書籍目録

『日本昔噺シリーズ第1号〜第12号』

長谷川武次郎 / タムソンほか訳

『日本昔噺シリーズ第1号〜第12号』

全3冊、グリフィス・ファーラン社による特別洋装本合冊版 [1888年] 東京 / ロンドン刊

Hasegawa, Takejiro / Thompson, David…[eta].](trs.)

JAPANESE FAIRY TALE SERIES. No.1-No.12.

Tokyo / London, Kobunsha / Griffith Farran & Co, [1888]. <AB2023180>

Sold

special edition for Griffith Farran & Co.

9.5 cm x 15.5 cm, 12 works bound in 3 vols, Original publishers three quarter red leather on cloth.

Information

「ジャポニスム」に沸くヨーロッパに向けて、ロンドンの児童書出版で著名な出版社のために特別に製作された洋装仕立て3冊本

 これらは長谷川武次郎による著名なちりめん本シリーズ「日本昔噺」として出版された第1号から第12号までの12作品を洋装本3冊に仕立てたという興味深い書物です。「日本昔噺」シリーズは、長谷川武次郎によるちりめん本出版において最も著名で、英語版から数多くの言語に翻訳されたことでも知られるベストセラーとして知られていますが、基本的に和装本として各作品が独立して出版されています。しかしながら、本書は4作品を1冊に合冊し、しかも洋装本として仕立てられているという珍しいものです。

 この3冊には下記のちりめん本12作品が合冊する形で綴じ込まれています。

1. 桃太郎 (Momotaro or little peaching)(タムソン(David Thompson)訳)1885(明治18)年
2. 舌切り雀 (The Tongue-Cut Sparrow)(訳者不明)1886(明治19)年、再版
3. 猿蟹合戦(Battle of the monkey and the crab)(タムソン訳)1886(明治19)年、再販
4. 花咲爺(The old man who made the dead trees blossom)(タムソン訳)1886(明治19)年
5. カチカチ山(Kachi-Kachi mountain)(タムソン訳)1888(明治21)年、再版
6. 鼠の嫁入り(The mouse’s wedding)(タムソン訳)1888(明治21)年、再版
7. 瘤取りじいさん(The old man & the devils)(ヘボン(James Curtis Hepburn)訳)1886(明治19)年
8. 浦島太郎(The fisher-boy Urashima)(チェンバレン(Basil Hall Chamberlain)訳)1886(明治19)年
9. 八岐大蛇(The serpent with eight heads)(チェンバレン訳)1886(明治19)年
10. 松山鏡(The Matsuyama mirror)(ジェイムズ夫人(Mrs. T.H. James)訳)1886(明治19)年
11. 因幡の白兎(The Hare of Inaba)(ジェイムズ夫人訳)1886(明治19)年
12. 野干の手柄(The cub’s triumph)(ジェイムズ夫人訳)1887(明治20)年

 長谷川武次郎によるちりめん本は、来日した外国人のお土産として好評を博したため、多くの作品が欧米各国に持ち出されただけでなく、海外向けに当初から作成することもありました。こうして海を渡ったちりめん本が各地で洋装本に仕立てられることもありましたが、この3冊が非常に興味深いのは当初から洋装本として製作されていることです。これは本書の製作当時に長谷川武次郎と特別な契約を結んでいたロンドンの出版社 Griffith, Farran & Company が手がけたもので、本書に収録されている作品の多くには同社の名前が明記されています。長谷川武次郎が手がけたちりめん本は、各作品がおおよそ500部ほど製作されたとされていますが、それだけでなく販路をより広範囲に広げるために海外の出版社と締結して、当初から海外で販売することを目的とした特別版を製作するようなこともありました。本書は、まさにこうした長谷川武次郎による先駆的な海外出版社との提携による出版事業の先駆けの一つとも言えるもので、当初から装丁をはじめとした造本をイギリスの読者の好みに合わせて製作して販売した大変興味深い現存本です。

「長谷川の手がけた書物は各タイトルの発行部数が500部ほどの限られたものだったから、長谷川にとって各作品の特注に応じることは比較的容易なことであった。彼のキャリアの初期において長谷川は、日本昔噺シリーズのちりめん本特別版を、由緒あるイギリスの出版社であるグリフィス・ファーラン社(Griffith, Farran & Company)のために用意したことがあった。ロンドンとシドニーにオフィルスを構え、子供のための書物の出版で手堅い評価を得ていた同社は、1880年代の長谷川にとって重要な顧客の一つであった。グリフィス・ファーラン社と長谷川との間で製作する契約が交わされた書物は、より西洋好みの体裁で綴じられていて、書物の背部分も糊で固められており、同社の名が表紙に掲載されていた。こうした書物は明らかに全くもって両者間での事前契約に基づいて製作された特別な書物であった。」
(Sharf. Frederic A. Takejiro Hasegawa: Meiji Japaj’s preeminent publisher of wood-block-illustrated crepe-papaer books.(Pebody Essex Museum Collections. Volume 130 No.4) Vermont: Peabody Essex Museum, 1994. p.22)

 グリフィス・ファーラン社と長谷川武次郎が提携して出版した日本昔噺シリーズは、本書のように当初から洋装本仕立てで合冊されたものの他に、通常の和装仕立てで各作品を独立した形でも製作されたようで、同社の名を表紙に掲載したちりめん本が現在でも時折見つかりますが、本書のように製作当時の興味深い洋装丁を保っているものは珍しく、その意味でも本書は長谷川の先駆的な海外進出の取り組みを証する貴重な現存書物ということができるでしょう。店主の見る限りでは木版画の刷りについても、本書は通常のちりめん本とはやや風合いが異なるようにも見受けられ、また洋装本として綴じ込まれる際に誤って織り込まれた箇所があるなど、その製作過程や場所についても興味深い示唆を提供してくれています。長谷川武次郎の非常によく知られた「日本昔噺」シリーズの数あるちりめん本諸本の中でも、大変興味深く、書物としても重要な現存本と言える3冊です。