書籍目録

『ニッポン』

国際観光局 / 鉄道省

『ニッポン』

刊行年不明(1930年代) 東京刊

Board of Tourist Industry / Japanese Government Railways.

NIPPON

Tokyo, Kyodo Printing Co, n.d. (late 1930s?). <AB2023091>

¥55,000

18.4 cm x 25.5 cm, 18 leaves with 2 colored leaves (i.e. total 20 leaves), Original pictorial paper wrappers.
[NCID: BB29688384]

Information

国際観光局が手がけた、海外向けに日本を紹介する「グラビア」小冊子

 本書は1930年に設置された国際観光局(Board of Tourist Industry)によって1930年代に刊行されたと思われる海外向け英文誌で、いわゆる旅客誘致のための「ガイドブック」というよりも、斬新な写真を数多く配してあたかも「グラビア」雑誌かのような 印象を与える作品となっています。『NIPPON』という本書のシンプルな題名は、1930年代半ばに名取洋之助が率いる日本工房が発行していた同名の英文誌を想起させますが、少なくとも誌面中には日本工房や名取との直接的な関係は記載されていません。しかしながら、日本工房やそこから独立した中央工房を中心として、原弘や土門拳、木村伊兵衛といった写真家やデザイナーたちが手掛けていた『Nippon』『Front』にも通じる、より高い芸術性を意識した誌面づくりが本書にも見られるように思われます。また、伝統的な日本文化を紹介することで日本の歴史的権威を強調しつつも、それと同時に近代的な工業化や国会議事堂などの最新建築物を紹介することで、より現代的で時代の最先端を走る日本のイメージを強調しようとする構成も共通しているように見受けられます。海外向けに一定の部数が発行されたと思われますが、他の国際観光局の印刷物と比べても現存部数が相対的に少ないようで、国内研究機関の所蔵も1点(東京工芸大学図書館:NCID: BB BB29688384)しか確認することができません。

「1930年、国際観光局が設置される。外国人旅客誘致を通じた経済振興を目的に新設された、鉄道省の外局である。この機関から海外向けの定期刊行物として1934年に小冊子『ツーリスト・ライブラリー』が、翌年にはグラフ雑誌『トラベル・イン・ジャパン』も創刊され、外客の誘致が外貨獲得のために官民を挙げて推進される。また、1933年の国際連盟脱退によって低落した日本のイメージの回復を図るべく、その翌年には外務省の外郭団体として国際文化振興会(国際交流基金の前身)が発足する。国際的国立が深まる中、日本文化を海外へと発信する諸機関がこの時期に相次いで立ち上がる。
 (中略)万国博覧会(1937年のパリ万博のこと:引用者注)出品の写真壁画としては日本初・日本最大となった《日本観光》の制作は、国際報道写真協会が請け負った。中央工房内に1934年に組織されたこの機関は木村伊兵衛や渡辺義雄、伊奈信男、原弘といった面々が名を連ねる写真エージェンシーとして、主に海外向けの写真を配信しており、国際観光局はこうしたフリーランスの集団に前述のようなグラフ雑誌の撮影をはじめとした事業・業務を発注していた。」
(小原真史ほか『富士幻影:近代日本と富士の病』IZU PHOTO MUSEUM、2011年、29ページより)