行年不明(安政元(1854)年?) 東都(江戸)刊

著者不明

<AB201833>

Sold

11.8 cm x 17.8 cm, 20 leaves, printed on Japanese paper, string tied, stored in a Japanese style box.
虫食いによる穴と補修跡あり。保存用の秩付き。

Information

日本が見たペリー使節とその衝撃を物語る貴重文献

 ペリー(Matthew Calbraith Perry, 1794-1858)による1853(嘉永6)年の浦賀来航と翌年の日米和親条約の締結は、江戸幕府が欧米諸国と近代的な外交条約を結んでいく端緒となった出来事としてあまりにも有名です。ペリーは、帰国後に議会への報告書として、俗に言う『日本遠征記(Narrative of the expedition of an American squadron to the China seas and Japan.1856)を刊行し、アメリカ側の最重要資料として広く流布しました。本書は、日本(幕府)側の公式文書の類ではありませんが、民衆も含めた当時の日本の人々がペリー来航をどのように捉えていたか、あるいは捉えようとしていたかを知ることができる貴重な資料です。

 ペリー来航は、当時の一般の人々の関心を強く惹き、非合法出版物である「瓦版」と呼ばれる一枚ものの刷物や、絵巻物、写本が数多く作成されたことが知られています。作成された印刷物や写本や、それらがさらに筆写される形で流布してゆき、真贋問わず様々な形でペリー来航に関する情報が人々の間に伝播していきました。本書もまたこうした潮流に乗って作成されたと思われるものです。しかしながら、類似の資料の多くが読み捨て型の一枚ものや、諸藩役人の情報蒐集用としての巻物、あるいはそれらを筆写した写本だったのに対して、本書は多色木版刷りの刊本で書物一冊を費やした資料であることが非常に特徴的です。

 本書は、その内容から見て二度目の来航を受けて作成された書物で、多色木版で印刷された多数の図版を主として、ペリー来航に備えた幕府の防備体制や、両国間で交わされた贈り物の数々、アメリカ側のペリーを中心とした使節の肖像や部隊の様子、装備などを紹介しています。
 著者は不明ですが、冒頭の凡例において、アメリカという国がそもそもどのような国であるかを簡単に説明した上で、当時最大の注目を集めていた「黒船」すなわち蒸気船の驚くべき性能について触れており、「大海ヲ龍之渡ルガ如シ」と述べています。最初の図は、「両海岸略図」と題した江戸湾の警備体制を描いた図で、瓦版として発行された「柳都両岸略図」とほぼ同じ構図をとっています。テキストでは幕府によってペリー再来航に備えて組織された諸藩による警備分担を一覧の形で紹介しています。アメリカからの贈り物としては、特に印象的だったと思われる蒸気機関車の模型を筆頭に望遠鏡など数多くの珍しい品々を描いています。また、南北アメリカを描いた地図も収録しており、正確さはさておき各州名も記載しています。使節については、ペリーとその息子、アダムス提督などの主要人物の肖像画のほか、部隊兵士の装備や衣装も詳細に描いています。凡例でその高性能ぶりが強調されていた蒸気船が、見開き大でひときわ大きく描かれているのも、当時の人々が蒸気船から受けた衝撃の大きさが伝わってくるようです。最後にアメリカからの親書の和訳も掲載されており、当時の情報伝播の広さと素早さに驚かされます。

 本書の際立った特徴である数多くの絵を作成したのは、浮世絵師の三木光斎(歌川芳盛, 1830-1885)で、彼は幕末期に数多くの横浜絵を手がけており、外国人を描くことに強い関心があった絵師のようです。

 本書は、刊本であるにも関わらず、幕府の許可を受ける前に頒布に踏み切ったことから、すぐさま幕府によって摘発され、版木と刊本の没収、罰金等の処分がなされてしまったようです。その影響と思われますが、現存するものは非常に少ないようです。当時数多く作成されたペリー来航関係の印刷物、写本類は、外国の情報が初めて本格的に一般の人々の間に広く流布させることになりましたが、その中でも刊本として作成された異色の出来栄えである本書は、「開国」への兆しをもたらした大変貴重な文献と言うことができるものと思われます。

凡例。アメリカの概要と蒸気船の高性能ぶりを伝える。
ペリー再来航に備えた江戸湾警備体制を描いた図。東が上(左が北)。当時瓦版として発行された「柳都両岸略図」とほぼ同じ構図。
警備体制の一覧が記されている。
日米両国の間で交わした贈呈品の記録。アメリカからの贈り物でひときわ目を引いたものは、やはり蒸気機関車の模型だったようである。アルファベットらしきものも描かれている。
南北アメリカ図。
ペリーとその息子の肖像。
アダムス提督他の肖像。
兵士の装備や服装も描かれている。
人々に最大の衝撃をもたらしたと思われる蒸気船。
アメリカからの親書の翻訳文。
巻末に記されているのは、当時の瓦版に多く見られた風刺文と思われる。
秩に保存されている状態。