書籍目録

『レベールによるポータブル・デッサン・アルバム 第1巻』

レベール / (ジャポニスム)

『レベールによるポータブル・デッサン・アルバム 第1巻』

(第1巻のみで完結) 1877年 パリ刊

Reiber, Émile Auguste.

Le Premier Volume des ALBUMS-REIBER: BIBLIOTHÉQVE PORTATIVE des Arts du Dessin. (PROPAGANDE ARTISTIQVE DV MVSÉE-REIBER)

Paris, Ateliers du Musee-Reiber, 1877. <AB201822>

Sold

(All published)

Oblong (14.1 cm x 23.0 cm), 36 issues in 3 vols. Vol. 1(1re anné, 1re-12e livraison):Half Title, Title, pp.[I], II-IX, pp. [1], 2-296, Vol. 2 (2me année 1re-12e livraison): 4 lvs., pp.[[I, II], III-VIII, pp.[1], 2-272, Vol. 3 (3me année, 1re-12e livraison): Half Title, Title, pp.[I], Folded by original publishers card boards.

Information

クリストフルのチーフデザイナーによるデッサン集、ジャポニスムと古典芸術の融合

「1877年に刊行された最初期の日本美術愛好家の一人エミール・レベールは『アルバム』第一巻の中で、茶器とか櫛とか銅器とか、あるいはまた『北斎漫画』からとった戯画とか、およそ日本文化より入手しうるすべての実物例から手本の半分近くを選んでいる。それらの中の例えば小鼠のごときは、ボルドーのヴィエイヤール工房製の皿の模様として使われた。ついでながら彼が北斎漫画に「絵本百科」の名を与えたのは正しい。」
(ジュヴィエーヌ・ラカンブル「19世紀におけるジャポニスムの源泉」国立西洋美術館編『ジャポニスム展図録』1988年、所収論文、20ページ)


 本書は、1877年に刊行された美しくも実用的なデザインデッサン集です。著者のレベール(Émile Auguste Reiber, 1826 - 1893)は、フランスアルザス地方出身のデザイナーで、1860年代にカトラリーで現在も有名なクリストフルのチーフデザイナーを務めていた人物です。本書は、ジャポニスムがその全盛期を迎える契機となった1878年のパリ万博を控えた時期に、レベールが自身の作品製作のために作成したデッサンやスケッチを96枚集めてアルバム仕立てとして出版したものです。

 レベールは序文において、本書はまさにレベール自身のノートやスケッチを複製して作成されたもので、作品製作のアイディアの源泉であることを述べています。そして、翌年のパリ万博を控えて、フランスにおける芸術、技芸の伝統の一層の発展に寄与することを目的に本書を刊行する旨を述べています。レベールは、新たな作品製作のための様々なアイデアを求めて、フランスの伝統芸術だけでなく、アルザスや、フランダース、イタリアなどヨーロッパ各地の優れた作品、そして過去に遡って古典芸術をも様々な角度から分析し、それらを自身の最新の作品製作に活かせないか模索しています。地域、年代を問わず優れた芸術、工芸作品から学び取ろうとするレベールは、ヨーロッパにとどまらず、中東、インドシナ、中国、そして日本にも目を向けて、各地、各時代の作品をレベール独自の視点で分析し、それらを本書の元となったノートにスケッチなりデッサンの形でまとめていたようです。その意味で、本書は一見、ありがちなジャポニスムに影響を受けた書物に見えますが、より大きな、比較的、歴史的視点から日本の芸術と工芸作品に注目し、新たな作品製作の源泉としようとしている、大変ユニークな試みと言えます。

 レベールは実際にこうした研究を基にして多くの優れた作品をクリストフルの工房において作成し、その多くが現在も世界各地の博物館などに収蔵されています。また、彼のデッサン集は、フロリダにあるMOAS(The Museum of Arts and Sciences)に所蔵されており、2018年にはその回顧展が開催されました。その回顧展でも説明されているように、ジャポニスムに影響を受けた作品の収集や分析は、いわゆるハイ・アートを中心に進められてきたこともあり、レベールのような工芸作品を作成する企業デザイナーによる作品の研究はそれほど進んでおらず、また彼らが作品製作のために作ったデザイン集は製作完了後に廃棄されることが多かったため、作品の背後にある思想や意図を探ることは、現在非常に難しくなってしまっています。その点においても、レベールは、自身のデッサンやノートを非常に大事にしており、その一つ一つに「落款」を付すことで自身の作品を明らかにしていたために、非常にユニークな存在となっており、近年になってそれらに注目が集まっています。その意味で、本書は、おびただしい作品を生み出したジャポニスムの背後にある、工芸作家の思想や意図、文脈をたどることができる貴重なスケッチ集ということができる大変興味深い資料です。

 なお、本書はその出版形態の詳細が定かでなく、いくつかのパターンがあったようで、当店で入手した3種類はいずれも、表紙の紙の色が違っていたり(一つは旧所蔵者による作成と思われます)、製本の有無、その順序などが異なっています。

「クリストフル社
 1830年にシャルル・クリストフルとジョゼフ・アルベール・ブイエの義兄弟によって設立されたフランスの金銀細工店。皇帝ナポレオン3世をはじめとする各国の王室や各国皇帝の注文を受け、その食卓の銀器をまかなってきた。1860年代に従兄弟のポール・クリストフルとアンリ・ブイエが跡を継いだ。クリストフル社がジャポニズムの影響を受けた製品を世に送り出すようになったのは、同社のデザイナー、エミール・オーギュスト・レベールが1867年のパリ万博に出品された日本の美術工芸品に触発されてからと伝えられ、以来クリストフル社はジャポニズムの銀器制作を積極的に推し進めた。
(小川幹生「クリストフル社」東京国立博物館ほか編『世紀の祭典 万国博覧会の美術』2004年、NHKほか所収より)

「フィリップ・ビュルティの詩的な回想によれば、エミール・レベールは「インドのパルメットやペルシャの撫子、エジプトの蓮、中国の芍薬」などの間で迷った末に、ようやく1867年の万国博で絶賛された日本の芸術が気に入り、クリストフル工房のために描いた多彩な芸術品の数多くのデザインの中に採用したのであった。」
(マルク・バスクー、国立西洋美術館学芸課編『ジャポニスム展図録』国立西洋美術館、1988年、152頁より)

タイトルページ。「東」という文字を彼はサイン(落款)として用いており、そこに作成年を付記している。
序文
序文続き。中国の故事を引用している。
収録図版目次。地域と主題が記されている。
目次続き。
目次最終ページ。北斎漫画から取ったと思われるイラスト。
  • 中国の作品もかなり多く参照されている。
  • 14世紀フランスの衣装
  • エジプトの彫刻作品
  • 植物などの自然物を幾何学的に再解釈してデザインに落とし込む方法を記す。
  • 15世紀イタリアの衣装、メディチ家とある。
  • 16世紀フランスのダイアグラムを分析している。
  • こうした文脈で、日本が取り扱われており、単なる物珍しさからというのではなく、デザインの素材としてかなり意識的に分析していることがわかる。
  • インドシナの陶器。
  • ルネサンスの文様
  • 日本の鹿のブロンズ像
  • 仏像から日本古代の髪型の造形美に着目している。
  • 仏教装飾美術にも関心を示す。
  • 日本の漆器のスケッチ。
  • 16世紀のフランドル地方のタペストリ
  • 明治初期の日本芸術の愛好家ビングのコレクションから。
  • 日本画に描かれた竹と鶏
  • 浮世絵を通して江戸期日本の衣装に注目
  • 漆器の装飾については実践的なスケッチを残している。
  • 16世紀フランスの出版社が標題紙などで用いたデバイス(社章)。
  • 日本の文様をデザインに応用するための分析。
  • ブロンズ作品は装飾のアイデアとして数多く取り上げられている。
  • 中国の磁器に描かれた花鳥図
  • 竹をモチーフにした装飾のパターンをカラー図で解説。
  • 日本画についてもモチーフにできそうな素材を分析している。
  • 古代ギリシャの文様の分析
  • 北斎漫画には強い印象を受けたようである。
  • 飾り文字の分析
  • ウサギをモチーフにしたユニークな日本のブロンズ像。「1871年から72年にかけてセルヌッシとデュレが日本を旅行した際に持ち帰ったコレクションは、1500点のブロンズ製品から成るが、とりわけ東京の目黒から夜中に運び去った目を見張るような大仏がその中心をなす。これらは1873年秋の、第1回東洋学会議に際して開かれた産業館における展覧会で大成功を収めた。(中略)エミール・レベールはすぐさまこれらをデッサンし、1877年に刊行された『アルバム・レベール、第1巻』(ブロンズに関しては、pl. 19,21,22,62,66,70,86)の中に挿絵として使い、かつ解説している。同書のpl.62(fig.294)は「卵型」の例として、兎香炉を図版にしていて、その解説によれば、「自然から直接に採択し、そしてそのことによって芸術といったものにあまり詳しくない人々にもわかりやすく親しみのもてる主題は、未来において家庭内の装飾や楽しさなどといったものに貢献すべく好んで求められるようになるだろう」。そこに未来における「真の大衆的芸術」を見たレベールは、イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動と同じ立場をとっていて、アール・ヌーヴォーの推進者たちの意向を先取りしている。」(ジュヌヴィエーヴ・ラカンブル 国立西洋美術館学芸課編『ジャポニズム展図録』国立西洋美術館、1988年、94,95頁より)
  • これも北斎漫画か。
  • 同じくビングのコレクションから。
  • 16世紀のイタリア絵画を素材に、構成要素を単純化してその構図を分析している。
  • 北斎漫画から
  • 花鳥図は日本と中国とを問わずライバーが関心を持ったテーマのようです。
  • ギリシャの動物文様
奥付。
テキスト部分は装丁部分に綴じ込まれていて、図版は一枚ずつ独立している。
  • 厚紙の装丁でこれらのデザインもライバーによるもの。
  • 裏面には儒家の故事が引用されているようである。
  • (参考)色の異なる装丁もあったようである。
  • (参考)左のものは奥付に当たる紙葉で図版とテキスト全体が包まれている。
  • (参考)旧蔵者が改装したと思われるもの。タイトル自体「日本アルバム」となっている。
  • (参考)左のものは一冊の書物のように綴じ込まれている。
(参考)3種を並べてみたもの。