書籍目録

『イエズス会創始者にして偉大なる聖ロヨラとインドの使徒聖ザビエル、ならびにマストリリ神父の称賛すべき生涯:イグナシオの息子たる数多くの神父たちの伝記を添えて』

ニーレンベルグ

『イエズス会創始者にして偉大なる聖ロヨラとインドの使徒聖ザビエル、ならびにマストリリ神父の称賛すべき生涯:イグナシオの息子たる数多くの神父たちの伝記を添えて』

初版 1645年 マドリッド刊

Nieremberg, Juan Eusebio.

HONOR DEL GRAN PATRIARCA SAN IGNACIO DE LOYOLA, FVNDADORDELA COMPAÑÍA DE IESVS, En que se propone su vida, y la de su Dicipulo EL APOSTOL DE LAS INDIAS S. FRANCISCO XAVIER. Con la milagrosa Historia del admirable Padre MARCEL MASTRILLI, ...

Madrid, Maria de Quiñones, 1645. <AB2022263>

Sold

First edition.

Folio (20.2 cm x 29.6 cm), Title., 5 leaves, pp.1-674, 677(i.e.675), 676-784, 6 leaves(index), Later (19th Century?) full brown leather, roughly restored.
装丁のヒンジ部分に補修(それほど秀逸でない)跡あるが、本体の状態は概ね良好な状態。小口は三方とも朱染。見返しに旧蔵者の蔵書票あり。 [Laures: 1645-1-438-297] [Sommervogel, Vol. V: 1746] [Roldán-Figueroa (2021): 278]

Information

数多くの日本で活躍、殉教したイエズス会宣教師の記録を収録した当時を代表する伝記集成

本書は、イエズス会の創立者で、当時すでに聖人に列せられていたイグナシウス・ロヨラと、同会によるアジア宣教の礎を築いたフランシスコ・ザビエル、そしてザビエルに感銘を受けてアジア宣教を志し1637年に長崎で殉教した殉教者マストリリ(Marcello Fransisco Mastrilli, 1603-1637)の伝記を中心に、それ以外の著名な数多くのイエズス会士の伝記を収録した作品です。数多くのイエズス会神父たちの伝記を綴ることによって、創立から100年を越えてその存在感を確固たるものにしつつあったイエズス会の偉業を広く知らしめることを目的とした作品で、フォリオ判の立派な書物として刊行されています。

 本書の著者であるニーレンベルク(Juan Eusebio Nieremberg, 1595 - 1658)は、その名から分かるようにドイツ人を両親を持ち、早くからアルカラやサラマンカで教会法や諸学問を熱心に学び1614年にイエズス会に入会した人物です。マドリッドで聖書学の教鞭を生涯にわたって取る傍らで、優れた文才をふるって多くの作品を残したことで知られており、彼の著作は同時代のみならず後世にまで大きな影響を与えたと言われています。本書は彼の主著の一つと目されているもので、本書を含めて4つの作品で構成されているイエズス会士の伝記集成で、この壮大な試みは後年に別の著者によって引き継がれて、最終巻は1736年に刊行され全6作品(全9冊)にまで至っています。この壮大な伝記集成の企画において、イエズス会創立者であるロヨラと、アジア宣教の礎を築いたザビエルという同会における最重要人物二人の伝記を扱い、かつ日本において活躍した多くのイエズス会士の伝記を収録しているという点で最も日本との関係が深い作品が本書です。

 本書の前半の主題となるロヨラとザビエルについては、本書刊行以前にそれぞれすでに優れた伝記作品が刊行されており、いずれも版を重ねたり、多くの言語に翻訳されて親しまれていました。ニーレンベルクは先行する伝記作品や関連資料を入念に読み込んでいたようで、本文中の至る所に参照した文献や引用文献の情報が明示されています。本書における両者の伝記は、このように先行作品を大いに参考にしていますが、その一方でそれらとは異なるアプローチを用いて執筆されていることが特徴的で、伝記作品として時系列に沿って生涯をたどりつつも、両者にまつわる奇跡譚や、その優れた徳を示すような特筆すべきエピソードを記すことに、より大きな力点が置かれているように見受けられます。また、伝記作品としては後年の作品であることを活かして、生前の記述だけでなくその没後から執筆当時に至るまでに生じた両者に関する出来事(列福や列聖の過程や後年に与えた影響など)も盛り込まれているのも、本書ならではの特徴と言えそうです。さらに、トマス・アクィナスや、プラトンのイデア論、理想国家としての共和国論とロヨラの生涯との深い関わりに焦点を当てて論じたユニークな付論(pp.132-)も本書には収録されています。ロヨラに続いて掲載されているザビエルの伝記(pp.167-)は、当然ながら彼のアジア宣教にまつわる記述に主眼が置かれていますが、やはりここでも単に時系列に沿って出来事を記すのではなく、宣教各地で生じた様々な出来事を並列して記しながら、彼の優れた徳や功績を描き出そうとしています。

 ロヨラとザビエルの伝記に続いて記されているのが、1637年に長崎で殉教したマストリリの伝記(pp.224-)です。マストリリは、ナポリのイエズス会学舎の聖堂工事に従事していた際に不慮の事故で重傷を負い、一時は瀕死の状態にまで陥りましたが、病床でザビエルの幻影を見てから劇的に回復するという体験を契機に、アジア宣教にその生涯を投じることを決意したと言われている人物です。すでに迫害が激化していた1630年代半ばの日本にあえてマストリリが渡航を試みたのは、イエズス会日本管区の代理管区長であったフェレイラ(Cristóvão Ferreira, ? - 1650)の棄教事件という衝撃的な事件の真相確認という大きな目的があったことが知られています。真相確認のために派遣された宣教団の代表としてマストリリは日本へと向かい、最初の航海は失敗したものの、多くの者が来日を諦める中2度目の航海でマニラを経てただ一人来日を果たしてして、来日直後に捕縛され1637年に長崎で殉教を遂げました。彼の殉教は直ちにヨーロッパに伝えられ、1640年前後に彼の生涯を讃える伝記作品が数多く出版されるほどの大きな反響を呼び起こしています。本書において、ロヨラとザビエルというイエズス会を象徴する聖人の伝記に続いて、現在ではあまり知られていないと言えるマストリリの伝記が掲載されているのは、こうした当時のマストリリに対する熱狂的な関心の高まりを背景にしているものと思われます。マストリリの伝記は、ロヨラやザビエルの伝記とはややその趣が異なっており、できるだけ詳細に彼の生涯を時系列に沿って記す執筆方針がとられているように見受けられます。そのため、日本への出発(pp.320-)から長崎での殉教に至るまでの出来事や、当時の日本の状況が時系列に沿って詳細に記されており、日本関係記事としても興味深い記述となっています。

 マストリリの伝記に続いては、彼に先んじて殉教を果たした数多くのイエズス会士が紹介(pp.341-)されており、ここでは「最初の日本での殉教者」とされているパウロ・三木(S. Paulo Miqui)をはじめとした3人の日本の信徒の記録が冒頭に掲載されています。また、天正遣欧使節を引率したことで知られるメスキータの記事も彼らに続いて掲載されており、彼自身は殉教したわけではありませんが、迫害によって生じた困難によって結果的に命を落としたことから取り上げられたものと思われます。また、1619年に長崎で火刑によって殉教したレオナルド・木村(H. Leonardo Quimura)や、彼の親戚でいわゆる元和の大殉教で落命したセバスチャン・木村(P. Sebastian Quimura)、同じく元和の大殉教で落命したスピノラ(P. Carlos Espinola)、天正遣欧使節の一人であった中浦ジュリアン(Julian Nacaura)など、数多くの日本で活躍したイエズス会士の記事を確認することができます。

 これらの記述に続いて、さらに多くのイエズス会士の伝記が本書の後半(pp.365-)には掲載されており、ここでも日本と関係の深い人物の伝記を数多く読むことができます。日本の窮状を教皇に訴えるために信徒の証言を集めた「コーロス徴収文書」の作成者と知られるコーロス(Mateo de Couros, pp.380-)や、中浦ジュリアンと共に殉教したフェルナンデス(Juan Fernandez, Predicador Apostolico del Iapon, pp.584-)、日本宣教初期のイエズス会における悲願であった京都における宣教許可を将軍足利義輝から得ることに成功したヴィレラ(Gaspar de Villela, pp.642-)、天草のコレジオにおいて『講義要綱』を著すなど日本における教育活動に尽力したゴメス(Pedro Gomez, pp.666-)、不朽の歴史書『日本史』の著者として現在でも著名なフロイス(Luis Froes, pp.679-)、日本司教を務めたセルケイラ(Luis Cerqueira, pp.694-)、平戸や九州地方において初期の宣教に尽力したガーゴ(Baltasar Gago, pp.697-)、西洋医学の日本への先駆的導入や、天草をはじめとした九州各地の宣教を生涯に割って精力的に展開したアルメイダ(Luis Almeida, pp.718-)等々、多くの興味深い人物の伝記が掲載されており、それぞれの人物が活動した当時の日本各地の状況をこれらの記述から知ることもできます。興味深い日本関係記事として読むこともできるこの後半部分は、どのような人物が、どのように取り上げられているのか、あるいはどのような人物が逆に取り上げられていないのか、という執筆に際しての方針を同時代の他の著作とも比較しながら読むことで、より豊かな情報を引き出すことができる非常に貴重な記事であると思われます。

 当時の優れた著者によって執筆された本書は、本書に続いて刊行された他の伝記作品と合わせて広く、長く読まれたものと思われ、1649年には再版もなされています。しかしながら、現在の古書市場において本書が出現することは非常に珍しく、国内の研究機関における所蔵も限られたものになってしまっています。その内容の質の高さと希少性の双方において、本書は非常に価値ある作品であると言えるでしょう。

背表紙のヒンジ部に(あまり秀逸でない)補修跡があるが、書物としての状態は良好。
見返しには旧蔵者の蔵書票が貼られている。ノドも和紙による(あまり秀逸でない)補修跡がある。
タイトルページ。ほぼ同じ意匠で刊行年だけを1649年に変更した再版も存在しており、本書がよく読まれたことを示している。
冒頭の献辞部分。
ニーレンブルクが本書執筆に際して参照したであろう文献(のごく一部)がすでに多数列挙されている。
本書で扱われるイエズス会士の一覧。
上掲続きと、「ロヨラ伝」冒頭箇所。
時間軸に沿ってその生涯をたどりつつも、両者にまつわる奇跡譚や、その優れた徳を示すような特筆すべきエピソードを記すことに、より力点が置かれているように見受けられる。
ロヨラ伝末尾に掲載される彼を讃える詩。
トマス・アクィナスや、プラトンのイデア論、理想国家としての共和国論とロヨラの生涯との深い関わりに焦点を当てて論じたユニークな付論
「ザビエル伝」冒頭箇所。
ザビエルについては、当然ながら日本をはじめとしたアジア宣教に関する記述が中心となっている。
やはりここでも単に時系列に沿って出来事を記すのではなく、宣教各地で生じた様々な出来事を並列して記しながら、彼の優れた徳や功績を描き出そうとしている。
ロヨラとザビエルの伝記に続いて記されているのが、1637年に長崎で殉教したマストリリの伝記。
マストリリが、すでに迫害が激化していた1630年代半ばの日本にあえて渡航を試みたのは、イエズス会日本管区の代理管区長であったフェレイラ(Cristóvão Ferreira, ? - 1650)の棄教事件があった。
マストリリの伝記は、日本への出発(pp.320-)から長崎での殉教に至るまでの出来事や、当時の日本の状況が時系列に沿って詳細に記されており、日本関係記事としても興味深い。
日本への入国と捕縛に至るまでの経緯も詳細に記されている。
マストリリの長崎における殉教は、直ちにヨーロッパに伝えられ、1640年前後に彼の生涯を讃える伝記作品が数多く出版されるほどの反響を呼び起こした。
マストリリの伝記に続いては、彼に先んじて殉教を果たした数多くのイエズス会士が紹介(pp.341-)されており、ここでは「最初の日本での殉教者」とされているパウロ・三木(S. Paulo Miqui)をはじめとした3人の日本の信徒の記録が冒頭に掲載されている。
天正遣欧使節を引率したことで知られるメスキータの記事も彼らに続いて掲載されており、彼自身は殉教したわけではないが、迫害によって生じた困難によって結果的に命を落としたことから取り上げられたものと思われる。
いわゆる元和の大殉教で落命したセバスチャン・木村(P. Sebastian Quimura)、同じく元和の大殉教で落命したスピノラ(P. Carlos Espinola)など、数多くの日本で活躍したイエズス会士の記事を確認することができる。
天正遣欧使節の一人であった中浦ジュリアン(Julian Nacaura)も取り上げられている。
これらの記述に続いてさらに多くのイエズス会士の伝記が本書の後半(pp.365-)には掲載されており、ここでも日本と関係の深い人物の伝記を数多く読むことができる。
日本の窮状を教皇に訴えるために信徒の証言を集めた「コーロス徴収文書」の作成者と知られるコーロス(Mateo de Couros, pp.380-)
中浦ジュリアンと共に殉教したフェルナンデス(Juan Fernandez, Predicador Apostolico del Iapon, pp.584-)
日本宣教初期のイエズス会における悲願であった京都における宣教許可を将軍足利義輝から得ることに成功したヴィレラ(Gaspar de Villela, pp.642-)
天草のコレジオにおいて『講義要綱』を著すなど日本における教育活動に尽力したゴメス(Pedro Gomez, pp.666-)
不朽の歴史書『日本史』の著者として現在でも著名なフロイス(Luis Froes, pp.679-)
日本司教を務めたセルケイラ(Luis Cerqueira, pp.694-)
平戸や九州地方において初期の宣教に尽力したガーゴ(Baltasar Gago, pp.697-)
西洋医学の日本への先駆的導入や、天草をはじめとした九州各地の宣教を生涯に割って精力的に展開したアルメイダ(Luis Almeida, pp.718-)
巻末には索引も備えられている。
小口は三方とも朱染が施されている。