書籍目録

『輝ける姫君(かぐや姫):竹取翁の娘』(日本昔噺シリーズ追加編)

ミラー / 小林永濯 / 長谷川武次郎

『輝ける姫君(かぐや姫):竹取翁の娘』(日本昔噺シリーズ追加編)

(平紙本) 明治22(1889)年 東京(弘文社)刊

Miller, Edward Rothesay (tr.) / Kobayashi, Eitaku (picture) / Hasegawa, Takejiro.

Princess Splendor, The Wood-cutter’s Daughter. (JAPANESE FAIRY TALE SERIES, EXTRA NO.)

Tokyo, The Kobunsha, 1889. <AB2023024>

Currently on loan.

Plain paper edition.

12.5 cm x 17.9 cm, 47 folded leaves, Original pictorial cards, bound in Japanese style, stored in the special box.
保存用の帙(後年作)が付属

Information

『竹取物語』の世界観を欧米の子どもたちに伝えた魅力的な作品、珍しい平紙本

 本書は、『竹取物語』『かぐや姫』などの名称で呼ばれる日本のむかし話を子ども向けのわかりやすい英語に翻訳した作品で、ちりめん本の精力的な発行活動で知られる長谷川武次郎が手がけた非常に厚みのある平紙本として、明治22年(1889年)に刊行されています。

 現在の日本でも非常によく親しまれている『竹取物語』『かぐや姫』は、本書が刊行される前年1888年に明治初期を代表する日本学者であるディキンズ(Frederick Victor Dickins, 1838 - 1915)によって『The old bamboo-hewer’s story: Taketori no okina no monogatari』(London: Trübner, 1888)と題して初めて英訳本が刊行されました。このディキンズによる英訳本と本書との関係は不明ですが、前者が注釈等も交えた大人向けの詳細な英語訳となっているのに対して、本書は幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師である小林永濯による挿絵を活かした子供向けの読み物となっています。

 本書の英訳を手掛けたのは、奥付によると「米国人 ミロル」となっておいて、表紙にも「E. Rothesay Miller」と記されていることから、アメリカの宣教師であったエドワード・ローゼイ・ミラー(Edward Rothesay Miller, 1843 - 1915)であることが分かります。ミラーはアメリカ長老教会の宣教師として1872年ごろに来日しており、当時のアメリカ長老教会には、ヘボンやトムソン、カロザースといった長谷川武次郎の『日本昔噺シリーズ』をはじめとした作品を手掛けていた面々が集っており、彼らを通じてミラーと長谷川との接点が生まれたのではないかと思われます。ミラーは来日後間も無くアメリカ長老教会を離れますが、日本での宣教師としての活動を夫妻で生涯にわたって続け、東京だけでなく、仙台や高知、盛岡と日本各地に自ら赴いて精力的な宣教活動を行ったことが知られています。本書奥付にある「米国人 ミロル」の住所には盛岡の住所が記されており、本書刊行当時にミラーが盛岡で活動していた事実と符合しています。

 ミラーによる翻訳は、巻末に「Translated into English for the Blessed Children in the far-away Home Lands by “Uncle Me”.」と記されていることからも分かるように、子どもを読者に想定した平易で分かりやすい英文で綴られています。『竹取物語』の広く知られているあらすじを概ね忠実に綴っているように見受けられ、かぐや姫が出した5つの難題である「仏の御石の鉢」(The Stone Bowl of Buddha)、「蓬莱の玉の枝」(The Jewel Branch of Horai)、「火鼠の裘」(The Fire Robe)、「龍の首の珠」(The Dragon Jewel)、「燕の産んだ子安貝」(The Shell in the Swallow’s Nest)という風に訳されています。こうしたミラーによる分かりやすい英訳文が小林永濯の魅力的な挿絵と合わせて綴られており、『竹取物語』の幻想的な世界観が日本のことを知らない子どもでも存分に楽しめる作品に仕上げられています。

 本書は、長谷川武次郎のちりめん本の中でも特に有名な「日本昔噺シリーズ」(Japanese Fairy Tale Series)の一つとして刊行されたようで、本書もそのシリーズの一部であることが本書表紙に記されており、巻末にはシリーズの一覧も掲載されています。ただし、同シリーズ収録作品に通常見られるようなシリーズ番号が振られておらず、実際には独立した作品として刊行されたものと考えられています。同シリーズ収録の他の作品と比べて、その分量が著しく多いことがその原因の一つではないかと思われますが、確かなことはわかっていません。

 ミラーが英訳を手掛けた長谷川版『竹取物語』は、本書と同じ1889年にちりめん本としても刊行されており、表紙の意匠もやや異なるものに変更されています。このちりめん本版には大きさが微妙に異なる異刷が存在することが知られており、また1895年には再版も刊行されるなど、ちりめん本にしては大部の作品ながらも好評を博したことがうかがえます。長谷川による『竹取物語』は、現在でも非常に人気のある作品の一つと言えますが、通常の「日本昔噺シリーズ」の作品と比べても入手がやや困難で、特に状態の良いものは希少となっています。なかでも、ちりめん本とは異なる意匠を採用した珍しい表紙を採用した平紙本は大変珍しい版となっており、本書のように状態の良いものは特に貴重と言えます。