書籍目録

『日本の女性の12ヶ月:1904年カレンダー』

長谷川武次郎 / 新井芳宗(画)

『日本の女性の12ヶ月:1904年カレンダー』

第2版* 1903(明治36)年 東京刊

Hasegawa, T(akejiro) / Arai Yoshimune (illutrations)

The Months of Japanese Ladies. Calendar for 1904.

Tokyo, T. Hasegawa, 1903. <AB2023179>

Reserved

2nd ed.*

13.3 cm x 18.4 cm, 13 folded leaves including both covers, printed on Japanese crepe papers, bound in Japanese style, silk tied.

Information

日本の女性を主題にして四季折々の風景を描いたちりめん本仕立てのカレンダー

 本書は、1904年のカレンダーとして作成された愛らしいちりめん本で、日本の女性を四季折々の風景、行事の中で描くことを主題にしたユニークな作品です。ちりめん本出版を代表する長谷川武次郎が1900年代を中心に毎年刊行していたカレンダー作品の一つで、女性を中心に据えた年中行事や四季の移り変わりがそれぞれのページで色鮮やかに展開されています。

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒していました。

 このカレンダー仕立てになっているちりめん本は、この手の企画が始まった1895年頃から、最後期の1970年代の間に膨大な種類と数が刊行されていたようで、その全貌を明らかにすることは容易ではありません。カレンダーという特性上、その年が終わったら使い捨てられてしまうことが多かったであろうことも災いしてか、その発行部数の割には現存するものが少なく、一体どれくらいの種類のものが、どのくらいの部数製作されたのかを辿ることが非常に難しくなっています。こうしたカレンダー仕立てのちりめん本を研究する上で大変参考になるのが、1906(明治39)年に出された長谷川のちりめん本『日本の愛すべき花々(The Favorite Flowers of Japan)』の第二版に掲載された、当時の長谷川によるちりめん本の一覧リストです。それによりますと、カレンダー仕立てのちりめん本だけでも、なんと18種類も作成されています。試みにざっと転記すると、下記の通りです。

(冒頭の数字は引用者が付け足したもの)(カッコ内は当時の$価格)
(邦訳は引用者による仮題)

CALENDERS IN BOOKFORM ON CRAPE PAPER. 
(本仕立てのちりめんカレンダー)

1) Japanese Street Scenes Calendar. (0.75) (日本の街頭風景カレンダー)
2) Calendar on Flower Cards. (0.50) (花札カレンダー)
3) The Months of Japanese Children. (0.35) (日本のこどもの12ヶ月)
4) Hairpin Calendar. (0.35) (髪留めカレンダー)
5) Calendar in Japanese Towels. (0.25) (手ぬぐいカレンダー)
6) Japanese Sceneries (4 x 5 1/4 inches). (0.25) (日本の風景 大)
7) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中)
8) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中2)
9) " " (2 x 2 1/2 " ). (0.15) (日本の風景 小)

HANGING CALENDARS.
(壁掛けカレンダー)

10) Japanese Ladies and Street Scenes. (1.25) (日本の婦人と街頭カレンダー)
11) The Favorite Flowers of Japan. (1.00) (日本の愛すべき花々)
12) Hokusai's Masterpieces. (0.50) (北斎傑作集)
13) Hiroshige's Masterpiece. (0.50) (広重傑作集)
14) Japanese Sceneries in "Kakemono". (0.50) (掛物仕立ての日本の風景)
15) The Silhouettes in "Kakemono". (0.45) (掛物仕立ての影絵)
16) Japanese Towels. (0.45) (手ぬぐい)
17) Wistaria. (0.25) (藤の花)
18) Pagoda. (0.20)  (仏塔)

 単に綴じられたものだけでなく、壁掛けのものや、内容も実に多彩であったことがわかります。7)と8)とは全く同じ大きさのようですので、同じ大きさで異なる絵のものがあった可能性もあります。北斎や広重といった長谷川好みのモチーフや、手ぬぐい型ものまでもあったようです。ここに記された18種類が果たして本当に全種類を網羅しているのかどうかは定かでなく、さらに同じ作品がフランス語など英語以外の言語でも出版されていることも鑑みると、長谷川によるちりめん本カレンダーは、膨大な種類が製作されたことが窺えます。

 このように膨大な種類が製作された長谷川によるカレンダーのちりめん本については、その全体像や変遷、販売網といった出版に関する基本事項を把握することが非常に難しい状況にありましたが、近年になってこうした困難な状況を打開することを可能にしてくれる、山村光久氏所蔵の「Yamamura collection」を元にした画期的なデジタルアーカイブが公開されました(https://crepepaper.studio/chirimen/)。このデータベースでは、長谷川によるちりめん本カレンダーが、その最初期の作品から戦後1970年代に至るまで可能な限り網羅的にその書誌情報、詳細画像とともに紹介されています。また、このデータベースでは長谷川によるちりめん本カレンダーだけでなく、それ以外の他社が手がけたちりめん本カレンダーも紹介されており、当時の「カレンダーブーム」ともいうべき状況を複眼的に考察することを可能にしてくれています。

 このカレンダーは、見開きで一つの場面を描き、それぞれの場面が12か月に割り当てられるという構成になっていて、日本の女性の一年を主題とした作品として製作されています。各月の構成をまとめてみますと次の通りとなります。

1月:新年のお休みでの「百人一首」
2月:床の間での生花
3月:春の野原での七草集め
4月:引き潮の浜辺での潮干狩り
5月:農家での養蚕
6月:堀切菖蒲園
7月:夏の夕立
8月:寺院の境内の蓮
9月:秋月を眺めての詩吟
10月:地方の秋の風景
11月:地方に住む友人から松茸の贈り物
12月:初雪

 これらの挿絵を担当しているのは、二台目歌川芳宗として明治期に活躍した絵師、新井芳宗で、非常に趣のある月々の風景を女性に焦点を当てて描いたこの作品は、彼の美人画集とも言える内容となっています。本書のように女性に焦点を当てたちりめん本カレンダーは、本書の前年1903年用にも作成されていて(Yamamura 30)、これを受けて本書は「第二版」と奥付けに記載されています。両年用ともその挿絵を手掛けたのも新井芳宗であったと思われますが、1903年用と1904年カレンダーとでは、その主題や絵も全く異なっていて、同じ図柄を一枚も使い回ししていないことに驚かされます。さらに1904年用カレンダーは、平紙本でも作成されたことがわかっていて(Yamamura 38)、この作品が当時一定の人気を博していたことがうかがえます。

 なお、ちりめん本の研究書で著名な石澤小枝子『ちりめん本のすべて』では、カレンダーのちりめん本について下記のように言及しています。

「カレンダーは他にも色々な種類のものを出している。西宮雄作氏に見せていただいたものでは、ご婦人のハンドバックに入るくらい小さく折り畳んだものもあった。一月の絵は五重の塔の先の避雷針のみで、それを一二月まで広げるとやっと塔の全景が現れるという仕組みのものや、同じ趣向で畳んであるものを全部開くと華厳の瀧になるものなど様々なものがあり、愛好を呼んだに違いない。武次郎の頃からあるものは、主に本の形のものが多いが、西宮与作の時代になると、岐阜提灯のような形のもの、簾のような形のものなど趣向を凝らしている。」

 ひとくちにカレンダーのちりめん本といっても、その内容や、判型、大きさが全く異なるものがこれだけ出されていたとなると、毎年出されたカレンダーのちりめん本の全容を解明することがいかに大変なことかがわかります。とは言え、(まだ見ぬ)多様なちりめん本があるということですから、研究もさることながら、純粋な楽しみとしても今後の発見と整理に期待が高まります。

1月:新年のお休みでの「百人一首」
2月:床の間での生花
3月:春の野原での七草集め
4月:引き潮の浜辺での潮干狩り
5月:農家での養蚕
6月:堀切菖蒲園
7月:夏の夕立
8月:寺院の境内の蓮
9月:秋月を眺めての詩吟
10月:地方の秋の風景
11月:地方に住む友人から松茸の贈り物
12月:初雪