書籍目録

『日本における男性器崇拝』(シカゴ大学提出博士論文)

バックレー

『日本における男性器崇拝』(シカゴ大学提出博士論文)

著者直筆書簡附属 1895年 シカゴ刊

Buckley, Edmund.

PHALLICISM IN JAPAN. A DISSERTATION PRESENTED TO THE FACULTY OF ARTS, LITERATURE, AND SCIENCE, OF THE UNIVERSITY OF CHICAGO, IN CANDIDACY FOR THE DEGREE OF DOCTOR OF PHILOSOPHY.

Chicago, The University of Chicago Press, 1895. <AB201819>

Sold

17.3 cm x 24.5 cm, Title, Front, pp.[1-3],4-34, Contemporary cloth boards with original paper wrappers.
オリジナルの表紙(タイトルページ)が本体から外れている。酸性紙と思われ、端部が崩れやすい状態。

Information

独自の視点で民俗学的、比較宗教学的に日本社会と歴史を分析した知られざる名著

 本書の著者であるバックレー(Edmund Buckley)は、シカゴ大学で比較宗教学の教授を務めていた人物で、1890年頃に来日、以降6年ほどかけて西日本各地を巡理、神道や仏教、地域信仰などを研究し、今で言うところの民俗学研究を精力的に行いました。調査の一方で関連する書物や絵図なども収集し、それらを帰国する際に持ち帰って研究を継続しました。彼がこの時収集したコレクションは、現在もシカゴ大学に保存されており、バックレーコレクションとして度々特別展示が行われています。また、バックレーは滞日中は、同志社英学校の講師を務めていたとされています。本書は、こうした日本におけるフィールドと文献調査をもとに書き上げた博士論文で、提出先であるシカゴ大学出版局から1895年に刊行されたものです。当時のシカゴ大学は、比較宗教学研究の先駆的な研究機関として精力的にこの分野に取り組んでいました。

 本書は、序文と全5部からなる本文とで構成されており、日本における男性器信仰というかなりユニークなテーマを扱っています。序文では、当然少ないであろう先行文献を詳細に検証しており、チェンバレンをはじめとした当時の主要な日本研究者の文献をあげるとともに、日本の神道に関する文献、日本を問わず男性器信仰を扱った文献、関係する博物館などの研究機関とその収蔵品などを細かくレビューしています。本文は、日本における男性器信仰を5つの角度から分析しており、神社仏閣との関係、象徴として、祭事における、儀式における、古事記における男性器信仰という切り口で分析を進めています。また男性器信仰の聖性、宗教の発展過程における男性器信仰の位置付け、今後の研究課題を論じており、一見非常にユニークに思える切り口から、日本における宗教文化の普遍的性質を描き出そうとしていることが伺えます。

 バックレーがこうしたテーマでの研究を進める背景にあったのは、1893年に開催されたシカゴ万博(World's Columbian Exposition)と、同時に開催された世界宗教会議(Worlds's Parliament of Relitions、日本からも熊本バンドのメンバーらといったキリスト教関係者だけでなく、神道関係者、真言宗大学総理であった土宜法龍ら仏教関係者は特に熱意を持って出席し、アメリカにおける仏教布教の嚆矢となったとされる)であったようで、これに出席したバックレーは、比較宗教学、民族宗教学の視点から日本の歴史と文化を考察する切り口として、神道と男性器信仰の関係と歴史を選んだものと思われます。

 本書は、当時のシカゴ大学関係者に送ったものと思われるバックレー自身による直筆書簡が複数綴じ込まれており、概ね1899年ごろに書かれています。本書についてのやり取りと思われるもので、本文中にも修正のための書き込みが複数見られます。書簡の内容自体について、店主は確認できていませんが、これ自体も研究素材として大変興味深いものです。

 バックレーは、チェンバレンやサトウといった日本研究の大家としては認識されておらず、国内の研究機関には彼の著作の所蔵を確認することはほとんどできません。しかしながら、シカゴ大学に遺されたバックレーのコレクション(とその先駆的業績)は、比較宗教学の先駆者による非常に質の高いものとして評価されており、むしろ国外においてより評価が進んでいる人物と言えます。当時入手しうる限りの日本、欧米の文献を駆使して、独自の視点で日本社会と歴史を分析しようとした大変ユニークな日本研究者、比較宗教学者として、バックレーとその著作は、日本国内の研究においても改めて注されるべきではないかと思われます。

冒頭の口絵写真。山田とあるが、宇治山田のことか。
目次。
  • 貼り付けられている自筆書簡。
  • 裏面にも書かれており、複数枚に及ぶ。
本文冒頭。
校正と思われる修正の書き込みが散見する。
当時のものと思われる簡易のクロス装丁。