書籍目録

『月光十二景:1909年カレンダー』

長谷川武次郎

『月光十二景:1909年カレンダー』

(ちりめん本) 1908 (明治四十一)年 東京刊

Hasegawa, T(akejiro).

Twelve Scenes by Moonlight: Calendar for 1909.

Tokyo, T. Hasegawa, 1908. <AB2023015>

Reserved

(crepe paper book)

13.8 cm x 13.8 cm(Diamond format), 7 folded crepe paper folded sheets including the covers(i.e. 14 pages), bound in Japanese style, Single silk tied.

Information

月景をテーマにした美しいちりめん本カレンダー

 この大変愛らしい菱形のちりめん本カレンダーは、長谷川武次郎が数多く手がけたちりめん本カレンダーの中でも他に類例がほとんど確認できない大変珍しいものです。1909年用のカレンダーとして制作されたもので、各月が1枚の作品で描かれた合計12枚と表と裏表紙の2枚を合わせた全14作品が描かれています。いずれも月夜に映える四季折々の自然の風景や人々を描いたもので、月景ならではの静けさと落ち着きを携えた趣あるちりめん本となっています。菱形という変形のちりめん本であることも大きな特徴で、この変形図面を活かした構図で描かれた作品は単独でも、見開きでも大変魅力的な出来栄えとなっています。

 長谷川武次郎による「月景(moonlight scene)」を題材にしたカレンダーは、本作品より後年の1913年用カレンダー(山村コレクション108番)が本作品と同じく珍しい菱形ちりめん本であることが確認できますが、これ以外の類例は少なくとも店主の知る限りでは見つかりません。また、より後年の1928年用カレンダー(同コレクション178番)や1934年用カレンダー(同193番)が通常の形状のちりめん本カレンダーとして作成されていることを確認できますが、本書のような菱形のものは後年の作品には確認することができません。長谷川によるちりめん本カレンダーは膨大な数が存在しており、その全貌がいまだに明らかになっていないため断言することは難しいですが、この美しい菱形のちりめん本カレンダーは、月景を主題とした最初の作品である可能性もあるのではないかと思われます。

 いずれにしましても、月景という静けさと落ち着きを持った珍しい主題のちりめん本カレンダーである本書は、長谷川がちりめん本作成に寄せた美意識の知られざる側面を示す作品として、大変魅力的、かつ重要な作品といえます。なお、本書裏面には奥付けとして、1908年(明治41年)2月に刊行された旨が記されています。